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AIによる与信審査であらゆる人の“可能性”を押し上げる。H.I.F.株式会社・取締役副社長CTO 東万里子氏が目指す未来

著者: 徳本昌大

AIによる与信審査であらゆる人の“可能性”を押し上げる。H.I.F.株式会社・取締役副社長CTO 東万里子氏が目指す未来

「貧しい人自身が貧困のない社会を作り出すことができる―我々がすべきことは私たちが彼らを置いた貧困の連鎖から、彼らを解放することだ」(Yunus Centreより)。バングラディシュ・グラミン銀行の創設者であるムハマド・ユヌスのこの言葉は、まさにH.I.F.株式会社・取締役副社長CTOの東万里子氏が目指す「AIと与信を融合させることで、より多くの人々に資金調達の機会をもたらす」未来を表している。

H.I.F.株式会社は、Fintech領域で存在感を放つスタートアップだ。AI定性与信審査サービス「二十一式人工知能付自動与信審査回路」、決済代行サービス「Fimple決済」、売掛金保証サービス「Fimple保証」などを提供している。

電子回路も業務プロセスも、効率化のアプローチは変わらない

東氏の強い意志と原動力の源は、自身の幼少期の経験にある。山梨県出身の東氏は、経済的に恵まれない環境で育った。そんな幼少期、彼女が没頭していたのは“分解”だったという。自宅の目覚まし時計や家具、拾ってきた電子機器まで、手当たり次第に分解して組み立てて、を繰り返していた。

「考えてみると、分解好きだったことは経営者となった今に活きている気がします。業務プロセスも電子回路も物の構造も、スムースに動作するように設計されるべき、というのは同じですから。どこにボトルネックがあるのか、どう効率化できるのか、それを見極めることが重要です。現在は副社長として、まさに電子回路の抵抗値を調整するように業務プロセスを最適化しています」(東氏)。

H.I.F.株式会社・取締役副社長CTOの東万里子氏。

また、叔父から贈られたパソコンが救いになった。「学校にもあまり行っていないような子どもだったのですが、自宅にパソコンがあったことで新しい世界が開いたのです。ホームページを作ったり、簡単なプログラミングに挑戦したりと、技術の世界に没頭していきました」と東氏は語る。

大学では情報工学を専攻。医療分野への関心から、がんの画像診断に関する研究に取り組んだ。CTスキャンの3D画像データからがんを自動検出するAIアルゴリズムの開発に携わり、医療現場で医師の声を聞く中、重要な気づきを得たという。

「いくら優れた技術でも、それが使う人の心に響かなければ意味がない。現場で受け入れられなければ実用化には至らないのです」。

そこで東氏は、“現場に出よう”と考えた。大学院で選んだ進路は博士課程ではなく、一般企業への就職。野村総合研究所に入社し、製薬、不動産、金融など、さまざまな業界のシステム開発を担当。大企業の業務プロセスとガバナンスを学んでいった。

H.I.F.社の成長を加速させた「二十一式人工知能付自動与信審査回路」の開発

現在、H.I.F.は革新的なAI与信モデルの開発に取り組んでいる。特に「二十一式人工知能付自動与信審査回路」のリリースにより、同社のAI与信事業は大きく飛躍した。株式会社エポスカードとのトライアル実施をはじめ、大手信販会社や金融機関からも多くの引き合いがあり、主力事業としての成長が期待されている。

AIによる与信審査サービス「二十一式人工知能付自動与信審査回路」。

「二十一式人工知能付自動与信審査回路」の開発責任者であった東氏は、その革新性が評価され2022年に取締役副社長に就任。全社的なDX化とデータドリブンな経営の実現、さらなる与信ソリューションの拡充を目指す同社にとって、AIエンジニアである東氏の経験と知見は不可欠なのだ。

東氏は現在、IT戦略部門に加えて審査部門および管理部門を管掌し、バックオフィス部門の効率化を推進している。代表取締役の東小薗光輝氏が営業などのフロント業務を、東氏が副社長としてAI・デジタルアセット戦略および業務DX化を担当することで、より先進的なAI与信企業としての成長を加速させている。

資金調達を円滑化し、企業の成長を押し上げる「ベンチャーデット保証」

2023年3月からは、新たに「ベンチャーデット保証」サービスを開始した。「ベンチャーデット保証」とは、経営革新等支援機関であるH.I.F.が融資保証を行うことで、ベンチャー・スタートアップ企業の資金調達をより円滑にするサービスだ。

ベンチャー、スタートアップ向けの資金調達支援サービス「ベンチャーデット保証」。

「財務情報の開示が限られている中小企業や、創業間もないベンチャー企業、先行投資型の経営を行うスタートアップ企業は、従来の財務諸表ベースの審査では融資を受けにくい状況がありました」と東氏。しかし「二十一式人工知能付自動与信審査回路」によって、従来の財務状況だけでなく、企業の定性的特徴、成長可能性、事業の健全性、コンプライアンスリスク、経済動向まで総合的に分析されるため、より“正確”な審査を受けられる。

「二十一式人工知能付自動与信審査回路」は、約7万5000件に上る債権を分析した結果、そして定期的にアップデートされる情報を基に企業をスコアリングする。同社によると、業界の平均デフォルト率が1.08%なのに対し、「二十一式人工知能付自動与信審査回路」を利用することで、0.04%という圧倒的に低い水準が実現できるという。

特に注目すべきは、このAIモデルの汎用性だ。「大手企業がベンチャー企業と取引する際の与信評価から、ベンチャー企業が大手と取引する際に必要となる売掛金保証まで、あらゆる企業フェーズ、事業シーンで活用できます。これにより、より多くの企業に新しいビジネスチャンスを提供できるようになりました」と東氏は語る。

より多くの人に経済的な“可能性”を提供する。H.I.F.と東氏の挑戦は続く

H.I.F.の次なる挑戦は、2028年を目標とした私立小学校の開校だ。この構想には、東氏自身の経験が深く関係している。「経済的な困難を経験したからこそ、金融リテラシーの重要性を痛感しています。お金に困らない人を育てるためには、早い段階からの適切な金融教育が不可欠です」と東氏。

また東氏は、社内に与信の研究所を作るという野望も持つ。研究所では、AIによる与信評価の知見を活かし、持続可能な経済活動のあり方を探求していきたいという。

「私たちの大きな目標は、お金を“賢く使える人”を育てることです。自己投資の重要性を理解し、計画的に行動できる人材を育成したいと考えています」と東氏は語る。テクノロジーと教育の力で、次世代の経済的自立を支援する。それが東氏とH.I.F.が描く未来図だ。

東氏は、今日も新しいイノベーションの種を蒔き続けている。困難な環境で育った少女の夢は、今、多くの人々の未来を開く鍵となった。単なる技術革新にとどまらず、より多くの人々に経済的な“可能性”を提供する。それはまさに、ユヌスが説いた「貧困からの解放」なのではなかろうか。

H.I.F.株式会社が掲げるVision、MIssion、Value。「『本来融通されるべき人』のために。」というメッセージのもと、今後も多彩なサービスを展開していくことだろう。

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著者プロフィール

徳本昌大

徳本昌大

広告会社でコミュニケーションデザイナーとして働いたのち、経営コンサルタントとして独立。複数のベンチャー企業の社外取締役やアドバイザー、ビジネス書の書評ブロガーとして活動中。情報経営イノベーション専門職大学特任教授。

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