発表時から賛否が大きく分かれた「iPhone Air」は、この秋に一新されたiPhoneシリーズの中でも、もっとも野心的、かつ特異なモデルである。
そもそも、モデル名に「17」が含まれていない。そして、Proモデルではないにもかかわらず、A19 Proチップ(ただし、GPUコアがProの6基に対して5基)を搭載している。
そう、iPhone Airは、かつてモデルナンバーの9を飛ばして誕生した「iPhone X」や、初代がプレミアムモデルとして登場しておきながら後にエントリーモデルとしてベストセラーになった「MacBook Air」に相当する、今、買うことのできる次世代先行モデルなのだ。
ユーザを選ぶ仕様。でも、唯一無二の選択肢
すでにネット上で賛否両論が飛び交っているように、iPhone Airは決して万人向けのモデルではない。だとしても、SNSやオンライン記事では、何事であれネガティブなタイトルや内容のほうがアクセスを稼ぐには有利なので、その点を割り引いて考える必要はあるだろう。
そもそも、AppleのiPhoneのラインアップには17の標準モデルもProモデルも用意されており、iPhone Airが自分に合わないと思うなら、別のモデルを選択すればよいだけのこと。
カメラ機能ひとつとっても、望遠を含めた多彩な画角やハイエンドの動画撮影が必要ならばProモデル一択となり、コスパ重視で超広角撮影もしたいとなれば標準モデルのほうが向いている。
Proモデルに準じたA19 Proチップを搭載していても、アルミよりも熱伝導率が低いチタン製フレームで冷却用のベーパーチャンバーも持たないとなれば、iPhone Airのピークパフォーマンスはサーマルスロットリングによって低下する。
反面、5.64mmの薄さでも歴代iPhoneでもっとも頑丈かつ柔軟性を備えた筐体が実現され、Apple幹部が出演したインタビュー動画内では、放り投げられたiPhone Airをホスト役が受け取り損ねてテーブルの上に落とし、さらに曲げようとしても多少しなる程度で元に戻る、フレキシブル構造になっていることがわかった。
また、USB-C端子が他のモデルと異なってDisplayPort出力に対応していないため、映像出力を行うには、AirPlayを利用することになる。これも、iPhone Airの位置づけとAppleの基本製品戦略がワイヤレス接続指向であることを考えれば、納得できる範囲にある。
その意味で、個々のモデルのメリットとデメリットを公平に評価し、目的や予算別の選択基準を明確に示している記事には好感が持てるが、一方的にiPhone Airの仕様を否定するのは、木を見て森を見ない意見というべきだ。

Photo●Apple
たとえば、自動車メーカーが、もし軽量化のために遮音材などを省いたスポーティなクーペだけを作って、それがあらゆるユーザにマッチすると主張しているなら非難されて当然である。
しかし、ほかにファミリーセダンや高性能SUVもラインアップに揃えているとすれば、そのクーペの後席が狭いとか、乗り心地が硬いとか、多くの荷物を積めないからダメとかいうのは評価軸が間違っている。クーペにはクーペのよさがあり、それが感覚的な魅力や感性に訴える要素であっても、確固たる存在意義となるからだ。
iPhone Airも同様に、その軽さや薄さ、エレガントさに価値を見出し、正常進化した標準モデルやProモデルとは異なる方向性に魅力を感じる人にとっては、唯一無二の選択肢なのである。
かくいう筆者も、単一モデルだったiPhone X以降、ProやPro Maxモデルを使い続けてきたが、今回はiPhone Airを選んだ。それは、かつて初代MacBook Airに未来を感じたのと同じように、これからのApple製品に加わる新たなベクトルを、一足先に体験できると考えた結果にほかならない。そのネーミングを、“iPhone 17 Air”ではなく単に“iPhone Air”としたことにも、Appleがこのモデルに込めた意図を垣間見ることができる。
iPhone Flo(仮称)のための先行開発か?
筆者は、iPhone Airがまだ噂に過ぎなかった段階から、超薄型iPhoneは、近い将来に登場するであろう「折りたたみ可能なiPhone」のための助走でもあると考えていた。
そうした見方は、発表直後に知人がFacebookにアップした投稿へのコメントにも書き込んだが、実機が登場したことで、その考えは確信に変わった。
そもそもAppleが、Androidではプレミアム製品として販売されている折りたたみモデルに関して、これまで(少なくとも表面上)興味を示さなかったのは、フィルム状のOLEDスクリーンを広げたときに、どうしても中央の折り目付近が完全な平面にならず、わずかな歪みが生じてしまうためだ。
ところが、同社は近年になってその問題を解決する技術を編み出し、ソリッドなスクリーンと同等の平面性を確保するメドがついたとされ、満を持して折りたたみモデルの開発に踏み切ったと考えられている。
iPhone Airの前にも薄型スマートフォンは存在し、市場は限られていたが折りたたみ式スマートフォンも数年にわたって販売されてきた。したがって、Appleは、ここでもファーストでなくてもベストな製品を作るというポリシーを貫いているわけだ。
そして、Androidでは、折りたたみモデルにFlipやFoldの名が冠されているが、Appleがそれらの名称を用いるとは思えない。そこで、ここでは仮に、iPhoneの折りたたみモデルを「iPhone Flo」と呼ぶことにする。“Flo”は「Flow」の意味だが、ProやAirと同じく3文字のほうが収まりがよく、印象にも残りやすいと考えて名づけてみた。語感的にも軽やかで、流れるように滑らかなボディを連想させるため、仮称とはいえ、なかなかよい名前ではないかと思う。
現在、最薄のAndroidスマートフォンは、厚みが5.8mmの「Samsung Galaxy S25 Edge」だ(iPhone Airは5.64mm)。また、折りたたみモデルとしては、縦開きで閉じて13.7mm、開いて6.5mmの「Galaxy Z Flip7」や、横開きで閉じて8.9mm、開いて4.2mmの「Galaxy Z Fold7」、同じく閉じて8.8mm、開いて4.1mmという中国メーカー・HONORの「Magic V5」がある。

Photo●Samsung
横開きの折りたたみモデルのほうが薄くできるのは、面積が広くなれば回路やバッテリを分散配置させやすいためで、iPhone Airの面積がiPhone 17の標準モデルやProモデルより大きい理由も同様と考えられる(事実、iPad ProはiPhone Airよりさらに薄い5.1mmだ)。
過去に薄さをアピールしたチタンボディの「PowerBook G4(15インチスクリーン)」や、昨年の「Apple Watch Series 10」も、実際には縦横のサイズを拡大したことで厚みを減らせたのだった。
もし、「Galaxy S25 Edge」と「Z Fold7」の厚みの比率の5.8:8.9を、iPhone AirとiPhone Flo(仮称)に当てはめると、5.64:約8.65となり、「HONOR Magic V5」よりも薄い、世界最薄の折りたたみiPhoneが誕生する可能性がある。ただし、価格は確実にPro Maxモデル以上となり、登場すれば真のプレミアムモデルという位置づけになろう。
iPhone 19あたりで標準モデルになる?
それでも、iPhone Floの価格をできる限り抑えるには、量産化によって要素技術のコストダウンを図る必要がある。iPhone Airには、そのための役割もあると考えられ、製造コストがこなれたところで、来年にiPhone Floをデビューさせるのは理にかなっている。
また、Appleは毎年の製品発表における話題を絶やさないことでビジネスを安定させる術に長けているので、確実に注目を集められるiPhone Floを発表するならば、来年の「iPhone 18」の標準モデルとProシリーズは正常進化に留め、ナンバーを持たないiPhone Airもマイナーアップデートで済ませる可能性がある。
そして、かつてMacBook Airがプレミアムモデルからエントリーモデルに移行したように、再来年に出るであろう「iPhone 19」でiPhone Airのフォームファクターを標準モデルに採用することもありうるかもしれない。
たとえば、カメラ部と多くの回路を収めたプラトー部分を拡大すれば、標準モデルの2カメラシステムを収められそうだし、その頃には集積技術のさらなる進歩によって、今のプラトーサイズで2カメラ対応にできる可能性もゼロではないだろう。
プラトーが秘めた可能性を探る
ちなみに、そのプラトー部分にカメラと回路基板を集中させ、本体の大部分をバッテリに割り当てたことが、iPhone Airの革新の核となっているわけだが、さらに大胆な想像をするならば、このような縮小化や高密度実装技術は、今後、登場が予想されるグラス型ウェアラブルARデバイス開発の副産物的な見方もできる。

Photo●Apple
当初は、iPhoneのコンパニオン製品的な位置付けかもしれないが、最終的にスタンドアロン製品へと昇華させるには、高性能な基板をフレームに内蔵、あるいは外付けにする場合でも、かなりの小型化が求められる。
スクリーンとバッテリを省いたiPhone Airの姿は、まさにそこに向かうための一里塚にも思えるのである。
著者プロフィール
大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、神保町AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。




![アプリ完成間近! 歩数連動・誕生日メッセージ・タイマー機能など“こだわり”を凝縮/松澤ネキがアプリ開発に挑戦![仕上げ編]【Claris FileMaker 選手権 2025】](https://macfan.book.mynavi.jp/wp-content/uploads/2025/10/IMG_1097-256x192.jpg)
