Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

TITLE 21 空のホーエンツォレルン城

著者: 鈴木陵生

TITLE 21 空のホーエンツォレルン城

「雲の上に浮かぶ中世の城」。おとぎ話のような幻想的な景色を見られると知り、ドイツを訪れたのは5年前の6月。初夏のドイツはただただ緑がきれいで、雲海のかけらもなかった。そして、昨年の初冬。氷点下の山の上から雲海を連日待ったが、見えるのは澄んだ空気の冬の大地ばかり。

そして今年。5年越しのドイツ雲海チャレンジは紅葉の始まった10月。シュツットガルト南にある“ホーエンツォレルン城”を見降ろす山奥の丘の上でカメラを構えた。雲海が出るのは夜明け頃が多いらしく、僕らは連日夜通しで待つ。

この丘からの景色は、たとえ雲海が出ていなくとも素晴らしい。城の建つ山の全景が見え、その向こうには延々とヨーロッパの大地が広がる。この場所は遊歩道にもなっていて、毎朝犬の散歩のおばさんやウォーキングのおじさんがやってくる。毎朝山奥にいる僕らアジア人二人は、彼らから見たら怪しいに違いない。地元の変な噂になっていたらどうしようかと思いながら、山で過ごすこと数日。

その日の山は夜から霧が出ていた。夜明けが近づくにつれ、霧は切れ切れになっていく。そして空が白み始めた頃、視界が開けた。目の前に現れたのは、遠くまで続く雲の海と、その上にぽっかり浮いた中世の城。城はときどき雲に包まれ、幻想さを増していく。その美しさと夢が叶ったことに僕らは狂喜乱舞し、早朝の山で何度もハイタッチした。

鈴木陵生(Ryosei Suzuki)

映像作家。2011年より夫婦で世界一周を始める。旅の様子を発信する映像サイト「旅する鈴木」が、平成26年度文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に。2014年11月、DVD&Blu-ray「World TimeLapse」(KADOKAWA)をリリース。 【URL】http://ryoseisuzuki.com