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iPhone Air分解レポート。“史上最薄”を支える革新技術にAppleの本気が見えた!

著者: 今井隆

iPhone Air分解レポート。“史上最薄”を支える革新技術にAppleの本気が見えた!

Photo●iFixit

修理情報の提供やツールの開発販売を手がけるiFixitは9月20日、iPhone Airの分解調査結果を公表した。歴代モデルの中でもっとも薄いiPhoneの内部構造と、その驚きの薄さを実現するためのテクノロジーを探る。

iPhone Air内部のほとんどを占める巨大なバッテリ

iPhone Airのリアパネルを開いて最初に目に飛び込んでくるのは、内部の2/3近くの面積を占める巨大なバッテリだ。従来のiPhoneがバッテリの右側にロジックボードを配置していたのに対して、iPhone Airはそれをカメラブロックの下に配置することで、バッテリを横幅いっぱいまで拡大している。さらにeSIMモデルのみとしたことで、SIMソケットが占めていたスペースもバッテリのために利用されている。

巨大なバッテリ
Photo●iFixit

iPhone Airのバッテリは、iPhone 16 Proで初採用されたアルミニウム製パッケージを採用している(詳しくはこちらの記事を参照)。iPhone 16シリーズではiPhone 16 Pro(16 Pro Maxはラミネートパッケージ)のみに採用されていたこの金属パッケージは、iPhone AirのみならずiPhone 17 Proにも採用されたことが確認されている。iPhone Airのような薄型筐体では、ラミネートパッケージに比べて強度に優れたアルミニウム製パッケージの採用は心強い。

アルミニウムパッケージのバッテリ
Photo●iFixit

さらに驚くことに、iPhone 16で初採用となった新しいバッテリ交換技術がiPhone Airにも採用された(詳しくはこちらの記事を参照)。これは電極に電流を流すことで、バッテリを固定しているシートの接着力を弱めることができる画期的なシートだ。従来のプルタブによるシート剥離方式では、シートの接着力を充分に低下できずバッテリの損傷リスクが高かっただけに、安全にバッテリをリリースできるこの方式は薄いバッテリを使うiPhone AIrでは重要なポイントだ。

新しいバッテリ交換技術
Photo●iFixit

アルミニウムパッケージや電気式剥離シートは、iPhone 16シリーズでは一部のモデルのみにおいて試験的に導入されていた。しかしiPhone Airで両方を同時に採用してきたことは、その効果が確かめられた結果なのかもしれない。にしても、いずれもiPhoneの厚みや重量、コストにおいて不利な条件となるにもかかわらず、iPhone Airへの採用に踏み切ったことは、AppleのiPhone Airに対する意気込みを感じさせるものだ。

容易なバッテリ交換
電気式剥離シートに電流を一定時間流すことで、バッテリをシャーシに固定していたシートの接着力が極端に弱くなる。そこからバッテリを取り外すにはわずかな力しか必要とせず、バッテリを損傷するリスクがないのが大きなメリットだ。
Photo●iFixit




カメラハウジング部に凝縮されたiPhone Airの心臓部

iPhone Air内部の大半を占めるバッテリとは対照的に、iPhone Airのほとんどの機能が本体上部、すなわちカメラハウジング周辺にコンパクトに収容されている。最上部は左からメインカメラ、中央上部がフロントカメラ(TrueDepth)、右側にスピーカなどが格納されている。そしてそれらとバッテリの間を埋めるように、凸型のロジックボードがはめ込まれている。

iPhone Airの心臓部
バッテリ上部のわずかなスペースに、iPhone Airの機能ブロックのほとんどが格納されている。左上部が48Mピクセルの広角Fusionカメラ、その右上に左から順に赤外線カメラ、赤外線イルミネータ、ドットプロジェクタ、可視光フロントカメラが並ぶ。
Photo●iFixit
iPhone AirのX線画像
iPhone Airのパーツレイアウトは、X線画像で見るとよくわかる。リング状のMagSafeマグネットの中心部にQi2受電コイル、その背後にはバッテリがある。バッテリ上部には凸型のロジックボードと、それを取り囲むようにカメラ類やスピーカなどが配置されている。
Photo●iFixit

iPhone Airのロジックボードは、2017年リリースのiPhone X以降で採用された二層構造のロジックボードを継承している。しかし従来のiPhoneのロジックボードのような2枚がほぼ同じ形状のボードではなく、二階部分が極めて小さいことがわかる。実はこれは、iPhone Airの薄いボディに収めるための究極の形状となっている。つまり小さい二階建て部分がすべてカメラハウジング内にすっぽり収まることで、ロジックボード全体をうまく薄い筐体に押し込んでいるわけだ。

iPhone Airのロジックボード
iPhone Airのロジックボードは二階部分が極めて小さく設計されており、ここが厚みのあるカメラハウジング内に収まるように設計されている。さらにこの二階建て部分には熱源であるA19 Proが配置されており、手に触れるボディ部分が熱くならないよう考慮されている。
Photo●iFixit
C1X
そのロジックボード上には、iPhone 16eで採用されたAppleオリジナルの5Gモデム「C1」の改良型である「C1X」が搭載されている。C1Xを取り囲む5G無線チップの数が少なく、C1Xが多くの機能を統合したモデムであることを示している。中央やや上にある大きなシルバーのチップは、ストレージであるNANDフラッシュメモリ。
Photo●iFixit
N1とA19Pro
ロジックボードのうら側には、上部にWi-Fi/Bluetooth/Threadに対応するAppleオリジナルの無線チップ「N1」の姿が見える。右側中央のAppleロゴ入りのチップがA19 Proだ。
Photo●iFixit

iPhone Airの分解レポートを見てわかることは、その極めて薄いボディを実現するために部品レイアウトも含め、すべてのパーツ形状にまで気を配っていることだ。もちろん超広角カメラや望遠カメラ、ステレオスピーカなどのように機能面で割り切っている部分はあるものの、それ以外の部分ではAppleらしい妥協を許さない設計思想が見て取れる。

一般的にこのような極薄デザインの製品ではメンテナンス性が犠牲になることが非常に多いが、iPhone Airはリアパネル側からバッテリ交換を含むメンテナンスが可能で、iPhone 17 Proに比べてメンテナンス性で大きく勝る。さらにアルミニウム製のバッテリハウジングやチタン合金製フレームの採用など、安全性や耐久性を重視した設計は実にAppleらしいと言えるだろう。

優れた強度を誇るチタン合金製フレーム
iFixitではiPhone Airのチタンフレームを曲げるテストを行っていたが、結局フレーム自体は曲がることも折れることもなく、樹脂製のアンテナギャップ部分が破損しただけだった。iPhone Airのサイドフレームがいかに堅牢かを物語っている。
Photo●iFixit
iPhone Airの部品別重量比率
iPhone Airを構成する各部品の重量比率はバッテリが最も重く、残りをフロントパネルとリアパネル、それ以外の筐体部品がほぼ同率を占める。iPhone Airがいかに薄型化とバッテリ駆動時間の両立を実現しようとしたか、が見て取れる。
Photo●iFixit

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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