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iPhoneやMacのダークモードは“疲れ目の予防”になるのか? 重要なのは周辺環境。Night Shiftも賢く活用しよう

著者: 牧野武文

iPhoneやMacのダークモードは“疲れ目の予防”になるのか? 重要なのは周辺環境。Night Shiftも賢く活用しよう

※この記事は『Mac Fan 2019年12月号』に掲載されたものです。

macOS CatalinaやiOS 13に搭載されているダークモード。画面の配色を黒基調に変更する印象的な新しい表示スタイルで、目にも優しく、作業への集中度を高めてくれる。

しかし、本当にダークモードは疲れ目の予防になるのか。これが今回の疑問だ。

ダークモードの意義。有機EL(OLED)ディスプレイでは節電効果があるが…

macOS CatalinaやiOS 13には、ダークモードが搭載されている。従来の白地に黒文字ではなく、逆の黒地に白文字になるモードで、本来は有機ELディスプレイ(OLED)に使われるものだ。

macOS Catalinaでは「システム環境設定」の[一般]→[外観モード]からダークモードを選択することができる。[自動]にすると、設定した時間帯によって、ライトモードとダークモードを切り替えてくれる。カーナビのような感覚だ。

OLEDは、画素の一つ一つが自発光する有機EL素子の集まりからできている。そのため、黒(点灯しない)部分が増えると、それだけ消費電力が抑えられる。液晶ディスプレイの場合は、バックライトを点灯し、それを液晶シャッターで透過させる方式なので、黒部分が増えても節電にはならない。

黒い部分を多くするダークモードでは、OLEDを使っている場合にのみ、節電やバッテリの持ち時間を伸ばす効果がある。また、自発光するOLEDの場合、同じ画像を表示させておくと、その残像のようなものが残ってしまう「焼き付き」が避けられない。ダークモードはそれを防ぐ効果もある。

つまり、OELDを搭載した最近のiPhoneならばバッテリ駆動時間を伸ばす効果などが見込まれるものの、未だ液晶ディスプレイを搭載するiPadやMacなどでは現時点では実利に乏しい。しかし、それでも使っている人は多い。理由の第1は「かっこいい」。第2は「目に優しい」ではないだろうか。かっこいいかどうかは人の好みによるものなので、ライトモードとダークモードの好きなほうを使えばいいのだが、「目に優しい」というのは根拠がある話なのだろうか。ライトモードでも輝度を落とせば同じことなのではないだろうか。そこで調べてみた。

日本のオフィスはスーパーの店頭レベルの明るさ。現代のワークスタイルには“過多”かもしれない

目に優しいとは、疲れ目を起こさないということだ。疲れ目は眼球周りの筋肉を酷使することにより起こる。焦点や絞りを激しく変えるような使い方が一番よくない。そのため、デスクの上とディスプレイの明るさを揃えておくことが理想的だった。日常の業務は、ディスプレイと紙資料を交互に見ることが多いからだ。プリントされた売上集計をスプレッドシートに入力していくなどという作業は普通にある。そのため、JISによるオフィスの推奨照度は750ルクスというかなり明るいものになっている。これはスーパーの店頭と同じレベルでかなり明るい。

JISによるさまざまな環境下での推奨照度。オフィスは一般に750ルクスだが、これはスーパーの店頭と同じ明るさ。ディスプレイの中だけで仕事が完結するようになっている今、オフィスも電子計算機室と同じ500ルクス程度でいいのではないだろうか。

ここまで明るくしなければならない理由は、事務仕事の基本が、反射光である紙資料を見ることだからだ。しかし、現在では紙資料を見ることはめっきり少なくなっている。

ペーパレス化が進んで従来の紙資料はデータ化されたり、PDF化され、ディスプレイだけを見て、仕事が完結するようになってきた。もちろん、仕事の仕方は職場によって、業務によって異なるので一概に言うことはできないが、少なくともMacだけで仕事が完結する人は、750ルクスという明るい照明は不要だろう。JISの推奨基準では、電子計算機室、書斎(VDT作業)が500ルクスとなので、それで十分なはずだ。ただ、仮に500ルクスになっても、まだ明るいと感じる人がいるだろう。

明るいほうが仕事が捗る? 照明と知的生産性に関する研究によると

この10年で働き方のスタイルが大きく変わったのに、オフィスの照度を明るいままにしているのは、ひとつには従業員の健康を考えてのことだ。暗くすると文字が見づらくなり、視力に悪い影響を与えるのではないかという懸念がある。であれば、JISの推奨基準に従っておきたいと考えるのだろう。

もうひとつは、私たちの頭の中に「明るいほど能率が上がる」という先入観があることだ。これは本当だろうか。

これには面白い論文がある。大成建設技術センター報に掲載された「照明計画と知的生産性に関する研究」で、照度と色温度の2つと21の知的生産活動の関係を調べたものだ。この論文は公開されているので詳細はお読みいただくとして、結論は3つにまとめられている。

①単純作業は光環境の影響を受けなかった。知識創造作業は明るいほうが成果が出るものもあったが、作業内容によって異なる
②明るいほうが被験者の満足度は高かったが、普段明るい教室やオフィスに慣れていることが影響している可能性がある
③暗い環境では、眠気やだるさは増すが、一方でリラックスできる環境であることが確認された

つまり、「明るいほど能率が上がる」とは言い切れないということだ。ちなみに、明るい環境で能率が上がったのは数独(パズル)であり、高い色温度(寒色系照明)で能率が上がったのは、グループで連想する言葉を次々と書き出していくブレインライティング作業。マインドマップを描く作業では差異は見られなかった。

あくまでも個人的な感想だが、知的作業といっても、テンションを高めることで行うアッパー系の作業は明るいほうが能率が上がるようだ。一方で、マインドマップのように自分の思考の中に深く入り込む必要があるダウナー系の作業は、照明の影響を受けないように思える。ここは、より詳細な研究が必要だと思うが、グループでテーブルを使って行う共同知的作業(ブレインストーミング系の会議)は明るいほうがよく、各自一人ずつ集中して行う知的作業(企画書作成、プログラミング)は明るい必要はない。むしろリラックスすることで、より深く広い思考ができるのではないか。

大成建設技術センター報に掲載されている「照明計画と知的生産性に関する研究」。興味のある方は一読していただきたい。

目の疲労軽減には明るさと色温度を“揃えたい”。Night Shiftやサードパーティアプリを活用しよう

では、ダークモードにすると目の疲れは軽減できるのか。目の疲れは、視野の中に入るディスプレイと周辺環境で、明るさや色温度の差が大きいと起こりがちだ。焦点や絞りを酷使するため、眼球周辺の筋肉が疲労する。

つまり、オフィスの照明が明るいままにダークモードを使ってしまうと、周辺環境とディスプレイのコントラストがさらに大きくなって、かえって疲れ目が激しくなるかもしれない。もし、ダークモードを使うのであれば、照明そのものも少し照度を落として、差が小さくなるように工夫する必要がある。

岩崎電気が開発した「QUAPIX Lite」アプリ。画像解析により、カメラ撮影した場所の照度を計算してくれる。どの程度の正確さがあるのかは判断できないが、複数地点の照度の差を知ることができる。このアプリを使うと、オフィスの照明環境を改善できる。

あるいは逆説的だが、明るい照明のままダークモードを使うのであれば、ディスプレイの輝度を若干高めに設定して、明るさを揃えることが必要な場合もあるだろう。

また照明環境は、多くの場合窓があるために、昼間と夜間では様変わりする。Apple製品にはディスプレイの「輝度を自動調節」する機能があるので、これはぜひオンにしておきたい。自分で設定した輝度を中心に、周辺環境の照度をセンシングして、自動調節してくれる機能だ。さらに、Night Shitも設定しておこう。

「システム環境設定」の[ディスプレイ]で[輝度を自動調節]にし、[Night Shift]を[日の入りから日の出まで]にしておくと、自然光が入る環境でも明るさをうまく制御できる。

これは本来、目に悪影響を与えるといわれているブルーライトをカットするために色温度を暖色系に振る機能だが、輝度も抑えられるため、目に優しい明るさになる。「日の入りから日の出まで」の設定にしておくと、その地域の日没時に暖色系に切り替わる。

ペーパレスが普及して、ディスプレイを見る時間は急激に増加している。ディスプレイ周りの設定をうまく活用して、ますます重要になる目の健康を保っていただきたい。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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