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掲載日:

「Appleでサインイン」は、ほかのソーシャルログインと何が違うのか?

著者: 牧野武文

「Appleでサインイン」は、ほかのソーシャルログインと何が違うのか?

アプリやWebサービスで見かける「Appleでサインイン」。面倒なログイン操作が不要で、Apple Accountでログインができるという便利なソーシャルログイン機能だ。

この「Appleでサインイン」は、ほかのソーシャルログインと何が違うのか。これが今回の疑問だ。

※この記事は『Mac Fan 2022年3月号』に掲載されたものです。

「Appleでサインイン」とは?

利用するWebサービスが増えれば増えるほど管理が煩雑になるのが、ログインIDやパスワードといった情報だ。そうした手間を軽減するため、ソーシャルメディアのアカウントを活用してログインできる機能「ソーシャルログイン」を利用している方も多いのではないかと思う。

Appleでは、ソーシャルログインにあたる機能として「Appleでサインイン」を提供している。「Appleでサインイン」に対応するサービスを利用するとき、そのサービスでアカウント登録をしなくても、Apple Account経由でログインができるというものだ。

通常、このような場合、ソーシャルメディア側が保有している個人情報の一部がサービス側に提供される。しかし、Appleの場合は、ユーザのプライバシーに配慮し、名前とメールアドレスしか渡されない。しかも、メールアドレスはランダム化される。

サービス側からの連絡はAppleが中継してくれるので問題なく受け取れて、万が一そのサービスからメールアドレスが流出をしたとしても、ランダム化されたメールアドレスを停止してしまえば悪用されることもない。ほかのソーシャルログインに比べて、ユーザのセキュリティが重視されている。

選択肢が増えると、どのアカウントでログインしたか忘れてしまう!

このようなソーシャルログインは、GoogleやFacebook、Yahoo、X、LINEなども提供している。選択肢が多い分、これが別の困った問題を生じさせている。

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「Dropbox」アプリを開くと、「Googleで続行」「Appleで続行」が選べるようになっている。[Appleで続行]を選ぶと、アカウント作成をせずにログインができる。

Webサービスのログイン時、画面に「Apple」「Google」「Facebook」などとソーシャルログイン機能を提供しているサービスのボタンが並ぶだろう。「はて? どのアカウントでログインしたんだっけ?」と以前のログイン方法がわからなくなるのだ。

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ソーシャルログインが広がるのはよいことだが、あまりに選択肢が増えると、以前どのアカウントでログインしたかがわからないという問題が発生する。

アカウントに役割分担させるのが吉

これを解決するために、自分の中で、アカウントに役割を分担させることをおすすめする。どのように分担をさせるかは人それぞれだが、筆者は次のような指針でソーシャルログインを使っている。

①利用できるときは極力「Appleでサインイン」を使おう

最大の理由は、Appleはユーザのプライバシーに最大限の注意を払っているからだ。さらに、どのAppleデバイスからも簡単にログインができるようになり、Appleが提供する二要素認証やTouch ID、Face IDにも対応できるようになる。

安全性と利便性が大きく向上する。特に、クレジットカード登録など、決済が関係するサービスの場合、可能な限り「Appleでサインイン」を使うようにしている。

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「Appleでサインイン」では、名前とメールアドレスのみがサービス側に渡される。[メールを非公開]にすると、ランダムなメールアドレスが生成されるため、プライバシーを守ることができる。
画像:Apple

②SNS系のソーシャルログインは使わない!

多くのSNSでは、ソーシャルログインという便利な機能を利用者に提供するというよりも、SNSと別のサービスを連係させ、より情報収集に厚みを持たせることが主眼になっているように感じてしまう。そのため、どのような情報が相互に提供されるのかを事前に確認しておく必要がある。

また、以前、ポルノサイトにSNSのアカウントを使ってソーシャルログインをしていた知人が、SNSに「ただいま○○を鑑賞中」と自動ポストされるという大惨事が起きたのを目撃して以来、SNSのソーシャルログインは一生使わないと決めた。

③決まった役割を担わせよう

残るアカウントはGoogleとYahooになる。筆者の場合はグーグルに情報系サービス、Yahooに生活系サービスのソーシャルログインを担当させている。

この分担は、人それぞれわかりやすいものでいいと思うが、これでほとんどの場合「どのアカウントでログインしたっけ?」となることはまずなくなるだろう。

機能の目的はプライバシー保護

この「どのアカウントでソーシャルログインしてたっけ?」という問題に対して、サービス側が「前回はGoogleでログインしています」と表示してくれればいいのにと思うが、一般の消費者向けのアプリ、Webでその機能を実装するとなると問題が生じる。

なぜなら、前回どのアカウントを使ったかという情報は、Cookieという、Safariなどのブラウザが生成する小さなファイルに記録されるからだ。このCookieはログイン情報や前回どのページを閲覧したかなどを保存できる便利な仕組みだが、これがトラッキング広告などの、(Appleから見れば)過剰なプライバシー活用につながっているとも考えられている。

そうした背景もあり、AppleはITP(Intelligent Tracking Prevention)機能をSafariに搭載した。これは簡単に言うと、Cookieを削除する機能だ。加えて、今のSafariには「すべてのCookieをブロック」という機能もある。

サービス側がどのような情報をCookieに保存し、活用しているのかを消費者にわかるレベルで明らかにされていない現在、Cookieブロックをオンにしておくか、もしくは「プライベートブラウズ」を活用するのが好ましい。

「Appleでサインイン」なら、Cookieがオフでも利用できる!

しかし、そうなると、ログイン情報も保存できなくなるため、サービスを利用するには毎回ログインが必要になってしまう。

そこで、Appleは、Cookieがオフであっても、簡単に、かつセキュアにログインできる「Appleでサインイン」を提供している。ジャンルとしてはソーシャルログイン機能だが、目的や成り立ちがほかとは違っている。

同じソーシャルログインでも、SNS系はサービスと利用者情報を提供し合い、より厚みのあるマーケティングデータを収集することが目的のひとつと考えていい。プラットフォーム系はプラットフォームの利用頻度を高め、自分たちを中心にしたエコシステム経済圏をつくることが目的だ。

Appleの場合は、Appleユーザのプライバシーを守り、Appleサービスの品質の向上が目的となっている。

パスワードレスの時代へ

現在、「Appleでサインイン」に対応しているサービスは多いとは言えないが、今後増えていく可能性は高い。Appleは、App Storeで配信をするすべてのアプリに対して「Appleでサインイン」に対応することを求めているからだ(義務ではない)。

デメリットとしては、サービスからの電子メールの連絡がiCloudメールに届くようになること。また、サービス側からメールアドレスを尋ねられた場合は、Appleが自動生成したランダムなアドレスを調べて伝える必要があることだ。

いずれにしても、Appleの「キーチェーン」と「Appleでサインイン」を活用すれば、「パスワードを覚えておく」という管理方法からはほぼ完全に解放される。今の時代、それだけでもApple製品を選ぶ大きな理由になる。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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