2020年以降、「Safari」でWebサイトを閲覧すると、Cookie(クッキー)の受け入れに同意を求めるダイアログが現れるようになった。
煩わしいと感じている方も多いだろう。しかし、プライバシーを守るためには重要なことだ。なぜ、Cookieに関するダイアログが頻繁に現れるのか。これが今回の疑問だ。

※この記事は『Mac Fan 2025年1月号』に掲載されたものです。
意外と恐ろしいGoogleの“履歴”。たとえ10年以上前でも、すべて記録されている
「Safari」でWebサイトを閲覧中、Cookieの同意に関するダイアログが現れ、煩わしく感じている人も多いのではないだろうか。Safariの[設定]で[サイト越えトラッキングを防ぐ]をオンにしていると、多くのWebサイトで表示される。


「Cookieって、なんかプライバシー云々の設定でしょ? 私は気にしない」。
もちろん、それもひとつの選択だが、そういう方はぜひ、Googleのアカウント情報から「検索履歴」を見ていただきたい。
「検索履歴」では、過去に検索、アクセスしたWebサイトの一覧が表示される。さらに、左上にあるカレンダーアイコンをクリックし、おおよそで構わないので、Google検索を使い始めたころの日付を指定してみてほしい。すると、それが10年前のことであっても、その日に検索した内容、アクセスしたWebサイトがすべて表示される。
Googleがこの情報を悪用するとは考えられない。また、悪用したという事実もなく、現在では削除する機能も追加されたが、なんとなくゾッとされるのではないだろうか。
Cookieは広告の精度を上げる魔法。一方、Appleは「サイト越えトラッキング」として批判
Googleは、私たちがどのWebサイトを閲覧したのかを監視している。
Googleのアドセンス広告などを掲載しているWebサイトにアクセスすると、GoogleのCookie(サードパーティCookie)が保存される。これを通じて、Googleは誰がどのサイトを見たかを知ることができるのだ。
これは広告精度を上げる魔法のようなもので、Googleはデジタル広告の世界で圧倒的な競争力を持つようになった。たとえば、台湾グルメやホテルのWebサイトをよく見る人に台湾旅行の広告を出せばクリック率が大きく上がる。こういった「ターゲティング広告」により、デジタル広告産業は大きく成長したわけだ。
一方、Appleはこの仕組みを「サイト越えトラッキング」と呼び、プライバシーの侵害だと考えている。そこで2020年、SafariにITP(Intelligent Tracking Protection)という仕組みを搭載した。ITPはいわば、不要なCookieを自動的に削除する機能だ。
プライバシー保護のために生まれた「フィンガープリント技術」。しかし、これもAppleは問題視
しかし広告業界は、何も利用者のプライバシーを侵害しようとは考えていない。商品やサービスを売るための情報が欲しいだけだ。ネットでの行動が把握できれば、消費者1、消費者2…といった匿名でもかまわない。
そこで生まれたのがフィンガープリント技術である。これは、ブラウザの種類やバージョン、入れているプラグイン、使用言語、キーボード配列、タイムゾーンといったWebサイトが入手可能な非プライバシーデータを集め、その違いによって個人を識別するというもの。
広告業界は、匿名のまま個人を区別し、行動データを取得することでターゲティング広告に活かそうとした。
ところが、Appleはこれも問題視した。Googleなどがその気になれば、個人情報と結びつけ、匿名データをプライバシーデータに変換できるからだ。
そのため、Safariに「フィンガープリント保護」機能を搭載している。Safariは、誰もが同じになるよう偽装した情報をWebサイトに送る。これにより全員が同じフィンガープリントになり、Webサイト側で個人を区別できなくなるわけだ。
「閉じる」=「同意」? かなりグレーな「Cookie受け入れ」のポップアップも
Safariはモバイル市場では50%近いシェアを持っているため、広告業界はターゲティング広告ができなくなり混乱している。結果、各Webサイトが利用者にお願いし、Cookieの受け入れについて同意を求めるようになった。

もちろん、同意するかどうかは個人の自由だ。嫌な場合は「拒否」を選べばいいが、その場合はそのWebサイトを閲覧できないこともある。
ただ、問題のあるWebサイトが存在することも覚えておきたい。たとえば日本のとあるサイトでは、同意/拒否の選択肢がなく[閉じる]しか選べない。しかも、[閉じる]をタップすると同意したことになるのだ。これは一種のダークパターンになっている。
利用者は、トラッキングに同意したから閉じるボタンを押したのではなく、邪魔なダイアログを消したくて押した場合がほとんどだろう。

Cookieを受け入れるか、拒否するか。選択は自由だが、自分のプライバシーを守れるのは自分だけ
また、そのWebサイトは利用規約にも大きな問題が潜んでいた。第3条の1項には「ユーザの了承/事前通告なしに規約を変更できる」旨が記載されている。つまり、了承したあとで内容が変わることがあり得るというのだ。
一見無茶苦茶な話に思えるが、2020年4月に施行された改正民法では、「変更が利用者一般にとって利益となる場合」「変更が合理的な場合」は、同意後であっても変更できるようになったため違法ではない。
「Webサイトの閲覧履歴ぐらい把握されてもかまわない」と考えるか、「自分のプライバシーはできるだけ守りたい」と考えるかは人それぞれで、どちらがいいということはない
しかし、この例のようなダークパターン的な手法でCookieの受け入れを同意させようとするようなWebサイトは、できるだけ利用しないことをおすすめする。なぜなら、「消費者のプライバシーよりも自分たちの利益を優先する」と宣言しているのと同じだからだ。自分のプライバシーを守れるのは結局自分しかいない。
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著者プロフィール
牧野武文
フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。







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