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「デジタルデバイド」は本当になくなったのか? パソコン世代とスマホ世代の「サブスク感覚」の差で生まれる新たな隔たり

著者: 牧野武文

「デジタルデバイド」は本当になくなったのか? パソコン世代とスマホ世代の「サブスク感覚」の差で生まれる新たな隔たり

※この記事は『Mac Fan 2016年9月号』に掲載されたものです。

地域、世代のネット格差を示した言葉「デジタルデバイド」は解消されて死語となった。だが、「スマホ世代」と「パソコン世代」という新しいデバイドが生まれている。

このデバイドでは、ものの考え方や消費の仕方が大きく違っている。本当の意味でデジタルデバイドはなくなったのか? これが今回の疑問だ。

解消された「古いデジタルデバイド」

すでに懐かしい響きの言葉になった「デジタルデバイド(デジタル格差)」。このデバイドには主に2種類あり、1つは地域格差、もう1つは世代格差だ(ほかに収入格差などもある)。これは過疎地ではネット回線が提供されておらず、お年寄りはネットが使えないという問題で、役所などの公的サービスはネット化が難しいなどと言われていた。

現在、地域格差はほぼ完全に解消されている。総務省の推計によるとブロードバンド普及世帯(カバーエリア内の利用可能世帯数)は、99.9%。つまり、日本に住んでいれば、どこであっても固定系のブロードバンド回線をほぼ問題なく利用できるのだ。

Mac誕生時に働き盛りだった“お年寄り世代”

一方で、世代格差はどうだろうか。たとえば、ゆうちょ、IBM、アップルが共同で開発中の高齢者向け生活サポートサービスについて、「お年寄りにiPadが使えるのか?」と疑問を投げかける人がいまだに結構いる。しかし、そういう人は頭の中の情報をアップデートしたほうがよいかもしれない。

なぜなら、60歳代のインターネット利用率は75.2%に達し、70歳代でも50.2%、80歳代でさえ21.2%に達しているのだ。「お年寄り」というのは70歳以上のイメージだろうから、現在でも半数近いお年寄りがすでにインターネットを使っているのだ(ただしパソコンが一般的で、フィーチャフォンからのネットアクセスも多い)。あまり、お年寄りをなめてはいけない。今年70歳の人は、インターネットが広く普及し始めた1995年には49歳であり、Macが誕生した1984年には38歳の働き盛りだったのだ。

現在の世代別インターネット利用率。近年の大きな特徴は、高齢者世代の利用率が上がっていることで、60歳代では75.2%、70歳代でも50.2%に達している。世代間デジタルデバイドはほぼ解消されたと言ってよいだろう。「通信利用動向調査平成26年度」(総務省)より引用。

「スマホ」と「PC」、新たなデジタルデバイド

デジタルデバイドはほぼ解消されたように見えるが、面白いことに別のデジタルデバイドが生まれている。それは、「スマホ世代」と「PC世代」だ。インターネットを使っているデバイスの調査では、若年層ではスマホが多く、高齢者ではPCが多くなる。30歳代から40歳代の間で逆転するので、仮に35歳以下をスマホ世代、35歳以上をPC世代と呼ぼう。

同資料では30歳代と40歳代の間で、スマホ利用とパソコン利用が逆転する。つまり、40歳未満のスマホ世代と40歳以上のパソコン世代にデバイドがある。

  「それがどうした?」とおっしゃる方もいると思う。ネット端末に違いがあるだけで、時間とともにスマホ世代が増えていくだけの話ではないかと。しかし、スマホ世代とPC世代では、ネット内での行動が見事に異なっているのだ。

それを顕著に表すのが、SNS(Social Network Service)利用率だ。スマホ世代が圧倒的で、PC世代の利用は少ない。スマホ世代はSNS世代、PC世代はWEB世代とも呼び換えられるだろう。

モノを買う世代とコンテンツを買う世代

しかし、今回皆さんに紹介したいのは、世代によってネット内のでの消費行動がまったく異なるという話だ。まず、「ネットで○○を購入したことあるか」という質問に対する回答を見ていただこう。つまり、ECサイトでネット通販を利用した経験を質問している。驚くべきことに、世代による違いがほとんどない。むしろ、パソコン関連商品、耐久消費財(家電、家具)は、高世代ほど利用経験が大きくなる(利用頻度ではなく、利用経験の質問であることに留意)。

インターネットでの商品の購入経験。世代間格差がほとんどないばかりか、パソコン関連、耐久消費財では、高世代ほど利用経験がある。

確かに私自身も、重たかったり大きな商品をリアル店舗で買って車や電車で持って帰ることが煩わしく感じるようになっている。高齢者であれば余計そうだろう。ECサイトでのモノの購入に、世代による違いはないと言ってもよさそうだ。

ところがデジタルコンテンツになると、様相がまったく異なってくる。電子書籍、映像、画像に関しては世代ごとの大きな違いは少ないが、ソフトウェア(アプリ)、音楽、ゲーム利用料金となると圧倒的にスマホ世代が購入し、PC世代は購入していない。

アプリ、音楽、ゲームは若者文化に属するアイテムかもしれないが、60歳代以降の利用経験を見てみると、1位は音楽で、2位がアプリになっている。つまり、高齢者もよく買うデジタルコンテンツは、音楽とアプリなのだ(さすがにゲーム課金は60歳代の中でも下位になる)。これは2014年末のデータなので、音楽や映像の配信サービスが続々登場している今、より格差が広がっているかもしれない。つまり、デジタルコンテンツを買うのがスマホ世代、モノを買うのがPC世代と言える。

デジタルコンテンツは圧倒的にスマホ世代が購入している。モノを購入するパソコン世代、コンテンツを購入するスマホ世代という分け方ができそうだ。

先に試用してから選ぶ“サブスク”感覚

最近、編集者からよく聞くのが「比較特集をやっても反応が鈍い」という話だ。比較特集とは似た商品、サービスを比較して「失敗しない○○選び」と題するような記事だ。ここ数年、音楽と映像のサブスクリプション(以下サブスク)サービスが続々登場したため、「失敗しない映像配信サブスク」のような特集を組むのだが、読者が反応してくれないという。

このことは以前から気になっていて、10代、20代の人と会うたびに「サブスク、どうやって選んだ?」という質問を繰り返してきた。せいぜい数十人なので統計的な価値はないと思うが、圧倒的に多い回答が「適当」だった。目についたものにとりあえず入って、嫌だったら無料試用期間中にやめる。有料期間まで引っ張っても、ほかのサービスの無料試用に入り、よければあっさり乗り換える。だから「失敗しない○○選び」特集を読む必要がないのだという。私自身も、音楽サブスクは1つだが(無料会員でほぼ満足している)、映像はもはや3つ目で、さらに乗り換えも考えている。

モノというのは、購入をしたあとでないと体験ができない。だから、事前に「失敗しない○○選び」を読んで商品知識を得て、最適な選択をする必要があった。一方で、デジタルコンテンツは先に「体験」してから購入をする。だから事前知識は必要がなく、無料期間中に自分の体験から良し悪しを判断すればいい。

スマホ世代の「サブスク感覚」

実はこのようなサブスク感覚は、モノの世界にも広がっている。有名なのは「airCloset」で、月額7980円で女性用の服が3着送られてきて、クリーニング不要で返却すると新しい服が送られてくるというものだ。さらに、中古車販売のガリバーインターナショナルは、車乗り放題サブスクを年内に始める予定だ。このような「モノのサブスク」はアクセサリ、家電、家具、室内装飾品などに広がっている。

商品を選択し購入することは、それ以外の選択肢を捨てることにほかならない。一方で、サブスクであれば選択肢を保ったまま商品が使える。なのになぜ、雑誌を読んだり商品知識を得る選択コストを支払ってまで、商品を購入しなければならないのか。スマホ世代はそんな感覚なのかもしれない。

世の中が「所有すること=豊かさ」という感覚から「選択できること=豊かさ」という感覚に移っていることは間違いないと思う。このスマホ世代の「サブスク感覚」は、今後の消費行動のメインストリームになっていくのだろう。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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