“ノートブックコンピュータの革命”をフルモデルチェンジ
初代iMacがデスクトップコンピュータの世界にデザイン革命をもたらしたように、初代iBookもエントリークラスのノートブックコンピュータにデザイン面での新風を吹き込んだ。
しかし、iBookの回でも触れたように、まだこのときには開発資金や技術が十分ではなかったAppleが、800×600ピクセルに過ぎない解像度の12インチスクリーンと、3.04kgという決して軽くはない重量の製品を魅力的に見せるために、デザインのマジックを使った製品であるともいえた。
そのため、フルモデルチェンジがどのように行われるのか注目されたが、2001年に登場した後継モデルiBook(Dual USB)は、一転して白くて四角いミニマルなフォルムの製品となった。そして、余分な丸みを削ぎ落とした分、コンパクトになり、800g近い減量にも成功した。
“白パソ”ことiBook(Dual USB)。他社も追随した“新鮮さ”
ボディ素材はポリカーボネートながら、チタン製のPowerBook G4との類似性を感じさせるツートーンカラーとし、この時期のノートMacのアイデンティティを共有したといえる。
ベクトルが180度異なるデザイン変更によってiBookは、初代モデルが備えていた楽しい雰囲気や持ち運び用のハンドルと引き換えに、デザイン担当のジョナサン・アイブが本来得意とするシンプルでミニマルなフォルムを手に入れたのである。
初代iBookを見慣れた目からは、この白いiBookはやや面白みに欠ける印象を受けたものの、一般消費者にとっては、白く艶のある筐体が新鮮だったようだ。加えて、同じ12インチサイズでも解像度が1024×768ピクセルへと向上し、何より画面サイズに見合う外寸となったこともあって、製品としての販売は好調だった。
そうなると、他社もこぞってホワイトカラーのノートPCをラインアップに加えるようになり、マスコミはこの種の製品を「白パソ」と呼んでもてはやした。のちにMacBook Airのデザインが薄型ノートPCのトレンドをリードしたように、このiBookは白パソブームの牽引役となったのである。
“奇異”な名前のiBook(Dual USB)。Appleの狙いは?
同年、Appleは初代iPodを発売して白いイヤフォンでデジタル音楽プレーヤ市場を席巻することになるが、このときも他社は、トレンドにあやかりたいが故に自社製品に白いイヤフォンを同梱し、図らずもAppleのブランド戦略を後押してしまった。自らの軸足を持たないメーカーは、このように無意識のうちにAppleに操られ、結果的に同社のマーケティングの後押しをしてしまうところがある。
初代iMacのカラフルさにはついていけなったメーカーも、より無難な白いノートPCであればと追従し、業界全体がベージュのコンピュータからの脱却に向けて大きく舵を切るきっかけをiBook(Dual USB)が作ったのだった。
それにしても、iBookの世代区分するために付けられた「iBook(Dual USB)」を奇異に感じられた方も、読者の中におられるかもしれない。初代iBookは、後期モデルこそFireWire 400ポートも1基追加されたものの、USBポートはずっと1基のみだった。その数を、より一般的な2基に増やしたことが、その由来だ。しかし、それを世代区分のための公式呼称に含めるとは、Appleとしてもよほどその点をアピールしたかったのだろう。
※この記事は『Mac Fan』2021年7月号に掲載されたものです。
おすすめの記事
著者プロフィール

大谷和利
1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。