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MacやiPhoneのスピーカ性能の秘密に迫る

著者: 今井隆

MacやiPhoneのスピーカ性能の秘密に迫る

覚えておきたい用語

ハイレゾエンクロージャダイナミックスピーカ
ハイレゾの定義は一様ではないが、電子情報技術産業協会(JEITA)ではCD品質を超える音源を「ハイレゾ音源」と定義している。その一方で、日本オーディオ協会(JAS)は、サンプリング周波数が96KHz以上かつ量子化ビット数が24ビット以上の音源をハイレゾと定義する。本ページではJEITAのハイレゾ定義を採用した。スピーカユニットは通常、ユニットの正面と背面から逆位相の音を出す。ユニットだけの状態だと両者が打ち消し合ってしまうため、主に背面の音を封じ込めるのがエンクロージャの役目。エンクロージャ容量が大きいほど低音域の再生に有利であり、小型化とワイドレンジ化の両立を図るさまざまな技術が投入されている。フレームに固定された永久磁石と、振動板に取り付けられた電磁石の磁力作用によって、振動板を振わせて音を出すスピーカユニット。可聴帯域の大半をカバーできる汎用性がある。振動板の面積が大きいほど低音域の再生に有利だが、高音域への追従能力が落ちる傾向があり、複数のユニットを合わせて使用することも多い。

小型軽量化を支える新しいサウンド技術

MacやiOSデバイスのサウンドデバイスには、いずれもダイナミック型のスピーカユニットが採用されている。ダイナミックスピーカは永久磁石と電磁石を利用して振動板(コーン)で空気を振動させ、電気信号を音に変換する出力デバイスだ。人が聞き取れる音の周波数レンジ(可聴帯域)はおよそ20〜2万Hz(ヘルツ)とされているが、コンピュータなどの内蔵スピーカが発生できる周波数はこれよりもかなり狭い。

中でも低音域の再生能力はスピーカユニットおよびエンクロージャのサイズが大きいほど有利になるが、ノート型コンピュータやタブレットなどの限られた内部空間に充分なエンクロージャ容量を確保するのは非常に困難なため、300Hz以下の音は再生できないことがほとんどだといわれている。

また、スピーカユニットのサイズ制限から、十分な音量が得られないこともありえる。しかし、デバイスのサイズや重量は年々低下し、さらに薄型化によってエンクロージャ容量を得ることも難しくなっており、結果的にハードウェアは音質的に不利な設計に進化しているのが現状だ。

そこで、サウンドデバイスの構造やユニット自体に工夫を凝らすことで、限られたスペースの中でより広帯域かつ広ダイナミックレンジを得るための技術が開発・採用されている。ここではApple製品に導入された新技術を2つ見てみよう。

MacBookシリーズでもっとも軽量なMacBook12インチモデルは、その驚異的な薄さとは対照的に、シリーズの中でも極めて優れた音質を誇っている。MacBookには2つ(ステレオ)のスピーカエンクロージャが搭載されており、それぞれに2個ずつドライバユニットが搭載されている。

このうち外側のユニットがフルレンジドライバ(全帯域スピーカ)で、内側のユニットはバスドライバ(中低域スピーカ)として使用されている。人の耳は中高域の指向性には敏感だが、低音域の指向性には鈍感だ。

そこで外側2個のドライバユニットではフルレンジを再生して十分なステレオ感を確保しつつ、不足しがちな中低域を内側の2つのドライバユニットで補っている。その結果、従来のMacBookシリーズに比べて中低音域の再生能力が大きく向上しており、大振幅に耐えるドライバユニットの採用と、キーボード上部に広く開口部を設けたスピーカグリルなどと相まって、サイズに捕らわれない高音質を獲得することに成功している。

MacBookのスピーカユニット

MacBookでは2つのスピーカエンクロージャに計4個のドライバユニットが装着され、それぞれが独立したデジタルパワーアンプで駆動される。(バイアンプドライブ方式)また金色にメッキされたエンクロージャは無線アンテナの役割も兼ねている。

画像●ifixit

限られた空間に配置されたエンクロージャ

白く見える部分がユニボディに形成されたエンクロージャ。内部が区切られているのは、音道を折り曲げて長くし共振周波数を下げる目的と思われ、斜めに区切られているのは定在波を防ぐためと考えられる。

画像●ifixit

一方でiPad Proは、これとは異なるアプローチで高音質を獲得している。同モデルではMacBookシリーズのようなエンクロージャに収めたスピーカユニットをマウントする方式ではなく、ユニボディそのものにエンクロージャを構成し、そこに裸のドライバユニットを直接マウントする構造(ケース・アタッチド・トランスデューサ)を採っている。

これに加えて、ボディに形成したエンクロージャに仕切り板を設けて音道を構成し、ドライバユニット背面の音圧を音道に導くことで、より豊かな中低域の再生を可能としている。さらに音道を塞ぐシートをパッシブラジエータのように振動させることで、低音の量感を得る工夫も見られる。

iPad Proではこのスピーカユニットを4組搭載し、縦横いずれの使用でもつねに適切なステレオ感が得られるようにアンプ出力をコントロールしている。なおiPad ProもMacBookと同様に、上側に相当する2ユニットが全音域を、下側に相当する2ユニットが中低音域をカバーするバイアンプドライブ方式となっている。

iPad Proは一体形成

ピンセットで持ち上げているのがドライバユニット。同じものが4個搭載されている。振動板正面から出た音は横に曲げられてシャーシ側面のスピーカ穴から、振動板背面の音は、ユニボディに一体形成されたエンクロージャへと導かれる。

画像●ifixit

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進みつつあるMacのハイレゾ対応

最近は従来の音源の音質を上回る「ハイレゾ音源」と、それを再生可能なハイレゾ対応機器が市場を賑わせている。現在iTunesで再生できるハイレゾ音源のフォーマットは「Apple Lossless Audio Codec(ALAC)」のみであり、日本オーディオ協会が求めるFLACおよびWAVフォーマットでのハイレゾ音源には対応していない。

しかしサードパーティ製のアプリにはこれらのフォーマットに対応するものがあり、これを使えばFLACなどのハイレゾ音源を再生できる。

ハードウェアの対応としては、ほとんどのMac(MacBook、MacBook Airを除く)に光デジタル出力が用意されており、192kHz/32ビットまでの音源への対応が可能だ。またUSB接続の外付けDAC(デジタル・アナログ変換器)を使えば、より高いサンプリングレートの音源再生も可能になる。また、Macの内蔵DAC自体は96kHz/32ビットまでのハイレゾ音源に対応しているが、内蔵スピーカがハイレゾの再生仕様を満たしておらず、対応ヘッドフォンなどの再生装置を別途用意する必要がある。

一方でiOSデバイスは、iPhone 6以降では性能の高いDACチップを搭載しているにもかかわらず、iOSおよびiTunesでの制限からApple Musicでは48kHz/24ビットまでしか再生ができない。JASが規定するハイレゾ音源をハイレゾクオリティで再生するには、外部DACとハイレゾ対応アプリが必要だ。

次期iPhoneではヘッドフォン端子が省略され、オーディオの出力端子がLightningに変更される、との噂もある。Lightning端子にはアナログオーディオ信号は出力されていないため、そこに接続するヘッドフォンはUSB接続のDACと、ヘッドフォンアンプを内蔵しなければならない。これは、ヘッドフォンが搭載するDACにハイレゾ対応のものを使用し、ヘッドフォンアンプやイヤースピーカユニットをワイドレンジ化すれば、容易にハイレゾ対応の再生環境が実現できることを意味している。

現状のiPhoneでもハイレゾは再生可能

iPhoneのLightning端子に接続し、ハイレゾ対応アプリと組み合わせることで最大192kHz/24ビットまでのハイレゾ音源が再生可能なロジテック「LHP-AHR192」。ハイレゾ対応ヘッドフォンとのセット「LHP-CHR192」もある。

画像●Logitec

すでにLightning端子に接続して使用するハイレゾ対応アンプは存在するが、もしiPhoneからヘッドフォン端子が廃止されれば、必然的にヘッドフォンはデジタル接続となり、一気にハイレゾ対応が加速するものと推測される。

また、ソフトウェアの面でも、iOSやiTunes、Apple Musicなどがハイレゾ音源に対応すれば、手軽に高音質な音源が手に入るようになる。FLAC形式などで収録された既存の音源をiTunesで管理できるようになれば、今ハイレゾを利用しているユーザの利便性も高まるだろう。

次期iPhoneのヘッドフォン端子が省略されるかはまだわからない。しかし、もし噂が真実であり、なおかつ筐体の薄型化だけが目的ではないとしたら、Appleのしたたかな戦略を垣間見たような気がしてならない。

※この記事は『Mac Fan』2016年10月号に掲載されたものです。

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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