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iPhone 16と16 Proの性能差はどれくらい? 最新Appleシリコン「A18シリーズ」の深淵を探る

著者: 今井隆

iPhone 16と16 Proの性能差はどれくらい? 最新Appleシリコン「A18シリーズ」の深淵を探る

Photo●Apple

A18シリーズとはどんなシリコンなのか

2024年9月20日に発売されたばかりのiPhone 16/16 Plus/16 Pro/16 Pro Max。そんな新iPhoneに搭載されているA18シリーズは、2024年5月にiPad Proに搭載されたAppleシリコン「M4」と同じく、台湾の半導体メーカー・TSMCの第2世代3nmプロセス(P3E)を使用して製造されました。

2023年9月にリリースされたiPhone 15 Proに搭載されたA17 Proでは、iPhone用のAppleシリコンとしては初めて3nmプロセス(N3B)が採用されましたが、このプロセスでは攻めた技術を多用したこともあって、TSMCはかなり製造に苦労した(歩留まりが向上しなかった)ことが知られています。そのためiPhoneのように全世界に向けて膨大な数が出荷される製品で使うには、リスクが高い状況だったようです。

そこでアップルは最新プロセスを使うAppleシリコン・A17 ProをProモデルにのみ採用し、iPhone 15シリーズには前年にリリース(iPhone 14 Proに搭載)されたA16 Bionic(4nmプロセス:N4P)を採用しています。

一方、第2世代3nmプロセス(P3E)は第1世代3nmに比べて、露光プロセスの削減や最適化などによって高い歩留まり(良品率)を実現し、大量生産に耐えられると同時にコストダウンを実現したとされています。そのためiPhone 16シリーズでは、あえてコストを下げるのが難しいA17 Pro(N3B)を使わず、全モデルで第2世代3nmプロセスを導入したのです。

日本時間9月10日に開催されたAppleの新製品発表イベントの中では、A18とA18 Proの比較についてあまり言及されていませんが、GPUコア数のほか、イメージプロセッサやビデオエンコーダなどのカメラサポート機能に違いがあるとされています。また、USB-Cポートの仕様規格(USB 2/USB 3)も異なります。

しかし、これらは各機能ブロックの設定(有効/無効)によって作り分けることが可能な範囲であることから、両者のシリコン(ダイ)自体は同一の可能性があります。これは過去にもA15 BonicやM1などでも使われた手法で、Appleにとってはシリコンの共通化によるコストダウンや、(GPUコアなどの)欠損ブロックを持つシリコンの有効利用といったメリットがあります。

さらにA18とA18 Proはメモリ容量も同一なので、シリコンのみならずチップ(パッケージ)すらも共通化している可能性があります。結果として(Proモデルではない)iPhone 16のAppleシリコンは一気に2世代ジャンプとなり、大幅な性能向上を遂げています。

そのCPU性能やGPU性能の向上幅は、iPhone 12(A14 Bionic)からiPhone 15(A16 Bionic)へのジャンプに匹敵するか、それ以上の飛躍となっています。

iPhone 16に搭載されたA18と、iPhone 16 Proに搭載されたA18 Pro。いずれもM4と同じ第2世代3nmプロセスで製造される新設計のAppleシリコンです。
Photo●Apple
iPhone 14シリーズやiPhone 15では、非ProモデルとProモデルのAppleシリコンに世代の違いがありましたが、iPhone 16シリーズでは両モデルに同一世代のAppleシリコンが採用されています。
A18はiPhone 15が搭載していたA16 Bionicと比べて、同じ性能を30%低い消費電力(発熱量)で叩き出します。よりクールで、長い時間バッテリが保つAppleシリコンです。
Photo●Apple

Apple Intelligenceへの対応

今回のiPhoneのモデルチェンジの目玉は、全モデルがAppleの生成AIテクノロジー「Apple Intelligence」に対応した点です。Apple Intelligenceに対応することが明らかになったのは、昨年リリースされたiPhone 15 Proが最初ですが、iPhone 16シリーズは全モデルがApple Intelligenceに対応しているのが大きな特徴です。

A17 Proのシリコンを見ると、A16 BionicまでのNeural Engineとはその設計が大きく変更されています。ただ、そのサイズは大きく変わっておらず、Neural Engine自体のトランジスタ数はさほど増加していないように見えます。一般的にプロセッサの性能を2倍に伸ばすには、演算ユニット(トランジスタ数)を倍増させる必要があります。新しいNeural Engineはこれとは別の手法で演算性能を大幅に引き上げたのではないかと考えられます。

そのアプローチの1つとして、演算ユニットが新たにINT8(8ビット整数演算)またはBF16(16ビットブロック浮動小数点演算)に対応した可能性があります。A11 Bionicで初めて搭載されたNeural Engineの11TOPSという性能は、FP16(16ビット浮動小数点演算)でのAI演算性能(TOPS値)だったことが知られていますが、これをINT8またはBF16(あるいは両方)に対応させることで、トランジスタ数を大幅に増やすことなくAI演算性能を倍増できます。

同様のアプローチはAMDのRyzen AIプロセッサのNPUなどでも採用されており、FP16での演算と比較して遜色のない精度の成果(アウトプット)が得られることが知られています。A18シリーズではA17 Pro同様、この新しいNeural Engineにより、今後ますます重要になるAI処理性能の底上げを目指したと考えられます。

iPhone 16シリーズは、35TOPSのNeural Engineと8GBのメモリ搭載により、全モデルがApple Intelligenceに対応します。2025年とされる日本語対応が今から待ち遠しいです。
Photo●Apple

メモリアクセス速度の向上

UMA(ユニファイドメモリアーキテクチャ)を採用するAppleシリコンにとって、中核となるメモリシステムの性能は非常に重要です。これはCPU、GPU、NPU(Neural Engine)、ISP、Media Engineなどの処理ユニットすべてが共有するメモリアーキテクチャのためで、各処理ユニットを増強するとその分メモリ帯域の拡張が必要になります。そのためMac用のMシリーズではAシリーズの2倍、同ProやMax、Ultraではさらに4倍(3倍)、8倍、16倍のメモリバス幅を採用することで高い性能を確保しています。

メモリアクセス速度を向上させるもう1つの方法が、メモリの動作速度を上げることです。Aシリーズも過去より段階的にさらに高速なメモリを採用してきましたが、A18シリーズではLPDDR5X SDRAMの採用によりアクセス速度を約17%(6400MHzから7500MHzへ)向上しています。ライバルにはすでにより高速な8533MHz動作のメモリを採用するものが出てきていますので、今後のさらなる高速化が期待されます。

このメモリアクセス速度の向上は、Apple Intelligenceにも極めて重要です。オフライン(iPhone内)で動作するApple Intelligenceの言語モデルは約30億パラメータとされており、大量のメモリを必要とするためです。

iPhone 15 ProがApple Intelligenceをサポートするのに対して、iPhone 15がサポート外なのはメモリ容量の違いによるところが大きいのです。そのメモリが高速化されれば、Apple Intelligenceの応答速度の向上が期待できるのです。

A18およびA18 Proは、強化されたNeural Engineやその他のプロセッサコアの性能を引き出すため、メモリの動作速度が17%向上されています。 Photo●Apple

コストパフォーマンスに優れるA18シリーズ

このようにiPhone 16シリーズに採用されたA18およびA18 Proは、最新技術を導入しつつもコストパフォーマンスに優れたAppleシリコンです。さらにiPhone 16とiPhone 16 Proの基本性能が大きく変わらず、違いは主にカメラ機能を支えるイメージ処理部分に集約されています。

その結果、iPhone 16はリーズナブルな価格にもかかわらず、Apple Intelligenceや最新のAAAゲームにも対応する非常に満足度の高いモデルになりました。一方iPhone 16 Proは、それに加えて5倍望遠や4K/120fps撮影が可能な過去最強のカメラ性能を持つモデルという位置づけになります。iPhone 16シリーズでは、基本性能を違いを気にすることなく、用途や好みに応じて自由にモデルを選べるようになったことは歓迎すべき進化だと言えるでしょう。

A18 Proは、iPhone 16 Proでの4K/120fpsでのProResビデオ撮影を実現するために、イメージプロセッサやビデオエンコーダ、メディアエンジンなどが大幅強化されています。 Photo●Apple

著者プロフィール

今井隆

今井隆

IT機器の設計歴30年を越えるハードウェアエンジニア。1983年にリリースされたLisaの虜になり、ハードウェア解析にのめり込む。

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