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国内7番目の直営店が10年の歴史に終止符

アップルストア札幌が閉店! 直営店史上初の「移転地未定」

著者: 氷川りそな

アップルストア札幌が閉店! 直営店史上初の「移転地未定」

「寝耳に水」の告知

2月12日、アップルから送られてきた案内や、メディアの記事に驚いた読者も少なからずいるのではないだろうか。それは、アップル直営店「アップルストア札幌」が26日をもって閉店となる、というものだった。

札幌のストアは日本国内では7番目、2006年6月24日にオープンした。北海道における初のアップル直営店であり、五大都市(札幌・東京・名古屋・大阪・福岡)最後のストア上陸という意味でも、マイルストーン的な意味のあるこの店舗が閉店することは、さまざまな意味でショッキングだ。

世界18か国、480店舗以上を持つアップルの直営店事業は2001年のスタート以来、店舗拠点の移動はあっても過去に一度も「閉店」を出したことがない。小売業界では不採算店舗を潰しながら、より収益の見込めるエリアに新店舗を出店する「スクラップ&ビルド」という手法での運営が一般的に行われる中で、極めて異例であり、偉業とも呼べる不倒の実績だった。

札幌の件も対外的には「移転」と謳ってはいるが、現時点で移転先に関しては未定とされており、実質閉店扱いだろう。しかしなぜ今回、今まで守ってきたルールを崩してまで、札幌店を閉店するのだろうか。

筆者はそのヒントが、アップルの声明文にあると見ている。そこには「10年間業務を行ってきた建物が再開発のため取り壊されることとなりました」とあった。アップルストア札幌が1Fに入るビル「QB札幌」は三越の横にあり、三越アネックス(別館)としても機能している地下2階、地上8階の建物だ。

この物件について調べてみると、ビルのオーナーが昨年変わっていることが判明した。再開発がこのとき決まったのであれば、QB札幌に入居しているテナントたちには賃貸契約の更新は告げられておらず、ビルの建て直しを行う話をすでに受けていたはずだが、実際にはこの際、3階より上を利用していた「三越アネックス」が撤退することが決まり、空いた部分すべてをアップルストアとして利用するよう、賃貸契約を更新して欲しいとオーナー側がアップルに交渉。しかしアップル側はこれを断ったことから、ビルを再開発することをオーナー側が決断し、アップルとの契約も満了させたというのが実状のようだ。

銀座や渋谷といった、直営店の中でもトップクラスに食い込む店舗に比べれば札幌店の規模は小さいものの、決して売り上げが低い店舗ではなく、むしろ来店する顧客の満足度は国内のストアでは1、2を争う高水準で、リピーター率も良好だったという話も聞く。そういった点を考慮すれば、このストアを潰すメリットはアップルにはなかったはずだ。

アップルストア札幌の開店当時に撮影した、三越札幌店QBビルの外観。

アップルの決断

となると、問題は移転先だ。現在の拠点はJR札幌駅からも近く、付近には複数の地下鉄路線があり、さっぽろ雪まつりで賑わう大通公園のすぐ裏手だ。まさに絶好のロケーションといえる。アップルが直営店ビジネスにおいてスクラッブ&ビルドをせずに成長を続けてこられた理由は、まさにこの「地の利」にある。出店前には綿密にその地域のトラフィック(人の流れ)を調査し、もっとも効率が良く、また成長が見込める場所を十分に吟味してからオープンさせる。国内であれば表参道がその良い例だが、銀座と渋谷の2店舗で賄いきれないほどのトラフィックがあったのをわかっていながらギリギリまでロケーションにこだわり、現在の場所を選んでいる。

その点で考えるとアップルは昨年から札幌ストアの代替となる移転先を探していたはずだ。しかし、再開発が進む中、主だったエリアの目玉となるようなテナントにはすでに大手のブランドショップが入居しており、満足できる候補地が見つからなかったのだろう。

中途半端な移転をするくらいであれば閉店させる。一言で言ってしまえば簡単なようにも思えるが、現在ストアに勤務するスタッフの生活に対する対応や、製品サポートの拠点がひとつ失われることなど、アップルのビジネスに与えるインパクトは大きいはずだ。それでもこの決断をしたことは、ある意味アップルの「直営店」という事業が方向転換をするきっかけなのかもしれない。

世界中で増え続け、今年もメキシコを含む新たな国での出店計画のあるアップルだが、右肩上がりの成長が一筋縄でいかなくなっているのは四半期ごとの成長の鈍化を見ても明らかだ。これは、アップルのセールスプランが「次の一手」に続く序章になるのかもしれない。

開店当日には1000名を超える人々が並んだ。その後も多くの人に愛される店舗だった。

札幌店限定で、熊鮭デザインのiPodケースが販売されたこともある。

【News Eye】

日本への新規出店が難しい理由に、欧米式のショッピングモールが少ないから、というのがある。仙台、札幌クラスの大きさのストアの大半が、欧米ではショッピングモールの中に建っていることからも明らかだ。