Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

『葬送のフリーレン』がVision Proにやってきた! アプリ「SuunyTune」への“登場”はなぜ実現したのか。そして、小学館が見据えるXRの未来とは

著者: 山田井ユウキ

本ページはアフィリエイト広告を利用しています

『葬送のフリーレン』がVision Proにやってきた! アプリ「SuunyTune」への“登場”はなぜ実現したのか。そして、小学館が見据えるXRの未来とは

画像●MESON

Vision Pro向けの天気体感アプリ「SunnyTune」。スノードームのような空間に現実世界と連動した天気が映し出され、その移り変わりを楽しめるアプリだ。そんなSunnyTuneに、2024年10月から「Cover」機能が追加された。Coverを使用すると、SunnyTune内の世界観を変更できる。漫画やアニメ、ゲームなどの各種IP(Intellectual Property:知的財産)とのコラボレーションを想定しているという。

SunnyTune: Sensory Weather App

【開発】
MESON
【価格】
無料(アプリ内課金あり)
天気体感アプリ「SunnyTune」。画像●MESON

今回、その第一弾として、小学館の人気漫画作品『葬送のフリーレン』よりフリーレンなどのキャラクターが登場。天気に合わせたリアクションをとってくれる。

Coverとして『葬送のフリーレン』のテーマが提供された。

「フリーレン」ファン必見の新機能はどのようにして実現したのか。そして、なぜVision Pro向けだったのか。小学館でXR領域の事業を手がけるXR事業推進室室長・和田裕樹氏に話を聞いた。

XR領域を中心にIPを活用した新規ビジネスを仕掛ける、小学館の新設部署

──まず、「XR事業推進室」という組織について教えていただけますか。

小学館は出版社なので、もともとは紙の本がベースにあるわけですが、現在はそれ以外にもさまざまなニーズが出てきています。そして、今後さらに必要性が増すだろうと考えています。そんな中、VRやAR、MRなどXRと呼ばれる領域を手がけていくことを目的に設立されたのがXR事業推進室です。もちろんそれだけでなく、小学館がカバーできていない領域の新ビジネスも担当していきます。設立が2022年なので、まだ3年目の若い部署ですね。

──基本的にはIPを活用していくのでしょうか。

そうですね。コミックに代表されるさまざまなIPがありますので、それらをかけ合わせながら新しいものを生み出していくのが我々のミッションとなります。

──和田さんのご経歴は?

コロコロコミック、少年サンデー、マンガワンなど、漫画誌や漫画アプリで編集をしていました。その後、マンガワンの編集長を経て、XR事業推進室の室長を務めています。

株式会社小学館 XR事業推進室室長の和田裕樹氏。

Vision Pro用アプリ「SunnyTune」と『葬送のフリーレン』との好相性

──では、『SunnyTune』に「フリーレン」が登場するに至った経緯を教えてください。

MESONさんからご提案をいただいたのが最初のきっかけです。もともとMESONさんとのコミュニケーションがあったので、話はスムースでしたね。当然、作者の山田鐘人先生とアベツカサ先生、そして担当編集者にもご理解をいただくフェーズを挟んでいます。そのうえでXR事業推進室が主体となり、小学館集英社プロダクション協力のもと、制作を進めていきました。フリーレンの物語は旅をしながら展開されるものですから、劇中にはさまざまな土地や天気が描かれています。そこに、天気アプリであるSunnyTuneとの親和性があったのかなと思います。

──SunnyTuneでは、3D映像のフリーレンが、気象に合わせてさまざまな動きを見せてくれます。3Dモデルを用意するのは、かなりのコストがかかりそうですが。

実は、フリーレンの3Dモデルはすでに制作済みのものがあったんです。小学館では、2022年からメタバースプロジェクトとして「S-PACE(スペース)」というサービスを提供しています。S-PACEはWebブラウザからアクセスできる仮想空間で、その中に小学館が持つIPのキャラクターが登場します。『葬送のフリーレン』のミニゲームも用意されており、そこで使用した3DのフリーレンをSunnyTuneにも流用した形です。

小学館が展開するメタバースプロジェクトS -Pace

──もともと3Dモデルがあったからこそ、今回の取り組みもスムースに実現できたわけですね。

そうですね。フリーレンをはじめとする既存の3Dモデルを活用する企画は、我々としても何か実現したいと思っていたので。ご提案いただけたときは渡りに船でした。

──そもそも、メタバース空間のS-PACEはどのような狙いで始められたのでしょう。

基本的には営利目的というよりは、ファンの方々に楽しんでほしいという思いで制作しました。リアルイベントだと、時間と距離の問題でお越しいただけない方がどうしても出てきます。その点、メタバースなら住んでいる場所を問いませんから。Webブラウザから気軽にアクセスして楽しんでいただけます。

Vision Proの普及を見据えた早期参入

──さまざまなXRデバイスが存在する中、Vision Proをプラットフォームに選ぶメリットを教えてください。

以前、MESONからVision Proをお借りして体験したとき、そのクオリティに驚いたんです。XR・VR系デバイスって、なかには長時間使っていると酔ってしまうようなものもありますが、Vision Proはそれらと一線を画すレベルのデバイスでした。これなら完成度の高いコンテンツを出せるだろうと思ったのです。また、Vision Proはまだまだ発売されたばかりでコンテンツが多くないですよね。ほかの出版社やコンテンツメーカーに先駆けて小学館のコンテンツを提供できれば、今後Vision Proが普及していくときに、さまざまな点で有利になると考えました。

──Vision Proに将来性を感じたということでしょうか。

そうです。今はまだ価格も高く、デバイスも大きくて重いため普及しているとはいえませんが、今後Vision Proが小型化して価格も下がっていけば、世の中に普及する可能性は十分あると思っています。一般の方がVision Proを購入してXRの世界に入ってきたとき、その中に自分たちの好きなコンテンツがあって、好きなキャラクターがいるという状態をつくっておきたいんです。

それに早くから参入することで、技術的にもアドバンテージがとれます。今回、フリーレンをSunnyTuneに登場させるにあたって、多くの確認事項を検討していきました。動きひとつをとっても、ちゃんと“フリーレンらしさ”が出ているか、ファンの方が見て違和感がないか、SunnyTuneの世界観とフリーレンの世界観がマッチしているかなどをチェックしています。中には議論になったポイントもありました。たとえば「フリーレンは雨のとき、傘をさすのか?」です。

その“キャラクターらしさ”を追及。夜、フリーレンはフェルンの膝枕で寝転ぶこともある。

議論を重ねた「フリーレンは傘をさすのか?」問題

──いわれてみれば原作でフリーレンが傘をさしているのは見たことがないような⋯。

でも、SunnyTuneは天気アプリなので、雨が降ることも当然ありますよね。そのとき、どんな傘ならフリーレンがさしていても違和感がないか、あるいは物理的な傘ではなく、作品の特性から魔法で防ぐ演出にしてもよいか?など検討していきました。最終的にフリーレンは傘をさすことになったのですが、じゃあ傘をさすときはどんな動きをするのか…と。MESONさんとも細かく微調整をしていきました。

天気に応じて、さまざまなアクションをみせるフリーレン。彼女と旅をしているような気持ちになれる。

──だからこそ、読者が違和感を覚えない“フリーレンらしい”動きになっているんですね。

どういう動きならファンがイメージするフリーレンと乖離がないか、かなり慎重に調整しました。男性的な動作と女性的な動作は違うし、女性的な動作にもいろいろあります。性格や身長などによっても変わってくるでしょう。そこにリアリティをもたせることが大切なんです。

こうした細かい調整のやり方や、XR空間に落とし込む際にどんな項目をチェックすべきなのかといったノウハウは、今回の取り組みでかなり蓄積できたと思います。

海外ニーズも見据えた小学館のXR戦略

──IPを活用したXR領域への展開の今後についてはどうお考えですか。

現在、IPの活用についてはグローバル化が大きなテーマになっています。今回のフリーレンの取り組みにしても、日本のファンだけでなく海外のファンを意識している部分があります。SunnyTuneでのフリーレンは声を発しませんが、だからこそ国境を越えて受け入れられるのではないでしょうか。

──フリーレンだけでなく、ほかのIPの活用もありえますか?

もちろんです。まだXR領域はビジネスにするには市場が小さすぎるのですが、一方で今後デバイスが普及するにつれて市場が拡大するだろうという予想も出ています。小学館は莫大な数のIPを持っているので、前向きに活用を考えたいですね。

──S-PACEという自社のメタバース空間もあるわけですし。

S-PACEでは、2024年12月4日から「葬送のフリーレン ONLINE FESTIVAL」を開催します。ここでしか見られない展示、ここでしか味わえない体験ができる参加型イベントです。ぜひ楽しんでいただければと思います。

2024年12月4日から2025年5月31日まで開催される「葬送のフリーレン ONLINE FESTIVAL」。YouTubeではプロモーションビデオも公開されている。
葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

葬送のフリーレン(1) (少年サンデーコミックス)

山田鐘人, アベツカサ
583円(01/26 03:14時点)
発売日: 2020/08/18
Amazonの情報を掲載しています

おすすめの記事

著者プロフィール

山田井ユウキ

山田井ユウキ

2001年より「マルコ」名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちに、いつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。

この著者の記事一覧