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第44話 Hey Siri! もうちょい役に立って

著者: 矢野裕彦

第44話 Hey Siri! もうちょい役に立って

最近はその日の気温が読めないことが多く、出かける前に必ず調べることにしている。リビングには「アマゾン・エコー(Amazon Echo)」を設置してあるので、アマゾンのエージェントであるアレクサ(Alexa)に「アレクサ、今日の気温は?」と、毎日のように話しかける。支度をしながらコマンドを出せるし、音声で返してくれるのでディスプレイなどを見る必要もなく、理にかなった使い方だ。自宅なので、声を出しても気にならない。

むしろ問題は、アマゾン・エコーのそれ以外の用途を思いつかないところにある。ほかにはテレビのオン/オフに使っているくらいだ。要するに、気温を聞く装置を購入してわざわざ設置してある状態だ。では、ほかに使い方があるのか考えても、微妙な機能しかない。用途として基本的に「エコーにできること」が提示されているだけで、こちらやがやってほしいことに対応してくれるわけではない。いろいろと装置をそろえれば便利な用途も増えるのだろうが、そこまでしてやりたいことも見つからない。

アマゾン自体は買い物で使うことが多いので、購入物の発送通知などをいちいち報告してくる。しかし、そんなことはメールを見ればわかるので不要だ。それどころか、ときどき不意を突いて「そろそろ○○の注文の時期ですが、購入しますか?」などと余計なことを聞いてくる。返事を間違うと本気で発注するので、逆に注意が必要だ。実際「ところで~」などと、唐突にセール中のテレビの宣伝を始め、注文を促してくる。音声コマンドで50インチのテレビを買う人は、さすがにいないのではないか。

そんな気が抜けないアレクサだが、温度を確認する「今日の気温は?」というコマンドは、何度も繰り返してきた結果、必ず履行されるとわかっているものだ。つまりこれは、スイッチを押す行為と何ら変わらない。その意味で、毎日のように発するこの音声コマンドも多分に惰性で行っているところがあり、手元のiPhoneで調べれば済む話だ。

これはアレクサに限らず、Siriにも言えることだ。両手がふさがってるとか、別のことをやりながらといった場面であれば音声コントロールも便利だが、そういう状況はイレギュラーなものだ。そんな場面が不意に訪れたとしても、その際に音声コマンドのことを思いつき、突然試みるということにはならない。

しかも、決まったフレーズ以外のことを急にお願いしても、体感的には半分くらいが却下されるか、トンチンカンな返事をしてくる。また、こちらがタイミングを誤ったり、「えーと…」などと言いよどんだりしていると、容赦なくやりとりをシャットアウトされる。その結果、人のほうが間合いを計ったり、エージェントが聞き取れるようにめちゃくちゃ丁寧に話しかけたり、そこまで気を使ったあげく、コマンドが空振りしたりする。

だいたいコンピュータにコマンドを実行させる状況において、基本的に「空振り」はあってはならない。空振りをしないために人のほうが緊張しながらコマンドを発する状況は、冷静に見るとかなり滑稽だ。

相手に話しかけるという行為は本来、非常に柔軟性の高いコミュニケーションが前提になっている。ところが、相手が間合いと空気を読めないプログラムの場合、その前提が崩れた状態で話しかけることになる。音声によるコマンドの違和感は、この辺りに潜んでいるように思う。

対話型AI「ChatGPT」では、そこそこ柔軟な対話が可能だ。頭の固いSiriに付き合わされてきた分、やりとり自体は快適に感じる。その意味でアップルは、そろそろこの不出来なエージェントを何とかするべきだろう。次世代のiPhoneでは、人の話し相手になるくらいのインパクトがあっていいのではないだろうか。

写真と文:矢野裕彦(TEXTEDIT)

編集者。株式会社TEXTEDIT代表取締役。株式会社アスキー(当時)にて月刊誌『MACPOWER』の鬼デスクを務め、その後、ライフスタイル、ビジネス、ホビーなど、多様な雑誌の編集者を経て独立。書籍、雑誌、WEB、イベント、企業のプロジェクトなど、たいがい何でも編集する。