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Macのメモリ「8GBでも快適」vs「8GBは時代遅れ」論争が過熱中

著者: 山下洋一

Macのメモリ「8GBでも快適」vs「8GBは時代遅れ」論争が過熱中

画像●Apple

M3世代のMacが登場し始めるとともに、2023年の後半から、Macの基本モデルのRAMが8GBであることに「不十分ではないか?」という議論が広がり始めました。さらに、これに対するAppleのEvan
Buyze氏のコメントが波紋を呼ぶなど、まさに今、Macのメモリに対する考え方を変える時期が来ています。

M3搭載MacBook Proの「メモリ8GB」への失望

MacのベースモデルのRAMは、Mac StudioとMac Proを除いて8GBです。昨年11月にM3シリーズのチップを搭載したMacBook Proが登場した際、8GBのままであることに失望する声や疑問符をつける声が湧き上がりました。3nmプロセス製造のチップになって性能・電力効率が向上するのに合わせて、AppleがベースモデルのRAMの増量に乗り出すという期待が高まっていたからです。

メモリ不足を心配に思うなら16GBを選択すればよいのですが、アップグレードには30,000円の追加費用がかかります。そんなフラストレーションに加えて、Appleが生成AIの取り組み強化に舵を切ったことで、今「8GBモデル」のレーゾンデートルを巡る議論がかつてないほど激化しています。

M3搭載MacBook Proは登場時、「Pro」として提供するなら16GBからにするべきという批判を受けました。

Redditなどでの議論を見ていると、8GBのベースメモリに関して2つの異なる論争があります。1つは、8GB RAMが「パフォーマンスのボトルネックになる」という不安であり、もう1つは「将来の耐用性」に対する不安です。

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“16GBに匹敵する”Appleシリコンの「8GB」

性能に関しては、「Web閲覧や文書作成など一般的な使用に適している」というのが8GB RAMに対する一般的なPCのガイドラインです。それに照らすと、”Pro”を冠するMacBook Proの8GBモデルは矛盾した存在に思えます。

しかし、「8GBだからクリエイティビティには使えない」というのは早計です。

Appleシリコンは、CPU、GPU、そのほかのプロセッサがすべて同じ物理的メモリプールを共有してアクセスするユニファイドメモリを採用しており、これによってメモリアクセスの遅延が減少し、全体的なシステムパフォーマンスが向上します。

そして高速なSSDを搭載しているため、ユニファイドメモリのスムーズなデータ移動、データ圧縮技術によるSSDへの効率的な読み書き、macOSのメモリ管理アルゴリズムにより、スワップメモリ(メモリが不足した際、一時的にメモリ内容をSSDに移動させる)が非常に高速に機能します。

MacのIntel CPUからAppleシリコンへのチップ変更は、ARM系に変わったこと以上に、CPU、GPU、NPUが同じメモリープールにアクセスして、動作を高速化できるユニファイドメモリ・アーキテクチャの採用に大きな意味がありました。

もちろん、仮想メモリは物理メモリに匹敵するものではありません。スーパーコンピュータのパイオニアであるシーモア・クレイ氏は、メモリの重要性と仮想メモリについて、「メモリはオーガズムのようなものだ。ごまかさなくて済むほうがずっと良い」と語っています。

しかし、物理メモリではないからといってすべてが“ごまかし”であるとも限りません。Appleシリコン世代のMacは、メモリアーキテクチャがレガシーなPCプラットフォームとは根本的に異なります。システム全体が高速であるため、スワップが発生しても、Intel製CPUを搭載していた頃のようなスピードの低下は感じません。

Macではアクティビティモニタを使って、使用しているメモリ領域、使用できる容量を増やすために圧縮されたメモリ領域、スワップで使用している領域などを確認できます。

2023年11月、Appleの製品マーケティング担当副社長であるボブ・ボーチャーズ氏が中国のエンジニア/クリエイターによるインタビューで、「M3 MacBook Proの8GBは、おそらくほかのシステムの16GBに匹敵する」とコメントしました。

8GBメモリの議論は、8GB RAMと16GB RAMを比べたストレス・テストやベンチマーク比較から語られることが多いものの、MシリーズのMacに対しては8GBモデルのスムーズな動作に「驚いた」という声が多数存在するのも事実です。

ボーチャーズ氏は、スペックの数字で判断せず、自分のやりたいことを実際にやってみて、その体験を確かめてほしいと述べています。

AIによるパソコンの再定義

「性能」に対する悩みは試すことで解決できますが、もう1つの「将来の耐用性」はユーザを悩ませる問題でしょう。下のグラフは、コンシューマ向けMacBookシリーズのベースモデルRAM容量の推移です。

MacのベースモデルRAMは4GBと8GBが長く続いています。その間、iPhoneは、iPhone Xの3GBから継続的にRAMを増加させ、iPhone 15 Pro(8GB)でMacに追いつきました。

2011年までは2年ごとのベースでRAMが増加していましたが、2011年以降は一度しか増加していません。OS X 10.8 Mountain Lion以降に導入された効率的なリソース管理やメモリ圧縮技術、そしてAppleシリコンへの移行の効果で、Appleはパフォーマンス面においてメモリを増加させる必要に迫られず、8GBのまま価格を抑えてマージンを確保することができていました。

ただ、8GB RAMが長く続いており、次を見据える時期に来ているのも事実です。PC市場では今、AIでPCを再定義する動きが活発化しています。

新型コロナ禍の巣ごもり需要からの反動とサプライチェーンの混乱で低迷していたPC市場は昨年後半から回復基調にあり、今年1〜3月期に出荷台数がコロナ禍前の水準に戻りました。回復の大きな要因の1つが、AIブームに牽引された「AI PC」の台頭です。

IDCは2月、2024年にAI PCが5000万台出荷され、2027年には世界のパソコン出荷台数の60%を占めると分析しており、ほかのITリサーチ各社も同様に、AI PCが数年後に市場の過半を占めると予想しています。

AI PCは、ニューラル処理ユニットや強力なGPUを備え、AI関連のタスクを効率的に実行できるように設計されたPCを指します。AppleはA11 Bionicで同社のチップにニューラルエンジンを搭載し始めており、Appleシリコン搭載MacはAI PCの先駆者的な存在といえます。

しかし、今注目を集めているのは、大規模言語モデルをはじめとする多様なAIモデルをオンデバイスで実行できる新世代のAI PCです。

たとえば、Microsoftが5月20日に発表した新世代のAI PC「Copilot+ PC」は、「40TOPS以上」の演算性能を持つニューラル処理ユニット(M3の2倍以上に相当)と「16GB以上」のRAMをハードウェア要件としています。

M4搭載Macのメモリはどうなる…?

生成AIは過去2年のクラウドベースの機能から、今年オンデバイスに競争の場が移行しており、ハードウェアデバイスを事業戦略の核とするAppleも、生成AIに積極的に取り組む姿勢を公にしました。

その第1弾製品がM4を搭載した「iPad Pro」です。M4は、AI性能がM3の18TOPSから38TOPSに引き上げられ、120GB/sのメモリ帯域幅を持ちます。

新型iPad ProのM4チップは16コア、38TOPSのニューラルエンジンを内蔵。TOPSは1秒間に実行できる演算回数を1兆回単位で示したもので、AI時代のデバイスの性能指標として重視されています。

だからといって、将来のM4搭載MacでベースモデルのRAMがすぐに16GBに引き上げられるとは限りません。ただ、今後AIを活用したアプリケーションやサービスが増えるにつれ、効率的な処理能力と高速なデータアクセスへの要求が加速度的に高まっていくことでしょう。

また、M3でMacBookに最大2台の外付けディスプレイを接続できるようになるなど、複数のアプリを同時に使用する環境が強化されています。RAMへの要求は高まる一方です。

M4を待つべきか、それともM2/M3搭載MacのRAMをアップグレードして将来に備えるべきか。現在のニーズと将来的な発展のバランスを見据えた購入計画を立てづらいのが現状です。特に8GB RAMのベースモデルは、より長く使うという観点で見通しが悪化しており、それが今Macの購入を検討している人たちを悩ませる要因となっています。

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著者プロフィール

山下洋一

山下洋一

サンフランシスコベイエリア在住のフリーライター。1997年から米国暮らし、以来Appleのお膝元からTechレポートを数多くのメディアに執筆する。

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