知的財産権とは、自らの有する「知的財産」を、他人が勝手に使えないようにする権利です。そして「知的財産」とは、人間の創造的活動により生み出されたもので、たとえば新しい技術やアイデア、デザイン、ブランド、著作物などが挙げられます。
本記事では、弁理士でスタートアップの知財戦略専門家である筆者が、知的財産権の基礎、そしてAppleを例に「知財ミックス」の概念と重要性を解説していきます。
知的財産の種類とその特徴。そして知財ミックスとは?
まずは、知的財産権の中でも主要な特許権、意匠権、商標権、著作権について説明します。
特許権は、新しい技術やアイデアを保護するもので、技術的なイノベーションの核心を守るのに適した権利です。意匠権は、製品のデザインを保護するもので、外観の模倣を防ぎ、製品の差別化に役立ちます。商標権は、ブランド名やロゴを保護するもので、顧客との関係構築に重要です。更新により半永久的に保護できるという利点があります。最後に著作権は、著作物を保護するものです。著作物には、アイコンやグラフィックデザインのほかに、ソフトウェアのソースコードなども該当します。
続いて知財ミックスとは、複数の知的財産権を戦略的に組み合わせて活用する手法です。
特許権、商標権、意匠権、著作権などの各知的財産権は、保護する対象が異なります。そのため、ただ取得できそうなものの知的財産権を取得するのではなく、ある程度目的を設定し、その目的から逆算し、適切に組み合わせられるように取得することが重要です。そうすることで、自社の技術やブランドを多角的に保護し、競争優位性を築くことができるのです。
知財ミックスを行うメリット。スタートアップの大きな武器となる
特にスタートアップにとって、知財ミックス戦略を学ぶ意義は計り知れません。まず、革新的なアイデアや技術を多面的に保護することで、模倣されるリスクを低減できます。これは、スタートアップの生命線ともいえる独自性を守ることにつながります。
また、仮に模倣されたとしても、状況に応じて最適な知的財産権を選択し、効果的に権利を行使できるという柔軟性を得ることも可能です。さらに、ライセンシングなどを通じて多様な形での収益化が実現できるため、ビジネスモデルの幅を広げることができます。
加えて、幅広い権利を確保することができれば、将来の事業展開の自由度を高められるという利点もあります。これは、急速に変化する市場環境において非常に重要な要素となります。
一方、投資家の観点からも、革新的なアイデアや技術が多面的に保護されていることは、企業の革新性と将来性を示す強力な指標となります。これは資金調達の際に大きな武器となるでしょう。
知財ミックス戦略の巨人・Appleは、テクノロジー、デザイン、コードまで、総合的に保護している
Appleは知財ミックス戦略の巨人と言えるでしょう。iPhoneを例にとると、マルチタッチ技術、Face ID、カメラシステムなどの技術を特許権で保護し、独特の形状やユーザインターフェイスのデザインを意匠権で保護。さらに、「iPhone」の名称やアプリアイコンのデザインは商標権で(※1)、iOSのソースコードや各種アプリケーションは著作権で保護しています。
(※1)商標「iPhone」は、日本においては権利者であるアイホン株式会社の許諾を受けて使用しています。
AirPodsに関する知的財産権のアプローチも同様です。無線接続技術などの技術を特許権で、イヤフォンとケースの独特な形状を意匠権で、「AirPods」の名称を商標権で保護しています。
このように、Appleは製品ごとに複数の知的財産権を組み合わせ、総合的な保護を実現しているのです。
知財戦略はスタートアップの強力なツール。Appleが“成功”した要因は、その戦略の一貫性にこそある
Appleの知財戦略から学ぶべきことは数多くあります。スタートアップの場合、まずはアイデアの段階から、事業をどの知的財産権で保護できるかを検討することが重要です。特許権、意匠権、商標権については権利取得のために特許庁に出願する必要がありますが、出願すると出願内容が公開されるので、出願せずにノウハウとして管理すべき情報かどうかを判断することも欠かせません。
さらに、現在の事業だけでなく将来の展開も見据えて幅広く権利を取得することで、事業の自由度を確保できます。そして、技術の進化や事業の発展に合わせて継続的に新たな権利を取得していくことで、長期的な競争優位性を維持できるでしょう。
Appleの成功は、知財戦略を実践してきた結果といえます。スタートアップも、知財戦略により、限られたリソースで最大の効果を得ることができます。自社の状況に応じて適切な知財戦略を構築することで、大きな競争優位性を築くことができるのです。
著者プロフィール
緒方昭典
複数の弁理士事務所に勤務したのち、スタートアップに対して、特許や商標などの権利取得だけでなく知財活用を支援するため、くじら綜合知財事務所を設立。 現在は、広くベンチャー企業の知財活用の支援に注力。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。