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macOS Tahoe 26でIntel Macのサポートが終了。 「Rosetta 2」 の行方はいかに?

著者: 今井隆

macOS Tahoe 26でIntel Macのサポートが終了。 「Rosetta 2」 の行方はいかに?

「WWDC(世界開発者会議)25」では、macOS Tahoe 26がIntel Macをサポートする最後のOSだと発表された。

また、段階的にRosetta 2の機能縮小を進める方針も示された。この決定がユーザに与える影響を探ろう。

Rosetta 2とはなにか

Appleは2020年11月に開催したイベントで、Mac用としては初となるAppleシリコン「M1」と、これを搭載するMacのラインアップをリリースした。

これに先立ち、同年6月に開催した「WWDC20」では、Macの心臓部をIntelのコアプロセッサから、Appleが独自開発したAppleシリコンに移行することを発表した。

その際に、従来のIntelプロセッサのバイナリコード「x86-64」で書かれたソフトウェア資産を、Appleシリコン上でスムースに動かすために用意したのが「Rosetta 2」だ。

2020年にリリースされたAppleシリコン搭載Macでは、従来のソフトウェア資産を活かすべく、IntelコードをARMコードに翻訳する「Rosetta 2」がmacOS Big Surに搭載された。Rosetta 2はmacOS Tahoe 26にも引き継がれることが約束されている。
画像●Apple

Rosetta 2はIntelプロセッサ用に書かれた「x86-64」のバイナリコードを、Appleシリコン上で動くARMのバイナリコード(AArch64)に変換する。Intelコードのアプリをはじめて起動した場合は、Rosetta 2は先行翻訳(AOT: Ahead-of-Time Translation)を実施し、IntelコードをARMコードに翻訳する。

翻訳されたARMコードはIntelコードとともにストレージに保存され、次回以降の起動時は翻訳されたARMコードで動作する仕組みだ。

Appleシリコン搭載Macでは、Intelコードを含むソフトウェアを実行しようとすると、このようなダイアログが表示されてRosetta 2のインストールを促す。Rosetta 2をインストールしたMacでは、それ以降IntelコードがRosetta 2によって自動的に翻訳実行されるようになる。
画像●Apple

また、アプリケーションの実行中にIntelコードに遭遇した場合には、これを動的(JIT: Just-In-Time)に翻訳し、その結果はアプリケーションが終了するまでメモリ上にキャッシュされる。同じコードが再び実行されると、そのキャッシュを使いARMコードで処理される。

このように、AppleはRosetta 2を「Big Sur」以降のmacOSに搭載することで、プロセッサアーキテクチャの更新という大規模な改革を乗り越え、ユーザの過去のソフトウェア資産を新しいシリコンで活かすことに成功した。




Rosetta 2の終焉?

AppleはWWDC25の中で、「macOS Tahoe 26」が「Intel Macをサポートする最後のmacOS」であると発表した。

ちなみにmacOS Tahoe 26に対応するIntel Macは、2019年以降にリリースされた一部のモデルに限定されている。

そして2026秋にリリースされる予定のmacOS 27以降では、Intel Macはすべて対応モデルから除外される。

macOS Tahoe 26でサポートされるIntel Macは、2019年以降にリリースされた一部のモデルに限られている。そしてこのバージョンがIntel Macをサポートする最後のmacOSとなり、2026年以降リリースされるmacOSではIntel Macはサポートされない。
画像●Apple

さらに、Appleはデベロッパ向け資料「About the Rosetta translation environment」の中で、Rosetta 2について「私たちは今後2つのmacOSメジャーリリース(macOS 27まで)で開発者がアプリの移行を完了できるよう、Intelアプリ用の汎用ツールとして提供する予定」と述べている。

また、Rosetta 2はWindows向けゲームタイトルをMacに移行するための支援ツール、「Game Porting Toolkit」のサポートには欠かせない存在だ。

この資料が“macOS 28以降ではRosettaが廃止される”という憶測を呼んだ。では実際のところどうなのだろうか。

先のことはAppleの正式なリリースを待つ以外にないが、詳細はおそらく今後のWWDCで発表されるmacOSの次期バージョンのリリースの中で明らかになっていくだろう。

Appleはデベロッパ資料「About the Rosetta translation environment」の中で、macOS 27までRosetta 2の機能を提供する、と述べている。
画像●About the Rosetta translation environment

しかしそう遠くないうちにRosetta 2が廃止され、Intelコードで書かれたソフトウェアが動かなくなるときがやってくる。それは、過去のmacOSが歩んできた歴史からも読み取ることが可能だ。

初代Rosettaの歴史に見る、移行期間

2006年にAppleがMacの心臓部をPower PCからIntelプロセッサに変更した際にリリースされたのが、初代Rosettaだ。

RosettaはそれまでのPower PCコードで書かれたソフトウェアをIntelプロセッサ搭載Mac上で動作させるために開発された翻訳機能(トランスレータ)である。

RosettaはIntelプロセッサ搭載Macにはじめて対応した「Mac OS X Tiger」で採用され、2011年7月にリリースされた「Mac OS X Lion」で廃止された。

つまり、リリースから約5年半で廃止されており、そう考えればmacOS 27までサポートされるRosetta 2の寿命は長いとも言える。




Rosetta 2廃止への備え

今ユーザにできることは、自分の使っているMacのソフトウェア環境が、どの程度Rosetta 2(Intelコード)に依存しているかを把握することだ。Intelコードで書かれたソフトウェアは、近い将来動かなくなる。

その日が来るまでに、使いたいソフトウェアのすべてを「Appleシリコンネイティブ(ユニバーサルコード)」に統一しておく必要がある。

Big Sur以降のmacOSでは「システム情報」の「アプリケーション」から、現在MacにインストールされているアプリがIntelコードに依存しているかどうかを確認できる。

Big Sur以降のmacOSでは「システム情報」の「ソフトウェア」の中の「アプリケーション」から、現在MacにインストールされているアプリがRosetta 2に依存しているか(Intelコードかどうか)を確認できる。

ただし、ここに記載されているのは主にアプリとサービスであり、デバイスドライバやフレームワーク、プラグインツールなどのRosetta 2への依存性は必ずしも確認できるとは限らないので注意が必要だ。

なお、6月24日にリリースされた「macOS Tahoe 26 Beta 2」以降では、Rosetta 2(Intelコード)への依存を確認できる起動オプションが用意された(Beta 3でも確認済み)。

「macOS 26 Tahoe Beta 2」には、Rosetta 2への依存を確認できる起動オプションが用意された。「sudo nvram boot-args=”nox86exec=1″」を実行することで有効化できる。
画像●Apple

このオプションを使うとIntelコードの起動時にクラッシュレポートが作成され、Rosetta 2への依存性があることが確認できる。

Rosetta 2の廃止までには2年以上の猶予があると考えられるが、いざそのときが来ても慌てずに済むよう、今から少しずつでも準備を進めておきたいものだ。

※この記事は『Mac Fan』2025年9月号に掲載されたものです。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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