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渋谷の“ど真ん中”に水族館⁉︎ Vision Proの新たなユースケースを示す「404 AQUQARIUM」。リアルとデジタルがシームレスにつながる世界へ

著者: 佐藤彰紀

渋谷の“ど真ん中”に水族館⁉︎ Vision Proの新たなユースケースを示す「404 AQUQARIUM」。リアルとデジタルがシームレスにつながる世界へ

2024年12月、Apple Vision Proを活用する新たな事例創出の一環として、コンテンツ「404 AQUARIUM」のメディア・事業者向け公開が始まった。

404 AQUARIUMは、商業施設渋谷サクラステージ内の「404 Not Found」にある大型LEDディスプレイを用いたコンテンツだ。LEDディスプレイに表示されていた魚たちが、Vision Proを被ると、目の前を泳ぎ始める。現実のディスプレイと空間が溶けあう新感覚のコンテンツとなっている。

本コンテンツを企画・制作したSTYLYとMESONは、両社ともに空間コンピューティング事業を推進している。本コンテンツの内容やVision Proについて、同業他社同士がタッグを組んだ狙いなどをMESON社のプランナーの清水岳氏と、同社ディレクターの秦崇仁氏に話を伺った。

新たな顧客体験の“原型”「404 AQUARIUM」を体験

Vision Proを装着し、指をタップしてコンテンツを開始。すると、最初はディスプレイ上に海のような背景が広がり、魚が泳ぎ出す。数秒経つと、ディスプレイの下辺が拡張するような形で、“海”が筆者に迫ってきた。実際には境界線が迫ってきており、この境界は水槽空間と現実空間の境目だ。ビルの一角に立っていたはずが、いつの間にか“AQUARIUM”の中に放り込まれたような気分になる。

会場に設置された巨大湾曲ディスプレイ。水槽を模したアニメーションが映っている。
迫ってくる境界線。空間コンピューティングとは、仮想空間に没頭することだけではなく、現実と仮想をシームレスに融合させることなのだと実感する。
現実世界の環境光が魚のオプジェクトに反映されるため、実在感は高い。それが実現できるのは、Vision Proの高い処理能力があるからこそだ。

しばらく魚や珊瑚を優雅に眺めていると、不穏なBGMが聞こえてきた。海の奥のほうに、サメが見える。

サメは、ディスプレイの幅いっぱいを使って往来しながら近づいてくる。そして最後には、ディスプレイを飛び出して筆者に迫ってきた。ディスプレイと空間が融合させたコンテンツの締めにふさわしい迫力だ。蛍光灯の光を浴びるサメの肌を観察すると、テロテロとした質感で、まさに水族館で生き物を見ているときのような生々しさがある。

体験者に飛び込んでくるサメ。ディスプレイからすごいスピードで迫ってくるので迫力満点だ。

テーマは水族館ではなく、「未来の購買体験」だ。

404 AQUARIUMは一般公開されているイベントではないので、事業者、メディア関係者しか体験することはできないが、公式動画がYouTubeにアップされている。気になる方はぜひ動画を見てほしい。

ここまで読んで、「404 AQUARIUM」は面白いコンテンツである反面、今までのAR/VRコンテンツやVision Proコンテンツと何が違うのかわからないという方もいるかもしれない。しかし、404 AQUARIUMが本当に表現しているのは、空間コンピューティングが浸透した未来の購買体験というコンセプトだ。

個人がVision Proをつけて生活する未来を考えてみよう。商業施設に出かけて店頭に設置されたディスプレイを見たとき、「ディスプレイと空間をつないだコンテンツ」を再生できれば、優秀な広告になりうる。

パーソナライズが進んだ未来には、視聴する本人が“必要な情報”を提供することもできるだろう。つまりこのコンセプトは、商業施設にとっても、利用する個人にとっても、より良い未来を見せてくれるものなのだ。

「404 AQUARIUM」制作の背景、開発者が考えるVision Proの今後の展開

現実として、Vision Proは広く普及しているとは言いがたい。そんな中で、新コンセプトを描いたこのコンテンツとApple Vision Proは今後どのように広がっていくのか、本コンテンツの制作に携わったMESON社プランナーの清水岳氏と同社ディレクターの秦崇仁氏に話を伺った。

取材に応じていただいた、株式会社MESONのプランナーの清水岳氏(左)と同社ディレクターの秦崇仁氏(右)。

──MESONさんとSTYLYさんはどちらもVision Proを使った事業を展開されています。両社は競合他社とも言える存在ですが、どういった経緯でタッグを組んだのでしょうか。

空間コンピューティングの世界はまだまだ発展途上なので、業界内で小さなパイを奪い合うよりも手を取り合って成長していくことが大切だと考えています。今回は、MESONのUXデザインを評価していただき、STYLYさんからお声がけをいただきました。

──今回見せていただいた、ディスプレイと空間コンピューティングをシームレスにつないだコンテンツ「404 AQUARIUM」はどんな意図で作られた作品なのでしょうか。

この作品は、空間コンピューティングの新たなユースケースの創出を目的として制作しています。商業施設での活用を想定し、ディスプレイを起点として空間コンピューティングを活用する方向で開発を進めました。

──「404 AQUARIUM」はユースケースの開発で作られたのですね。では、実際に商業施設で導入するとなった場合、どのような課題がありますか。

個人がVision Proをつけて街中を歩くシーンは、今はまだほとんど見られません。現時点でできることは、商業施設にVision Proを貸出して体験してもらうことです。そんな状況の中で、高価なVision Proをたくさん用意するのは一つのハードルです。また、Vision Proはパーソナライズが重要なデバイスなので、アテンド人員の確保や教育などのリソースも負担となります。

──おっしゃるとおり、Vision Proは使用前に個々人がキャリブレーションを行う必要がありますが「404 AQUARIUM」では最低限の設定だけですぐに体験ができました。これはどんな工夫があるのでしょうか。

今回の体験では、アプリをこちらで起動し、コンテンツをすぐに体験できる状態でVision Proをお渡ししています。また、「404 AQUARIUM」自体も、アイトラッキングを必要としないコンテンツとして開発しています。これによってキャリブレーションの手間が発生せず、最低限のセッティングさえ行えばすぐにお試しいただけます。

──Vision Pro以外にもXRデバイスは存在しますが、「404 AQUARIUM」ではなぜVision Proを採用したのでしょうか。

Vision Proはその他のデバイスと比べると映像の精細さ、環境光表現によってできることの幅が広いです。コンテンツの最後で出てくるサメはより環境光を反映しやすいように光沢のあるテクスチャを採用しており、Vision Proならではの光表現が演出できました。

現実のサメのテクスチャを忠実に再現するわけではなく、あえて光を反射しやすくしている。そのため、スクリーンに表示されている青色がサメに映り込んでいる。Vision Proだからできる、環境光表現を引き出すための工夫が見て取れる。

また、2024年に発売されたばかりのデバイスで注目度も高いので、発注者から「Vision Proを使ってやりたい」という声もよく聞きます。社内の開発案件でもVision Proはかなり増えていて、すべての開発メンバーがVision Pro開発に携わった経験があります。

──Vision Proを使った空間コンピューティングは、今後どうなっていくと思いますか。もしくはどうしていきたいと考えていますか。

Vision Proは、今ある現実をさらに拡張することができるデバイスだと考えています。たとえば家族でテレビCMをみているとき、Vision Proを装着している人がより詳しくみたいと思えば、CMの商品をよりリッチに体験することも考えられますね。こうした現実世界、体験の拡張がVision Pro活用の先にあると思っています。

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著者プロフィール

佐藤彰紀

佐藤彰紀

『Mac Fan』編集部所属。ECサイト運営などの業務を経て編集部へ。好きなものは北海道と競技ダンスとゲーム。最近はXR分野に興味あり。

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