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人工知能で職場をBetterに!「Humu」の挑戦

著者: 三橋ゆか里

人工知能で職場をBetterに!「Humu」の挑戦

業界や業種を問わず、影響を受けない分野はもはや存在しないと言っても過言ではない「人工知能」。企業人事も、その例外ではありません。たとえば、IBMが開発するWatsonは、募集要項から人種バイアスを取り除いたり、採用面接の日程調整をしたり、はたまた新入社員の受け入れをスムースにしたりするためにAIを活用しています。

ラズロ・ボック氏が手掛ける「Humu」も、そんな人工知能サービスのひとつ。ボック氏は、グーグルの人事部門(People Operations)を長年率いて、グーグルの企業文化を作り出した人物として知られています。著書に、日本語訳もある『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』があります。

“Make Work Better”というタグラインを掲げるHumuは、一言で言うと「職場をよりハッピーにする」ことを目指す人事スタートアップ。テクノロジーを駆使することで、人々に行動変化を促すのだとか。導入企業は、従業員の仕事や職場への満足度向上、生産性向上や離職率低下といった効果を得ることが期待できると言います。

Humuの根幹にあるのが、人工知能を用いた “nudge engine”と呼ばれるシステム(nudgeは、つつくという意味)です。2017年にノーベル経済学賞を受賞した経済学者 リチャード・セイラー氏の「ナッジ理論」という研究に基づくもの。人は、それが最良かどうかではなく、ただ簡単だからという理由で意思決定をしてしまう生き物。そんな人間を最適なタイミングで“ナッジ”することで、より良い選択や行動に導くことが可能だと説きます。

Humuのナッジ・エンジンは、企業の従業員アンケートを解析し、解析結果に基づいて、個別の従業員またはチーム全体の仕事への満足度を高めるために一番効果的だと思われる“行動変化”を特定します。その内容をメールやテキストメッセージで従業員に送り、日々の小さなアクションを促すことでポジティブな変化をもたらしてくれます。

創業から1年半ほどで、従業員数が150人~6万5000人までの規模がさまざまな企業によって導入されるHumu。全社的導入もあれば、マネージャー職に限定した導入も。当然Humuの社内でも従業員全員が活用しています。「少し立ち止まって1分間のマインドフルネスの動画を観よう」「一緒に仕事をしたことがない同僚に今日の調子を聞いてみよう」といったナッジが、円満な職場環境に貢献しているそうです。

「Humu流 企業文化を育む12の方法」という社員ブログが面白かったので共有します。異なるチームに所属する社員で食べるランチ、バスケットボールなどのチームスポーツ、テーマを決めて行う映画ナイト、数カ月に一度のペースで行う席替えなどが紹介されています。また、会社に入ったばかりで右も左もわからない新入社員をサポートするために、新入社員一人につき先輩社員がついて、入社後最初の一週間の世話をする仕組みも。

アンケートという手法は、従業員の仕事や職場への満足度を測るために長年活用されてきました。ところが、せっかくアンケートを実施しても、何となく傾向を把握する程度にとどまってしまうことが少なくありません。うまい具合に課題や改善の余地が見えたとしても、最初からきちんとした仕組みにしようとすると重い腰が上がらないからです。

その点、Humuの素晴らしさは、今すぐ実行できるアクションを促してくれること。従業員の小さなアクションが日々積み重なっていくことで、長い目で大きな変化が生まれていくのかもしれません。

Humu

【URL】https://humu.com/

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp