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「Claris カンファレンス 2024」開催! FileMakerによるDX推進とAI活用の未来

著者: 栗原亮

「Claris カンファレンス 2024」開催! FileMakerによるDX推進とAI活用の未来

2024年11月13日から15日にかけて、東京・虎ノ門ヒルズフォーラムで「Clarisカンファレンス2024」が開催されました。

基調講演に登壇したClarisのアンドリュー・ルケイツ氏とロニー・リオス氏に、FileMakerをはじめとするClarisプラットフォームの現状と生成AIなど新機能への期待、Appleとのパートナーシップについて話を伺いました。

Clarisプロダクトマーケティングおよびエバンジェリズム担当ディレクターのアンドリュー・ルケイツ氏(右)。
Clarisプロダクトマネージャーのロニー・リオス氏(左)。

AI関連機能が支持され、2桁成長を達成

──Clarisカンファレンス2024が今年も始まりました。印象はいかがでしょうか。

ルケイツ 私は東京が好きで何度も訪れていますが、今回も多くの開発者やパートナーの皆さんとお会いできて、まるでホームに戻ってきたような印象です。

リオス 私は今回が初めての日本訪問です。ずっと訪れたいと思っていたので、東京のカンファレンスに参加することができ、夢が叶ったような気持ちです。私はAI関連の担当マネージャーをしていますが、今年はAIに関する9つのセッションがあり、先進的な事例の多さに非常に感銘を受けています。

──Clarisのビジネスも堅調のようですね。

ルケイツ 私たちのビジネスは引き続き好調で、今年の9月末に会計年度を終えたのですが、2桁成長という目標を達成しました。また、基調講演でも発表しましたが、Appleと戦略的に市場にアプローチすることで、昨年から新たに2万件の顧客を獲得し、四半期ベースでは10数年ぶりの好業績を記録しました。2025年に向けてさらに強い勢いを持っており、特にAIに関する製品の方向性が顧客に強く支持されていると感じています。

──FileMakerなどClarisプラットフォームの使われ方に変化はありますか?

ルケイツ 15年前、多くのお客様は単一のアプリケーションを構築することにとどまっていました。しかし、現在では、企業全体のワークフローや部署、業務全体をデジタル化する動きが進んでいます。私たちのプラットフォームは、この変化に対応し、顧客が必要とする適切なツールを提供できるよう進化しています。また、FileMakerの可能性を広げるために、Claris Connectの活用も推奨していますし、Claris Studioも正式リリースに向けて機能や品質の強化を進めています。

──日本でのDX(デジタルトランスフォーメーション)の動きをどう見ていますか?

ルケイツ 日本ではDXが非常に重要なテーマであり、ある意味では日本がこの分野で世界をリードしていると感じます。講演では、日本企業がどのようにDXを実現しているかを示す顧客事例を3つ共有しました。また、ほかの企業も一連の簡単なステップを踏むことで、同様の成果を得ることができると信じています。

中小企業のDX推進とAIの可能性

──日本企業のDXの課題として、業務の効率化やIT人材の不足がよく挙げられます。Clarisとしては、どのような課題解決に貢献できるとお考えですか?

ルケイツ 私たちが提唱しているのは「ワークプレイスOS(Workplace OS)」という考え方です。iPhoneにiOSがあるように、ClarisプラットフォームをOSとして導入することでビジネス全体がデジタル化され、個々の業務課題解決のためにアプリを手軽に作成して実行できるようになります。これにより、業務効率化はもちろん、プロダクトの品質向上やビジネス成功率の向上が期待できます。特にFileMakerでは、AIやクラウドなど100以上の機能を拡張しており、ビジネスにおける多様な課題を解決できるようになっています。

──対象となるのはどのような企業が多いでしょうか?

ルケイツ 今回、スモールビジネスにおける成功事例として「なごみ薬局」の事例を紹介しました。地域に根ざした薬局として数千人ものお客様を抱えており、創業者の渡邊輝さんが原動力となって、薬の管理や処方箋作成などの業務を効率化するために50以上のアプリを開発しています。また、電子機器や楽器などの金属メッキを手掛ける「日本電鍍工業」では、小ロット多品種のニーズにより膨大なSKU(在庫管理単位)が発生する課題がありましたが、FileMakerを活用して管理業務を自動化し、ビジネスプロセスの効率化を実現しました。そして3つ目の事例は「小田急電鉄」です。運転士や整備士といった鉄道のオペレーション担当者が、社内で立ち上げたDX部門に加わることで、細かなニーズに対応しつつソフトウェア開発人材の不足という課題を解消しました。

「Apple at Work」では、なごみ薬局の事例が紹介されています。
https://www.apple.com/jp/business/small-business/success-stories/

──多くの成功事例に触れられるのも、カンファレンスならではの醍醐味ですね。FileMaker 2024では「セマンティック検索」などAI関連の新機能が追加されましたが、反響はいかがですか?

リオス LLM(大規模言語モデル)をPoC(概念実証)としてアプリに導入されたお客様の多くは、AIがその会社のビジネスの中身を知らないことに気づかれます。LLMは学習データの範囲内でしか正確な情報を提供できないため、お客様は自社で蓄積したデータを抽出してLLMに提供する必要があります。セマンティック検索は、その正しいデータを抽出してLLMに適した形にするための仕組みとしても役立ちます。

──自社データの構造化や出力の最適化にRAG(検索拡張生成)を取り入れる企業も増えています。セマンティック検索もその一助になるということですか?

リオス そのとおりです。それがセマンティック検索に注目している理由です。この技術は、企業内に蓄積された多様なデータから手軽にインサイトを引き出す効果を持っています。また、オープンソースのLLMやローカル環境で稼働するLLMなど、企業の選択に応じて、安全な形でAIを活用するニーズにもFileMakerは適しています。

Apple Intelligenceへの期待とアプリ開発者へのアドバイス

──今年、Appleが米国で提供を開始したApple Intelligenceについては、どのように見ていますか?

ルケイツ ClarisはAppleカンパニーの一員として、この技術に非常に注目しています。私自身もiPhone 16を発売初日に入手し、AI機能を試しましたよ。Apple Intelligenceは、iPhoneやMacなどのデバイスを通じて、AIの力を何百万、何千万もの人々に届けられる点で非常に重要だと考えています。今年、私たちがもっとも注目している重要な出来事のひとつです。

──Clarisプラットフォームと何らかの形で連携する可能性はあるのでしょうか?

ルケイツ Clarisプラットフォームは、主にチーム間でのビジネスデータ活用をサポートする仕組みを提供しています。一方、Apple Intelligenceはよりパーソナルな分野でAIを活用する技術だと考えています。技術的な観点から言えば、写真を分析して画像の内容を特定したり、ライブテキストで情報をより豊かにするためにApple Intelligenceを活用する可能性が考えられます。こうした高付加価値な機能が新たにAPIで提供されるようになれば、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

──生成AIの登場によって、アプリ開発のスタイルにも変化があるかもしれません。AIによるコーディングについてはどのようにお考えですか?

ルケイツ AIの進化は急速で、そのトレンドは現実のものとなっています。私たちの開発者もLLMをテストして一部を取り入れていますが、ソフトウェア開発へのAIの活用については慎重な姿勢を持っています。新しいテクノロジーを使用する際には、安全性を確保することが開発者の責任であると考えているからです。

リオス 私自身は、将来的にすべてのアプリがAIを搭載するようになると信じています。ただし、AIは単に導入するだけでは意味がありません。アプリに新たな価値を追加するためにAIを取り入れるべきです。その点をぜひ考慮していただきたいです。

──アプリ開発といえば、今年も「Claris FileMaker アプリ開発選手権 2025」(略称:FileMaker選手権)が開催されます。参加者に向けたアドバイスはありますか?

ルケイツ 若手で経験の浅いデベロッパーの方には、まず開発コミュニティに参加し、メンターとなるデベロッパーを見つけることをおすすめします。また、優れたアプリには開発者の情熱が込められていることが多いです。昨年のFileMaker選手権では、小学生サッカーチームのコーチが作成したカスタムAppがGolden App賞を受賞しました。楽しいアプリや実用性の高いアプリは、開発者のパッションやクリエイティビティが反映されています。これこそが成功の秘訣だと思います。

──ありがとうございました。

ルケイツ氏が例に挙げた「クラッキサッカー管理」は「Claris FileMaker 2023アプリ開発選手権」でGolden App 賞を受賞しています。

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著者プロフィール

栗原亮

栗原亮

1975年東京都日野市生まれ、日本大学大学院文学研究科修士課程修了(哲学)。 出版社勤務を経て、2002年よりフリーランスの編集者兼ライターとして活動を開始。 主にApple社のMac、iPhone、iPadに関する記事を各メディアで執筆。 本誌『Mac Fan』でも「MacBook裏メニュー」「Macの媚薬」などを連載中。

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