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超リアルな空中散歩が楽しめる! 空間コンピュータ用アプリ「Fly for Apple Vision Pro」がスゴすぎる!

著者: 大谷和利

超リアルな空中散歩が楽しめる! 空間コンピュータ用アプリ「Fly for Apple Vision Pro」がスゴすぎる!

本格的な空間コンピューティングの確立に向けて、大きな一歩を踏み出した「Apple Vision Pro」 (以下、AVP)。円安の影響もあって価格は高めですが、実際に体験すると、初代モデルながら、これ以上のビジュアル体験はないと思えるほどの完成度の高さを感じます。

ユーザによってキラーアプリはさまざまだとしても、すべてのAVPユーザがインストールすべきと個人的に思えるアプリが、「Fly」です。2200円の有料アプリですが、その価値が十分にあるFlyの世界を紹介しましょう。

Google Earthの世界を1人乗りドローンで自在に飛ぶ

まずは、次の動画をご覧ください。これは、AVPを装着した筆者の視点から、Flyの中でパリの凱旋門を潜り抜ける様子をキャプチャしたものです。実際にはAPV上では完全にイマーシブな環境なので、上下左右に360度見回すことができます。そして、まさにこのような飛行体験を、世界中のあらゆる地点に対して行えるのが、Flyというアプリなのです。

Flyでパリの凱旋門をくぐり抜けてみました。前後左右の動きと高度の調整をうまくこなす必要がありますが、すんなりとくぐることができ、最後にストリートビューも表示しています。
Flyのオープニング画面。ロゴが映画「トップガン」風ですが、戦闘モードはありません(笑)。

Flyは、Google Earthのデータを用いて、そのユーザインターフェースやユーザ体験を、AVPに合わせて構築したアプリです。かつて、Google EarthにはVRゴーグル向けの「Google Earth VR」というものがありましたが、現在は提供されていないため、このような環境は筆者が知る限りではFlyのみとなっています。また「Meta Quest 2/3/Pro」用のバージョンもありますが、開発元自体が、Flyの最高の体験ができるのはAVPであると認めているように、画面の美しさや没入感の高さにおいてAPVのためにあるアプリだといえるでしょう。

AIエージェントの指示で行うチュートリアル

さて、最初に起動すると操縦法のチュートリアルが始まります。MariというAIエージェントとやりとりしながら操縦方法を学ぶ…という設定ですが、そこまでインテリジェントなわけではなく、単に指示どおりに動作が行われたかどうかを確認する程度で次のステップへと進んでいきます。

操縦そのものも難しくはなく、AVPが元の位置から前後左右にズレた量を検出して、Flyの空間内での移動方向とスピードがリアルタイムで変わる仕組みです。AVPの位置のズレは、ユーザが元の位置から実際に移動するか、あるいは足の位置はそのままにして重心のみを移動させることで作り出すことができるので、身体感覚と一致した操縦感が味わえます。

チュートリアルは、AIエージェントのMariとやりとりしながら…という想定で行われますが、実際には手順を追って操縦法を学んでいく方式です。
操縦は立った状態で体の位置や重心を移動して行うため、周囲に十分なスペースを確保しておきます。
自分の真下に「Flight HUD」という円状のコントローラがあります。
体の位置や重心を変える(実際には、頭の位置のズレを感知しています)とFlight HUDの白い丸がその方向に動き、それに合わせて仮想空間内を移動していけるようになります。また、白い丸がFlight HUDの中心円から離れるほど、移動速度もアップします。

高度の変更は、人差し指と親指でピンチして動かすスライダで行います。1000m上空から地域全体を眺め、目的の地点を定めて一気に高度を下げながら近づいていくと、自分が鳥になったかのような錯覚すら覚えるほどです。

さすがに地上に近いレベルではGoogle Earthの建物の3Dデータのアラが見えてしまいますが、青い六角形のシンボルが浮かんでいる場所では、それを親指と人差し指で長めにピンチすることでストリートビューを呼び出すことができます。先の凱旋門の動画の最後の部分をよく見ると、そのようなジェスチャで周囲のストリートビューが呼び出されていることがわかるでしょう。

人差し指と親指でピンチして上下に動かすジェスチャによって、Flight HUDの右側にあるスライダが動き、高度を変えることができます。
たとえば、高度3000フィート弱(約900メートル)から東京の街を見下ろすと、このようになります。

これらの移動や高度変更、あるいは、その場で左右方向に向きを変えるローテーションのためのジェスチャは、セッティングメニューを出して変更することも可能です。また、検索メニューを使えば、特定の目的地までの移動を一瞬で完了することができます。

さらに、見上げたときに視界に入るドローンのエンジン部分などが邪魔に思うならば、これを非表示状態にすることも可能です。

移動、高度変更、左右方向のローテーションなどのジェスチャは、設定メニュー内で変更することができます。
目的地は、ずっと飛び続けても到達できますが、検索メニューを使って、ダイレクトに移動することも可能です。

Flyは、ゲームではないので、特定のゴールや勝敗などはなく、ただひたすらに興味のある場所を訪れたり、「80日間世界一周」のような気球旅行に出たつもりで、ぼうっと空中散歩を楽しむだけのアプリです。しかし、そういう非日常的な体験こそがFlyの真骨頂であり、気がつくと経過した時間の長さに驚くこともありました。

エッフェル塔を見上げ、ジョブズガレージも訪れてみる

ということで、Flyでぜひやってみたかったフライトの動画を最後に2本紹介しておきます。

1つめは、セーヌ川に沿って水面スレスレを飛び、エッフェル塔を見上げるという動画です。そう、これはパリオリンピックの選手団入場の際に船に乗って移動した様子を再現したもので、こんなシミュレーションもできるという例として飛んでみました。

パリオリンピックの選手団入場式のように、セーヌ川の水面近くまで降下し、エッフェル塔を見上げる位置で、(水上の)ストリートビューを表示させてみました。

2つめは、故スティーブ・ジョブズの実家のガレージから、現在のApple Parkまで飛んでみた動画です。筆者は、実際にこのルートをレンタカーで走ったことがありますが、イマーシブな空中からの眺めは、まったく異なる感動をもたらします。

故スティーブ・ジョブズの実家のガレージ付近から、Apple Parkまで飛び、芝生に向かって降下してみました。ジョブズの実家のところには、ちゃんと”Apple Garage”のラベルも表示されます。

もちろん、現地での実際の体験には何事にも変えがたい価値がありますが、現実問題として、世界各地をくまなく旅するということは不可能といえます。

推理小説で、現場に足を運ばずに事件を解決する探偵を「アームチェア・ディテクティブ(安楽椅子探偵)」と呼びますが、FlyはAVPユーザを「アームチェア・トラベラー」にしてくれるアプリなのです。

著者プロフィール

大谷和利

大谷和利

1958年東京都生まれ。テクノロジーライター、私設アップル・エバンジェリスト、原宿AssistOn(www.assiston.co.jp)取締役。スティーブ・ジョブズ、ビル・ゲイツへのインタビューを含むコンピュータ専門誌への執筆をはじめ、企業のデザイン部門の取材、製品企画のコンサルティングを行っている。

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