飲料メーカー大手のキリンビバレッジが2025年6月、企業を対象にしたいわゆる「健康支援アプリ」をリリースした。すでに多数の競合が乱立する分野でなぜ同社が? それもto Bで? 担当者に疑問をぶつけると、意外な答えが。 「スムージーから始まった」という、今や飲料のジャンルに留まらない、同社の健康への取り組みを紹介する。
キリンが健康領域へ進出
2025年6月にリリースされた、キリンビバレッジのウェルビーイングを推進する健康支援アプリ「WellWa(ウェルワ)」。健康支援アプリとは、ヘルスケアやフィットネスの情報を集約し、利用者がより健康になる助けになるものを指す。「WellWa」誕生のきっかけは、オフィスに野菜と果物のスムージーのドリンクスタンドを設置する、法人向けの福利厚生サービスだった。
それがキリンビバレッジの新規事業としてスタートした「KIRIN naturals」だ。2017年9月から首都圏限定でテスト展開し、2019年1月から全国に展開された。同社が飲料メーカーの枠にとらわれず、新しい事業ドメインを開拓しようとしていたことは、当初からスムージー以外に、「楽しみながら学べる」と謳う健康セミナーをセットで提供していたことにも表れている。
全国展開がはじまった2019年には、同社は化粧品・健康食品メーカーのファンケルと資本業務提携を結んだ。その後、2024年にはキリンホールディングスがファンケルを完全子会社化。飲料の国内市場が飽和するなか、グループ全体として積極的に健康領域への進出を図っていることがわかる。
キリンビバレッジ企画部CSV推進室の小松夏菜氏は、こうした動きには「日々の暮らしに寄り添いながら多くの方の健康を支えたいというキリンビバレッジの思いがある」と話す。

「私たちも驚いたことに、利用者の方が一つの健康習慣を身につけると、『これはないの?』『あれが欲しい!』と次から次へと前向きな要望をいただけるようになりました。それに応え、まさに“アジャイル開発”で、どんどん提供するサービスを増やしていったのです」


健康支援アプリ開発の経緯は?
企業としての理念と、マーケティング上の狙いが一致し、キリンナチュラルズはサービスを拡大していく。また、セミナーの内容は「食事」や「運動」のテーマだけでなく、「ストレス低減」や「睡眠の質の改善」へと拡大していった。
膨れ上がるニーズに応えるように、2022年12月には大幅にコンテンツ内容を刷新した。2024年3月末時点では、キリンナチュラルズは546拠点に導入されている。そして2025年6月、新たなプラットフォーム「WellWa」アプリがリリースされた。
キリンナチュラルズから名称変更された事業名称「WellWa」を、そのままアプリ名としても使っている。「WellWa」には「ウェルビーイングの輪を広げていく」という思いが込められているという。
結果的にたどり着いたのは、近年、企業から自治体まで幅広く参入が続く「健康支援アプリ」で、すでに先発のアプリが多くある領域だ。しかし、そこに至るまでの経緯は、同社ならではのユニークなものだったと言える。
WellWaは、組織やそこに属する個人のウェルビーイング推進をサポートする。たとえば、チーム対抗で取り組む「チャレ活」や部門別で健康データを表示・ランキング化する「健康選手権」など、利用者が健康習慣を継続しやすいようなゲーム性を採り入れている。
また、日々設定される歩数などの「ミッション」を達成するとポイントが貯まり、貯まったポイントを前述の置き型スタンドで飲料などと交換できるようにする予定だ(2025年8月以降)。これは同社ならではの強みを活かしていると言える。事業名称をWellWaと改称しても、引き続き、飲料や食品の置き型スタンドや、従業員の健康習慣をサポートするオンラインセミナーも提供する。

運動、睡眠、食事、飲酒、体重など、日々の健康記録が可能。生活の中でどのくらいの健康行動を実現できているかを、簡単に確認できる。デイリーミッションをクリアするとポイントを獲得。貯まったポイントは、健康商品の購入に1ポイント1円相当として利用可能だ。

「ウォーキング」「適正飲酒」など、キリン独自開発の豊富な健康イベントにチーム対抗で参加すると、部署内外のコミュニケーションのきっかけにもなる。また、自分だけでなく、部署単位での健康記録の比較が可能。周囲の健康行動を参考に、自分の健康への取り組みを改善することができる。

「アプリを起動しよう」「8000歩あるこう」「同僚と会話しよう」「ノンアル飲料を試そう」など、1日1回更新されるミッションをクリアするとポイントが付与される。ポイントをインセンティブに、自然と健康習慣が身につくように設計されている。
健康経営の効果を可視化する
健康経営を推進する企業が多く抱える課題として、健康意識の高い従業員は主体的に取り組んでくれるが、そうでない従業員は「やらされ感」を感じてしまうことがある、と小松氏は指摘する。
「WellWaはそうした課題に対し、日常生活に自然に溶け込むアプローチを重視しています。たとえば、飲料などの身近なコンテンツを活用することで、健康に対する意識が高くない層にも無理なく働きかけることが可能です。こうした日常に根差した接点を活かせることは、キリンならではの強みのひとつだと考えています。」
同社内の社員を対象にしたサーベイ・分析によれば、「健康習慣(運動、飲酒、睡眠、食事)を一つでも改善すると、ワークエンゲージメント(従業員が仕事に対してポジティブで充実した心理状態)と、プレゼンティーズム(従業員が体調不良などで本来のパフォーマンスを発揮できていない状態)の数値も良化するという。同様に、職場内コミュニケーション量を増加させることでも、両指標が改善される。つまり、健康習慣やコミュニケーションの改善によって、従業員の仕事に対する「活力」「熱意」「没頭」などの心理状態が向上し、出勤しているにも関わらずパフォーマンスが上がらない状態が解消されることが示唆された。
「健康経営の価値を示すうえで、健康習慣やコミュニケーション量の改善が生産性向上に寄与することを定量的に示せたことは意義があると考えています。これからもサービスを通して、ウェルビーイングの輪を社会に広げていきます」
※この記事は『Mac Fan 2025年9月号』に掲載されたものです。
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著者プロフィール
朽木誠一郎
朝日新聞デジタル機動報道部記者、同withnews副編集長。取材テーマはネットと医療、アスリート、アメコミ映画など。群馬大学医学部医学科卒、編集プロダクション・ノオトで編集/ライティングのスキルを磨く。近著に『医療記者の40kgダイエット』『健康を食い物にするメディアたち』など。







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