
“一点もの”という強みが、同時に課題でもあった
玉木さんのブランドは、すべて一点もの。同じ作品は一つとして存在しない。
一点ものならではの価値は大きな魅力である一方、作品数や在庫状況を把握するうえでは、管理の難易度が高くなりやすい。
「最初の頃は、“この中(頭)に全部ある”っていう状態でしたね」
作品情報は人の頭の中にあり、どこに何があるのか、どれが売れているのかも感覚に頼る部分が大きかった。結果として、共有や引き継ぎが難しく、ビジネスとしてスケールしにくい状態だったという。
iPhoneで全部撮ることで、生産と販売がつながった
転機となったのは、「すべての作品を撮影し、データとして扱う」という取り組みだ。
一つひとつの作品を撮影し、画像として蓄積する。この一見地道な行為によって、ビジネスの構造そのものが変わっていった。

「数字じゃなくて、ビジュアルで見るしかないんですよね」
一般的なアパレルのようにSKUや在庫数だけでは把握しきれないからこそ、「写真」という、部署をまたいで共有しやすい共通情報が必要だった。
実際の現場では写真を並べながら、どのラインを強く見せるか。どの作品を優先して販売するか。どんな方向性で生産するか、といった意思決定が行われている。
ここで重要なのは、生産側と販売側が同じ情報を見ていることだ。これにより、生産側と販売側の認識をそろえやすくなり、作品展開や販売判断のサイクルが回りやすくなった。

Apple製品が支える「分業と連携」
このワークフローの中で、Apple製品は自然に役割を分担している。
撮影や発信の起点になるのがiPhone。作品の記録や共有のハブとしてMacが使われ、現場での確認や接客ではiPadが活躍する。

ただし、ここで興味深いのは、ツールの使い方を厳密に統一していないことだ。
「現場で“これが欲しい”という意見が出たら、どうぞっていう感じですね」
動画を作るチーム、ECサイトに登録するチーム、生産量を管理するチーム。それぞれ業務が違うからこそ、最適なデバイスも違う。トップダウンで環境を決めるのではなく、現場ベースで最適化することで、無理なく運用が回る仕組みができている。
データ化で変わったのは“効率”より“判断”だった
Apple製品とデータ管理の導入によって、業務は確かに効率化された。しかし玉木さんが強調していたのは、その先にある変化だ。それは「判断の質が上がった」こと。
「この作品なら、どの程度展開できるかをその場で判断できるようになったんです」
感覚や経験に頼っていた意思決定が、共有された情報をもとに行えるようになったことで、判断のスピードも精度も大きく向上した。
結果として、生産プロセスと販売のサイクルが滑らかにつながるようになり、ビジネス全体の“回り方”が変わっていった。
顧客体験も“見せ方”で変わる
こうしたデータの蓄積は、顧客体験にも影響している。
一点ものの作品群を“見える化”することで、オンラインでも選ぶ楽しさが生まれる。単に作品を探すのではなく、“宝探しのように選ぶ体験”が作られている。
これは、店頭でも同様だ。iPadを使って作品を見せながら説明することで、顧客とのコミュニケーションの質も変わっている。

やりたくないこと、から始まる仕組み化
もちろん、この仕組みは簡単にできたわけではない。すべての作品を撮影し、登録していく作業は地道で、導入初期には手間もかかったという。
「やりたくないですよね。でも、やらなきゃいけないよねっていう」
こうした作業を積み重ねることで、作品情報が現場全体で共有されるようになり、判断や連携がスムースになっていった。
現在ではその環境が前提となり、新しく入るスタッフにとっても違和感のないワークフローとして定着している。

テクノロジーは主役ではない。気持ちいいものを作りたい、という気持ちを支える存在だ
セッション全体を通じて印象的だったのは、玉木さんがテクノロジーを特別視していないことだ。
「気持ちいいものを作りたい、っていうのが最初なんです」
その実現のために必要なものとして、Apple製品やデータ管理がある。あくまでビジネスが主役であり、テクノロジーはそれを支える存在に過ぎない。
現場で何に困り、どのように解決してきたのか。今回のセッションからは、Apple製品が、こうした試行錯誤を支える環境の一部として機能していることがうかがえた。

