※この記事は『Mac Fan』2018年3月号に掲載されたものです。
年末、東京代々木上原のファイヤーキングカフェへ行ったら、懐かしいポスターが展示されていた。ご存知、Appleの「Think different.」のポスターだ。映像は有名だが、ポスターがあったことをすっかり忘れていた。聞けば店のオーナーの個人所有だという。
エジソンにフランシス・コッポラ、マリア・カラスなどおなじみの顔が蘇る。
これは20年前の1997年の広告キャンペーンだ。ボクは30歳だった。この年は、Appleにとって記念すべき年だ。皆さんならご存知だと思うが、スティーブ・ジョブズが復帰した年だ。
それで、この広告キャンペーンが始まった。翌1998年には色鮮やかなiMacが登場し、世の中をあっと驚かせる。5色展開になった1999年にボクも思わず緑色のiMacを手に入れた。
そのとき、誰もが思ったことがある。「さすがジョブズだ」と。ボクも復活を喜んだし、この「Think different.」のコピーが使われた〝Crazy Ones(=「いかれた奴ら」の意)〟というテレビCMは本当に衝撃的だった。
着飾った俳優が決められたお世辞セリフを述べるのではなく、時代を作ってきた先駆者が続々と登場する企業広告だ。商品も、その性能も、値段も、安売りも語られない。ただ世の中を変えた人がひたすら登場するだけだ。特に好きなのは、エンディングのセリフだ。
「私たちは、そういう種類の人間のための道具を作っている。彼らをいかれた連中と見る人もいるが、私たちはそこに天才を見ている。世界を変えられると考えるくらいいかれた人々は、世界を変えていく人たちなのだから」。
“そういう種類の人のための道具を作っている”という言葉が力強い。そう、Apple製品は、単なる経理やつまらない書類を作るための道具ではない。世界を変える人々が使うための道具なのである。もちろん、経理や書類でもその気になれば世の中を変えることはできるはず。
自分のやりたいことを思いっきりやりたいための道具なのだろう。懸命に自分のメッセージを音楽やプロダクト、発明品、映像、企画書に入れ込んで世界を変えた人のためのものだ。
そして、ジョブズこそが、Think different.でありCrazy Onesなのだろう。自分が追い求める夢を懸命に追い続けたのだろう。「クレイジーと呼ばれる人たちがいる。不適応者、反抗者、トラブルメーカーと呼ばれる人たち。四角い穴に丸い杭を刺すような物事をまるで違う目で見る人たち」。直接会ったことはないが、そんな人だったのだろうと想像される。そして、彼が僕らに教えてくれたのは「たった一人の人間の力」である。当時、ある意味、終焉を迎えていたAppleを、ある意味一人の力で変革に導いた男である。すべてを彼がやって成功したわけではないと思う。
だが、彼が復活し、加速度的にAppleが進化を遂げたことは紛れもない事実である。歴史に「もし」はないが、もし彼が復活していなかったら間違いなく今ボクは原稿をWindowsマシンで書いていただろう。そもそも『Mac Fan』がなかっただろう。たった一人が会社や世の中を変革できる。そんな事例を作ったのがジョブズだ。
ボクはケチである。ボク自身ももっともっと世の中を面白いものに変革できると信じている。だから今日もアイデアを考え発信し続けるのだ。
著者プロフィール
野呂エイシロウ
放送作家、戦略的PRコンサルタント。毎日オールナイトニッポンを朝5時まで聴き、テレビの見過ぎで受験失敗し、人生いろいろあって放送作家に。「元気が出るテレビ」「鉄腕DASH」「NHK紅白歌合戦」「アンビリバボー」などを構成。テレビ番組も、CMやPRをヒットさせることも一緒。放送作家はヒットするためのコンサルタント業だ!と、戦略的PRコンサルタントに。偉そうなことを言った割には、『テレビで売り上げ100倍にする私の方法』(講談社)『プレスリリースはラブレター』(万来舎)が、ミリオンセラーにならず悩み中。