真空技術を応用した設計
この「MSA−380S」の開発元であるサーモスは、魔法びんの製造で有名なメーカーです。魔法びんとスピーカが結びついたキーワードは、「真空」でした。
スピーカは、筐体の振動を抑えることで音質を向上でき、一般的には材質や重量アップで対策されます。一方、サーモスの「ヴェクロス(VECLOS)」ブランドのスピーカは、魔法びんで熱を遮断するために用いた真空技術を応用して振動を抑え、小型のボディで安定したクリアなサウンドを実現。先行して発売された「SSA−40」が一般向けなのに対し、本製品は音に関わるクリエイター向けのモニタスピーカとして細部までこだわった造りとなっています。
販売は2台1組ですが、各々は電源も別個で完全に独立しており、同じパワード(アンプ内蔵)スピーカが2つ入っている構成です。左右で重量や形状が異なると音にも微妙に影響が出るため、制作用のモニタスピーカはこのスタイルが大半です。本製品で驚いたのは、ライン入力に加えてプラス、マイナスのスピーカ端子を備えている点。これにより、ユーザが独自に本体内蔵以外のアンプを使って鳴り方をカスタムすることもでき、こだわり派のユーザに向けた非常に粋な配慮だと感じました。
さまざまな使い方ができる!
端子類はすべて金メッキ仕様。ライン入力は業務用音響機器と接続しやすいTRSフォンが採用されています。本体内蔵のアンプともプラス、マイナスのスピーカケーブルでつなぐユニークな設計で、ほかのアンプを使ったカスタマイズも容易になっています。
小音量でも良好なバランス
音のキャラクターは、「シャキシャキ」「ズンズン」といった「スピーカで盛った」感じがなく、一つ一つの声や楽器が明瞭に聴き分けられる良い質感を持っています。音楽では演奏者のちょっとしたクセや楽器ごとの質感の違いが「見える」ように感じられ、人間の声の細かい抑揚もハッキリとわかる、モニタスピーカとして有用な解像度を備えています。
本製品が真価を発揮するのは「大音量や自由なセッティングが難しい場所」といえるでしょう。高性能なスピーカでも、ある程度の音量を出したり、距離などを考慮した配置なしでは性能を発揮できません。その点、本製品は控え目な音量でもバランスが崩れにくく、またMacBookの左右に置く程度のスペースがあれば、十分に空間を感じることができます。たとえば、映像編集で出張作業を行う際の持ち歩き用スピーカとして魅力的です。音楽制作でも、大音量ではかえってわかりにくい細部のニュアンス確認に活用できます。音とじっくり向き合いたいクリエイターには、是非実際にサウンドを聴いて頂きたい一品です。
角度を自由に調整可能
円筒状のユニークな筐体は最大45度まで角度を調整できます。机の上に置いた近距離のセッティングから、プロジェクタ等と組み合わせて離れて視聴する場合まで、さまざまなシチュエーションで最適な設定が行えます。
[SPEC]
VECLOS アクティブ ニアフィールド モニター MSA-380S
【発売】サーモス
【サイズ】98(H)×74(W)×171(D)mm
【価格】オープンプライス
【実売価格】16万円前後
【URL】https://www.veclos.jp/veclos/products/msa380/
【主なスペック】
【重量】約850g(1台) 【備考】形式:1ウェイ・バスレフ型パワードモニタ、ドライバ:52mmコーン型フルレンジ/アルミ、周波数特性:100Hz~20,000Hz(-10dB)、最大出力音圧レベル:90dB、入力インピーダンス:20KΩ/バランス、入力感度:0.55 Vrms (-3.0dBu)/バランス
私が紹介します!
大須賀淳
映像作家・音楽家。シンセドキュメント映画「ナニワのシンセ界」監督。