スマホでバーコードを読み取ることで、商品情報を多言語表示するアプリ「Payke」。海外で評判を呼んでおり、今やインバウンド向けの企業にとって、なくてはならない存在になりつつある。「Payke」を導入したことで何が変わったのか。メーカー、店舗の両者に話を聞いた。
商品情報を多言語化
「Payke(ペイク)」は、スマートフォンカメラで商品のバーコードをスキャンすると、その商品の詳細情報を表示するというアプリだ。とてもシンプルなソリューションながら、インバウンド向けのメーカー、小売店にはなくてはならない存在になっている。
その最大の理由は多言語展開にある。日本のメーカーは商品情報を日本語で作成するだけで、英語、簡体字中国語、繁体字中国語、韓国語、タイ語、ベトナム語の6カ国の言語に自動翻訳される。訪日外国人は、自分のスマホにペイクをダウンロードしておけば、店頭で商品バーコードをスキャンするだけで、自国の言葉で商品の詳細情報を確認できるのだ。
Payke
現在、ペイクの世界累計ダウンロード数は350万件を突破。台湾、香港、マカオではダウンロードランキング1位になるほどの人気だ。しかし、ペイクの広がりは始まったばかりで、海外メディアにも取り上げられてきてはいるものの、まだまだ口コミでの認知が中心。中国本土向けには規制の問題でアプリストアへの登録に時間がかかっているなど、より本格的に世界に広がっていくのはこれからだといえるだろう。
ペイクはスマホアプリとは別に、訪日外国人が誰でも商品情報を見られるよう、小売店向けにタブレットのレンタルも行なっている。このタブレットを商品棚に設置しておくと、訪日外国人は言語を選んでタブレットに商品バーコードをかざすだけで、翻訳された商品情報を見られる。ペイクは、スマホアプリとタブレットのレンタルという2本立てで、インバウンドビジネスを支援している。
その収益は、メーカーが支払うペイクプラットフォームの月額利用料から得ている。ペイクアプリを使うにはユーザ登録が必要であるため、商品情報が読み取られた時間、場所、年齢、性別などのデータが得られる。この蓄積データをメーカーにフィードバックしているのだ。また、小売店からはタブレットのレンタル料を得ており、導入台数は1店舗あたり5台から10台程度が多いという。
メーカーの負担が大幅軽減
ペイクで表示する商品情報は、メーカー側で作成する。商品の詳細情報だけでなく、PR的な情報を入れてもかまわない。また、写真や動画を入れ込むこともできる。すでに医薬品、美容、健康、食品、飲料などを中心に、約1200社のメーカーがペイクを導入し、約28万点の商品情報が登録されている。
そんなペイクを利用してインバウンドビジネスを成功させているのが、化粧品メーカー・アイスタイルだ。同社は中国発祥の馬油に目をつけ、安心できる国産原料を使った馬油を製造。「馬油スキンクリーム」などが国内外でヒット商品となっている。
「6年ほど前までは、インバウンド市場を意識したことがなく、国内で販売することしか頭にありませんでした。ところが、知らないうちに訪日中国人の間で弊社の商品が評判になり、急激に売れ始めたのです。でも、当時は外国語対応の体制はなく、正直慌てました。そのときに、ペイクの存在を知ったのです」(アイスタイル代表取締役・伊藤友一氏)
インバウンド向け商品のメーカーは、戦略的にインバウンド市場に参入したというよりも、突然訪日外国人に爆売れしたケースが多いのだという。思わぬ幸運だが、その爆売れを維持できるかどうかは経営手腕にかかっている。伊藤氏はインバウンド対応にかなり苦労したという。
「商品のポップを作ってみましたが、複数の言語に翻訳をしなければならず、当然コストがかかります。また、1商品にたくさんのポップができてしまうので、商品棚のスペースの限界から、店頭に貼ってもらうのは簡単ではありません」
そこで、日本語で情報さえ作れば各国語に自動翻訳され、なおかつ全商品の商品情報を登録できるペイクに飛びついた。
伊藤氏は、翻訳精度に関しても大満足しているという。さすがに「お肌つるつる」のような感覚的なニュアンスまで表現するのは難しくても、基本的な商品情報や、ほかの商品との違いなどをアピールするには自動翻訳でも問題はない。アイスタイルでは、翻訳のための外国人スタッフも特に雇用することなく、インバウンドビジネスを成長させている。
小売店のインバウンド戦略にも
小売店も、もはやペイクなしではインバウンドビジネスを展開するのは難しくなっている。サッポロドラッグストアーは、北海道を中心に約200店舗を展開するドラッグストアチェーン。道民からは「サツドラ」の愛称で親しまれる、地元貢献意識の強い企業だ。
そのサツドラが、東京・御徒町のアメ横近くに出店している。上野御徒町店は、本州で唯一のサツドラ店舗。この店舗は2つの戦略的な意味を持っているという。
「サツドラは、道外では沖縄と福岡に出店しています。当然、関東圏にも出店したい。上野御徒町店は、その出店の起点となります。また、もう1つ大事なのがインバウンド戦略です。北海道は訪日外国人旅行客の多い地域で、観光地にはすでにインバウンドフォーマットの店舗を出店しています。アメ横が近い上野御徒町店も、インバウンドを意識した店舗になっています」(サツドラ上野御徒町店店長・小島祐司氏)
インバウンドフォーマット店舗は、通常の店舗よりも訪日外国人に好まれるような品揃えになっているという。また、外国人スタッフの配置も多く、店舗スタッフの約7割は各国の外国人になるそうだ。サツドラ上野御徒町店では、常時12人から13人のスタッフで運営している。しかし、その多くが中国人スタッフであるため、最近急増しているタイやベトナムからの旅行客への対応が難しくなっていた。かといって、これからさまざまな国からの訪日外国人が増える中、無限に各国のスタッフを常駐させることはできない。そこで、ペイクの導入を決めたという。現在、15台のタブレットを配置している。
たとえばタイからの訪日外国人に、タイ語で商品説明をするのは難しいが、カタコトの英語と身振りで、店頭のペイクタブレットの使い方を案内することはできる。これでタイ語表示で商品情報を見てもらうことができるようになった。
「特に、同じジャンルの商品の違いを尋ねられたときに困っていました。日本語でも説明が難しいことをカタコトの英語で説明することはできません。今では、お客様ご自身にペイクの商品情報を見てもらうことで、納得して商品を選んでいただけるようになりました」
また、ペイクを導入したことで接客時間も平準化されたという。中華圏では、俗に「尾行接客」と呼ばれる接客方式が一般の商店で行われている。客が店内に入ると、スタッフが後ろをついて回り、客が何か聞きたいことがあるときにすぐに対応するという接客方式だ。中華圏ではそれが当たり前なので、訪日中国人はスタッフを占有してしまうことがある。次々と質問をして離さないのだ。通常時はそれでもかまわないが、混雑時にスタッフを占有されると、ほかのお客への接客がおろそかになってしまう。このような問題も、スタッフがお客をペイクに誘導してあげることで解決できるようになった。
「今までは、買い物をしたくても対応できるスタッフが見当たらず、諦めて帰ってしまうお客様もいたはずです。ペイク導入後は、1人のスタッフがより多くのお客様に対応できるようになり、そういう残念な取りこぼしのようなこともなくなったと感じています」
ペイクは今後も対応メーカーの数、タブレット導入店舗の数を増やし、翻訳言語の追加にも対応していくという。当面は日本のメーカー、小売店の両者がさらに満足できるインバウンド支援サービスに育てていくことが目標だ。しかし、ペイクが見ているのはさらにその先にある。やがては海外にも展開し、日本人が海外旅行をしたときにも、現地の商品の情報を日本語で読めるようにしたい。「どの国の人が、どの国へ行っても、自国語で商品情報を知ることができる世界」を実現することが、ペイク最大の目標なのだ。
Paykeのココがすごい!
□メーカーが日本語で登録した商品情報を6カ国語に自動翻訳する
□ユーザは商品バーコードを読み取るだけで、翻訳された情報を確認できる
□小売店のスタッフと外国人客とのコミュニケーション問題も解決する