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Intelの逆襲が始まるか!? 次世代SoC「Lunar Lake」はApple Mシリーズに匹敵する高性能!

著者: 今井隆

Intelの逆襲が始まるか!? 次世代SoC「Lunar Lake」はApple Mシリーズに匹敵する高性能!

Intelは2024年9月3日にドイツの「IFA 2024」に先駆けて開催された自社イベントで、最新のモバイルプロセッサであり、同時にAI PC向けSoCである「Core Ultra 200V」(コードネーム「Lunar Lake」)を正式発表した。  画像●Intel

Intelの反撃! 新世代「Lunar Lake」プロセッサで市場奪還へ

Lunar Lakeは従来のネーミングで言えば第16世代Coreプロセッサに該当するが、Intelは第15世代Coreプロセッサ以降、このネーミングを廃止してブランドナンバーの後に続くプロセッサナンバーで区別するようになった。Lunar Lakeはこの新表記に基づく2番目の世代になる。


Intelは長らくPC向けプロセッサ市場の覇者だったが、このところライバルの猛追にそのシェアを奪われつつある。2017年に登場したAMDのRyzenシリーズは、Intelプロセッサを上回るコア数のCPUとRadeonベースの強力なGPU、優れたコストパフォーマンスを武器にその勢力をじわじわと拡大し、2023年にはPCおよびサーバを含めたシェアで30%に迫った。

さらに、今年5月にはスマートフォン向けSoCの最大手QualcommがSnapdragon Xシリーズを投入してWindows PC市場に参入し、他社を凌駕するNPU性能でMicrosoftの新世代AI PC「Windows Copilot+ PC」に一番乗りを果たした。これを追う形でAMDは6月3日にZen 5アーキテクチャを採用する「Ryzen AI 300」プロセッサを発表、そしてIntelはLunar Lakeこと「Core Ultra 200V」シリーズでこれらを猛追する。

Lunar Lakeの特徴の多くはAppleシリコンと共通しており、細かい違いはあっても目指す方向は大きく変わらないことを示している。今後のプロセッサにとってエネルギー効率の改善とAI性能の向上は欠かせないテーマだ。
画像●Intel

Appleシリコンに似た見た目とタイル構成で挑むIntelの新戦略

Lunar Lakeを一目見た印象は、ずばり「どこかで見たカタチ」。プロセッサシリコンと同じサブスレート上に搭載された2個の積層メモリチップ。そう、MシリーズAppleシリコン(M1〜M4)のパッケージデザインに瓜二つなのだ。Intelによれば、これによってメモリへのアクセス遅延(レイテンシ)を削減し、メモリコントローラの電力を40%低減したという。

一方でモノリシック(単体の)ダイを採用するAppleシリコンとは異なり、Intelプロセッサは「タイル」と呼ばれる複数のダイで構成されている。Lunar Lakeはコンピュートタイルとプラットフォームタイル、フィラータイル(タイルのすき間を埋めるためのダミータイル)の3タイルが組み合わされており、これをベースタイルと呼ばれるシリコンインターポーザで結合する方式を採る。

これによって中核となるコンピュートタイルをTSMCの3nmプロセスルールで製造しライバルに対抗できる性能を引き出すと同時に、個々のタイルの小型化により歩留まりの向上とコストダウンを両立する。

Lunar LakeはIntelの3Dパッケージテクノロジーである「タイルアーキテクチャ」を採用しているのが特徴だ。また同じパッケージにLPDDR5X SDRAMメモリチップを2個搭載している点で、M4とよく似ている。
画像●Intel

Lunar Lakeの特徴は、現在のトレンドであるAI処理能力をプロセッサ全体で強化している点にある。NPUはIntelが「NPU4」と呼ぶ第4世代へと更新され、AI処理性能が従来の4倍以上となる48TOPSに達した。また、新しいGPU「Xe2」では行列演算ユニット「XMX(Xe Matrix eXtensions)エンジン」が搭載され、NPUを超える67TOPS(INT8)のAI処理性能を実現している。

さらにCPUにはAI処理向けの命令セット「AVX-VNNI(Vector Neural Network Instructions)」が追加され、CPU単体での5TOPSのAI処理性能を実現、これらを合わせると120TOPSのAI総合性能を発揮するとしている。

Lunar Lakeでは、NPU、GPU、CPUのAI処理能力がそれぞれ高められており、総合性能は120TOPSに達する。さまざまなAIサービスのリクエストに対し、柔軟に処理ユニットを組み合わせることが可能だ。
画像●Intel

Intel「Lunar Lake」がHTテクノロジーを廃止した理由

Intelは2002年11月にリリースしたPentium 4以降でHT(Hyper-Threading)テクノロジーを採用していたが、Lunar Lakeでは22年ぶりに廃止された。HTテクノロジーは1つのCPUコアで2つのスレッドを同時に処理する技術で、OSやソフトウェアからは見かけ上2コアと認識される。HTテクノロジーはあくまで「CPUのそのとき空いているリソースを有効に使う」ものなので性能が2倍になるわけではないが、処理がマッチすれば30%程度の性能向上が期待できる。


しかし、Lunar Lakeは高性能コア「Lion Cove」と高効率コア「Skymont」を組み合わせたヘテロジニアスマルチコアのため、高性能コアはピーク性能が必要とされる場合に使用される。HTテクノロジーは2つのスレッドが共通のCPUリソースを奪い合ってピーク性能が抑えられる、電力消費が大きくなる、といった理由から採用が見送られたと考えられる。

HTテクノロジーを無効化することで、消費電力あたりの性能が15%向上し、トランジスタ数の削減により面積あたりの性能が10%向上、同じ電力およびダイエリア比で30%の性能向上(PPA)が得られる、としている。
画像●Intel
Lunar Lakeは高性能CPUコア「Lion Cove」と高効率コア「Skymont」を4基ずつ組み合わせ、それぞれの得意分野を受け持たせることによって、モバイルプロセッサに求められる高性能と優れたエネルギー効率を両立している。
画像●Intel

Lunar Lakeでは高性能コア、高効率コアともにIPC(クロックあたりの性能)が向上しただけでなく、従来より電力あたりの性能が2倍以上向上したという。GPUも性能が1.5倍に向上し、レイトレーシングユニットも増強された。メディアエンジンやディスプレイパイプラインも強化されている。

Lunar Lakeの新しいGPU「Xe2」は前世代のMeteor Lakeより性能が50%向上し、レイトレーシングエンジンも大幅に強化されている。またHEVCやAV1を凌駕する新世代のCODEC「VVC(H.266)」のデコーダを初搭載した。
画像●Intel

Intelプロセッサの最大の武器は、なんと言っても45年に及ぶソフトウェア資産の蓄積(エコシステム)の存在だ。その上で他社を凌駕する性能と機能を実現することで、Windows PC向けプロセッサの王者としての威信を取り戻す、Lunar Lakeはそんな使命を掲げて誕生したIntelの最新プロセッサなのである。


Lunar LakeはAppleシリコンで言えばM4に相当する位置づけとなるプロセッサで、その実力は極めて近い。CPU性能ではM4が上回る一方で、NPUの性能やメディアエンジンなどの機能はLunar Lakeが一歩勝る。強力なライバルが存在することは、Appleシリコンの発展にとっても歓迎すべきことだと言えるだろう。

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著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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