関和亮。映像業界でその名を知らない者はいないだろう。関氏は、MV(ミュージックビデオ)やCM、テレビドラマ、映画など、さまざまな作品をとおして世の中にインパクトを放ってきた映像ディレクターだ。

株式会社コエ代表。長野県出身。映像ディレクターのほか、フォトグラファー、アートディレクターとしても活躍。MV、CM、テレビ、映画など、手がけてきた映像作品は多岐にわたる。Perfumeやサカナクション、星野源、OK Goなど、数々の著名アーティストの作品に携わり、その斬新な演出は高く評価されている。2025年9月12日公開の映画「ベートーヴェン捏造」では監督を務める。
洋楽のMVに魅了され、大学をドロップアウトして映像の道へ
1976年、長野県生まれ。音楽が大好きで、高校時代からは洋楽に夢中になった。音楽のチャート番組をとおしてMVに触れ、映像の世界に興味を持ったと話す。
「こういう映像を作る仕事があるのか、こんな作品を作る人になりたい、と思いました。将来の仕事を意識した瞬間でしたね」
一旦は大学に進学したものの、映像の仕事に関わりたいという気持ちが膨らみ、授業に身が入らなかった。結局3カ月で通わなくなり、翌年には除籍。映像系の専門学校に通い始めた。学校では映像制作ソフト「Avid」や、フィルム撮影、照明技術などについて学んだという。
同時期、アルバイト先の店長が、知人だという映画監督を紹介してくれた。関氏はその現場に入り、アシスタントとして雑用をこなし、経験を積んでいく。
「その現場では、演出系や制作周りなど、ひと通りの業務を経験できました。毎日違うことが起こる現場の自由な雰囲気は私にすごくあっていました。ただ、忙しくて学校にはあまり行けなくなってしまいましたが」
Perfumeが起こした一大ムーブメント。その一端をMVで支える
卒業後、関氏はデザイン会社トリプル・オーに入社。アシスタントからキャリアをスタートさせ、アートディレクションや映像制作などのスキルを磨いていった。
「トリプル・オーは、音楽をベースにCDジャケットやMVなどを制作する会社です。まさに自分が思い描いていた世界だったので、すごく楽しかったですね」
そして26歳の頃、転機が訪れる。音楽ユニット「Perfume」のシングルCD「モノクロームエフェクト」のジャケットをデザインする仕事が舞い込んだのだ。
また、続くPerfumeのシングルCD「ビタミンドロップ」ではMVを手がけることになり、ここから関氏とPerfumeとの長い付き合いが始まることになる。
「Perfumeがデビューしてメジャーになっていく過程を近くで体験できたのは、本当に大きなことでした。彼女たちと出会っていなかったら、今この仕事をしていなかった気すらします」
PerfumeのジャケットやMVで関氏が意識したのは、“女の子3人組”という枠や映像の流行にとらわれず、彼女たちの音楽の面白さを引き出すこと。結果、従来の女性アイドルユニットと差別化された独自の世界観は大きな反響を呼び、Perfumeが巻き起こした一大ムーブメントを支えていった。
サカナクション、OK GoのMVも担当。多彩なアイデアは国内外から評価
ちょうど当時は、YouTubeなどの動画サービスが世の中に広がり始めたタイミング。MVをYouTubeで公開するアーティストも増えており、関氏も「どうすれば多くの人にMVをYouTubeで観てもらえるか」を毎回追求したという。
そうした関氏の作風は、以後の作品にも反映されていく。2010年にはサカナクションの「アルクアラウンド」でMV制作を担当。CGや合成を使わず、あえてアナログ感を打ち出したワンカット撮影に挑戦した。
立ち並ぶオブジェや水槽などを活かし、カメラワークの妙で歌詞を見せる斬新な演出は大きな話題となり、第14回文化庁メディア芸術祭エンターテインメント部門優秀賞も受賞している。
また、2014年に公開された米国のバンド「OK Go」の「I Won’t Let You Down」では、当時としては珍しい全編マルチコプター撮影(ドローンによる空撮)を実施。得意のワンカット撮影とマスゲームを組み合わせた演出は、曲に合わせてスケール感を増していき、最後には誰も想像しなかった結末を迎える。まさに関氏の真骨頂とも言える作品に仕上がっている。
学生時代からMac一筋。Power Mac、Powerbook、MacBook…と渡り歩き
斬新な発想と実行力で、常に映像表現の世界を開拓してきた関氏。そのクリエイティビティを支えているのが、学生時代から使い続けているAppleデバイスの数々だ。
関氏が専門学校に通っていた1990年代後半は、映像業界がアナログからデジタルに移行する過渡期。CGやモーショングラフィックスといった表現が広がり始めたタイミングで、関氏もそうした新技術に強い興味を持ったという。そこで友人に相談し、映像制作に向いていると言われたMacを購入した。
最初のMacは、Power Mac 8600のZIPドライブ搭載モデル。ディスプレイなど、周辺機器も一式そろえたことで、金額は70万円にも達したという。
「親に電話して、車はいらないからMacを買ってくれないかと懇願しました(笑)。当時はMacが一般的ではなかったからか、秋葉原の専門店でしか買えないようなマニアックなデバイスでしたね」
それ以降、2000年代に入ると、PowerBookやMacBook Proといったノート型のMacも購入。映像をプログラムで動かす技術に活用するほか、プライベートではクラブに持ち込み、VJとしての活動にも使っていたという。
現在の愛機はiMac。映像作家がMacを選ぶ理由は、色再現度の高さ
現在も、オフライン編集(本編集前の仮編集)にはMacを使用する。個人のスタジオで使うのは、2019年モデルのiMacだ。データはSSDで保管するため、本体ストレージは500GBに留めているが、メモリは72GBに増設している。

関氏曰く、「オフライン編集は高解像度なデータを使うわけではないので、そんなにスペックはいらないのです」とのこと。むしろ重要なのはディスプレイ。
関氏はAppleデバイスのディスプレイについて、「色再現度が高く、現場で見る映像とイメージが大きく変わらないのが良いところ」と評価している。
Macの操作は基本的にペンタブ。画面のスクロールだけはトラックボールで
関氏がユニークなのは、ほとんどの操作をペンタブレットで行う点だ。

「昔、ポスプロ(撮影後の編集作業全般)でマスク編集などをする際、ほかの人がペンタブレットを使っているのを見て、かっこいいと思って自分も使うようになりました(笑)。完全に見た目からです」
現在は映像編集だけでなく、Macの操作全般もペンタブレットを用いるという。画面のスクロールにだけ、トラックボールを使用するそうだ。

絵コンテ作りにiPad Proを活用。愛用アプリは「メモ」と「GoodNotes」
仕事に欠かせないもう一つのAppleデバイスが、iPad Proだ。スタジオと出先で使い分けるために、11インチと12.9インチをそれぞれ導入。「GoodNotes」アプリや標準「メモ」アプリを使って、絵コンテを描いている。
イラスト制作アプリを使わないのは、多彩なブラシ機能を必要としていないため。それよりも、軽くて起動が早く、シンプルに使えることが重要だという。
「多機能すぎると、いろいろなことができてしまうがゆえに余計な作業が増えることも多いんです。描いて、消して、コピペだけできれば十分。シンプルな作業に使うツールはシンプルなほうがいいんです。それでいうと、構想段階のアイデア出しや下書きでは、紙のノートも使いますよ」

Appleデバイスは“人に優しい”。稀代の映像作家は、Vision Proにも熱視線
関氏はAppleデバイスの長所を「詳しい知識がなくても使えること」だと話す。
「システムをいじったりしなくていいし、やりたいことがすぐにできる。人に優しいデバイスだと思います。全人類が使いやすいように整えられている感じがするんです」
そんな関氏が今もっとも注目しているのがVision Proだ。一度体験したとき、「未来が来た!」と感じたとか。映像表現は、常に媒体やデバイスと共に進化を続けてきた。業界の最前線に立つ関氏の目は、すでに次の時代を見据えている。




※この記事は『Mac Fan』2025年9月号に掲載されたものです。
著者プロフィール
山田井ユウキ
2001年より「マルコ」名義で趣味のテキストサイトを運営しているうちに、いつのまにか書くことが仕事になっていた“テキサイライター”。好きなものはワインとカメラとBL。



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