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「iPhoneのタッチ決済」がもたらす“自然な”顧客体験のアップグレード。はなまる整骨院から学ぶ、店舗ビジネスのデジタル化のヒント。

著者: 牧野武文

「iPhoneのタッチ決済」がもたらす“自然な”顧客体験のアップグレード。はなまる整骨院から学ぶ、店舗ビジネスのデジタル化のヒント。

2024年5月16日に日本で提供開始された「iPhoneのタッチ決済」。対応アプリをiPhoneにインストールすることで、クレジットカードをやApple PayなどのNFC非接触決済に対応するキャッシュレスレジ端末として使える機能だ。東京都世田谷区にある「はなまる整骨院」はさっそく同機能を導入し、業務効率・顧客体験の向上を実現している。

「Airペイ」の導入から始まったキャッシュレス決済

東京都世田谷区経堂にある「はなまる整骨院」は、2024年5月16日に日本で提供開始されたばかりの「iPhoneのタッチ決済」をいち早く導入した。

整骨とは「骨格を見て、筋肉を緩め正しい位置(解剖学的肢位)に戻す」技術だ。マッサージのような対症療法ではなく「根本的な改善を目指します。腰痛の原因を解消したい、肩こりが起こらない肢位にしたいなど、治療に近いイメージです」と整骨師の中村開さんは言う。

取材に応じてくれた、はなまる整骨院の中村開整骨師。キャッシュレス決済や「iPhoneのタッチ決済」への対応により、オペレーションが劇的に改善したと話す。iPhoneを利用することで、患者とのコミュニケーションにつながることもあるという。

整骨院とキャッシュレス決済は、一見縁遠いもののように思える。しかし、同院への導入には納得の理由があった。

支払いに現金のみしか使えない保険適用診療ではなく、キャッシュレス決済が可能な自由診療が増えつつある中、2021年頃のコロナ禍で、患者からのキャッシュレス決済ニーズが一気に高まったのだ。そこで、2022年にリクルート社が提供する「Airペイ」の導入を決定した。

「iPhoneのタッチ決済」は、課題解決の二の矢

はなまる整骨院は全3フロアに施術台を用意しているが、1階レジに設置するAirペイの専用端末に加え、「Airペイ」アプリをインストールした2台のiPadを用意することで、1階、2階でもキャッシュレス決済ができるようになった。ただ、ここでも新たな課題に直面する。

はなまる整骨院は、3階まで施術室を設けている(写真は3階)。ストリートカルチャーを感じる、クールな空間作りも印象的だった。別の階にいるスタッフとの連係は、決済と同じく私物のiPhoneで「LINE」を使って行っているとか。

「キャッシュレス決済の導入はお客様から喜ばれたのですが、2台のiPadだけでは会計をスムースに捌ききれませんでした。」(中村)

人気店であること、そして30分単位で予約するシステムゆえ、施術終了と来店が同タイミングになりやすく、入り口付近にあるレジの前が混雑してしまうのだ。ここに、店舗体験向上の余地があった。

2階にも、Airペイを使うためのiPadが設置されている。1階のものと合わせてiPadは合計2台あるが、それでも決済の順番待ちの課題を完全になくすことはできなかった。

iPadの台数を増やせば更なる改善は見込めるものの、決済目的だけで追加購入するにはコストが高すぎる。また、iPadでNFCによるタッチ決済をしたい場合は、別途Airペイの専用カードリーダを持ち出さなくてはならないという手間もあった。

そういった課題を抱えていたところ、「iPhoneのタッチ決済」が始まったことを知り、すぐに導入を決定した。「Airペイ タッチ」アプリをインストールすれば、iPhoneだけでさまざまな決済処理に対応するマルチな機能性、そしてスタッフ全員がiPhoneユーザだったこともあり、スムースに利用開始できたという。

現金での支払いを希望する場合、これまでどおり1階のレジを使用するが、キャッシュレスの普及が進む背景もあり、レジの混在は劇的に解消されているそうだ。

拡がるキャッシュレス決済の需要

はなまる整骨院に来院する患者は、20代から70代まで幅広い世代にわたる。職種も幅広く、居住地もさまざまだ。

「当院は、もともとはいわゆる街の整骨院でした。しかし、私自身も技術的に自信がついてきた2012年ごろから少しずつ口コミが広がり、今ではかなり遠方からお越しいただく方もいます」(中野浩樹院長)

仕事も遊びも全力で取り組み、体にたくさんの負担をかけてきた中年期の人たちが、体の不調を感じて来院する一方、20代の若者も多い。

「最近の若い世代は、私たち40代とは価値観が違います。仕事や遊びに打ち込むのと同じように、体のケアもきちんとしているのが“カッコいい”という考え方を持っているようです」(中野院長)

具体的な数字は取っていないというが、同院の患者の半数程度がクレジットカードやスマホを用いたキャッシュレス決済を利用している。Apple Payの利用者はそう多くないが、傾向を見ても、今後もキャッシュレス利用者が増加していくことは間違いないという。

決済に利用しているiPad(写真上)と、Airペイの専用端末(写真右)。患者の多様なニーズに応え、スムースに決済できるよう備えている。

「iPhoneのタッチ決済」は“負担なき改善

経営者にとって、キャッシュレス決済の手数料は大きな問題だ。一般には、現金管理の手間軽減、幅広い顧客の獲得によって採算がとれると考えるが、整骨院の場合、キャッシュレス対応の影響は、集客効果よりも顧客満足度に寄与するという。

「キャッシュレスや『iPhoneのタッチ決済』に対応したメリットは、患者さんをお待たせすることがなくなったというのがいちばん大きいですね。スタッフの業務負担も減りました。それを考えると、手数料分の恩恵は十分に受けていると思います」(中野院長)

同院では、患者に「iPhoneのタッチ決済」に対応したことを特別アナウンスしてはいない。希望する決済手段がタッチ決済に対応している場合に、スタッフがiPhoneを使って処理するだけなので、その必要がそもそもないのだ。

操作は非常に簡単。決済端末側のiPhoneで専用アプリ(ここでは「Airペイ タッチ」)を起動して金額を入力、あとは非接触決済対応のクレジットカードまたはデビットカード、あるいはApple Payなどデジタルウォレットが利用できるスマートフォンををかざしてもらうだけだ。

患者側が新たに覚えること、しなければならないことは何もない。このスムースさによって、極めて自然に顧客体験と業務効率を上げられるのが「iPhoneのタッチ決済」の大きなポイントだろう。患者からの評判は「便利になった」と上々で、「iPhoneでお会計できるんだ!」と驚かれ、コミュニケーションのきっかけにもなるという。

店舗ビジネスをデジタル化させるヒント

はなまる整骨院のスタッフはみな若く、20代30代ばかりだ。

「この世界では、新卒で整骨院に就職し、5・6年修行したら開業するというのが一般的です」(中野院長)

スタッフは私物のiPhoneを使い、機能もシンプルだから研修も必要ない。「DX化が進んでいる」と口にしたら、院長は笑った。

  「そんなすごいことはしていませんよ。カルテも紙ですからね。支店があるなら電子カルテの意味もありますが、うちは1店舗ですし」(中野)

そう話す一方、顧客体験の向上とスタッフの業務負担の軽減が見込める「iPhoneのタッチ決済」はいち早く導入した中野さん。店舗ビジネスにとって重要なポイントを、鋭く、的確に捉えているのだろう。お客さんと、スタッフと、業務。これらに対するメリットを感じる技術はすぐに導入するが、無駄なことはしない。だから業務の中でスムースに活用されるのだ。「店舗ビジネスのデジタル化」の秘訣は、ここにあるのかもしれない。

※この記事は『Mac Fan』2024年9月号に掲載されたものです。

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著者プロフィール

牧野武文

牧野武文

フリーライター/ITジャーナリスト。ITビジネスやテクノロジーについて、消費者や生活者の視点からやさしく解説することに定評がある。IT関連書を中心に「玩具」「ゲーム」「文学」など、さまざまなジャンルの書籍を幅広く執筆。

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