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トレーニングメニューを「iPad×データ分析」で最適化。FC町田ゼルビアの躍進を支える “試合に勝つため”のiPad活用

著者: 毛内達大

トレーニングメニューを「iPad×データ分析」で最適化。FC町田ゼルビアの躍進を支える “試合に勝つため”のiPad活用

サッカー明治安田J1リーグで快進撃を続けるFC町田ゼルビアは、パフォーマンスを最大限発揮するため、iPadをトレーニングや分析に活用しているという。躍進を支えるiPadの存在について、同クラブを取材した。

データ分析で効率よく選手のポテンシャルを上げる

東京都町田市をホームタウンとするサッカークラブ「FC町田ゼルビア」。2023年10月に名将・黒田剛監督のもと悲願のJ1リーグ初昇格を決め、2024年シーズンは第13節を終えた時点で現在2位と、まさに破竹の勢いを見せている。

サッカーのみならず、現代スポーツにおいてデータの活用は欠かせない。FC町田ゼルビアでは、主に「フィジカルトレーニング」と「分析」において、iPadやGPSデバイスを役立てているという。同クラブのテクノロジー活用について、フィジカルコーチ・山崎亨氏と分析担当コーチ・赤野祥朗氏に話を聞いた。

まずサッカーにおけるフィジカルコーチには、端的に言えば、選手のコンディションを整え、試合に勝つために良い方向に持っていく役割がある。また、正しいフォームや効率的な動作などを身につけさせるなど、選手一人ひとりのポテンシャルを上げていくのも重要なタスクだ。

たとえば課題としてヘディングが挙げられた場合、選手のジャンプ力をトレーニングで引き出す必要がある。しかし、チーム内にはパワーが低い選手もいれば、手の使い方が悪い選手もいるため、同じトレーニングを実践していては非常に効率が悪い。効果的にポテンシャルを上げるためには、より選手一人ひとりにフォーカスして、オーダーメイドに近い状態でトレーニングメニューを考える必要がある。

まだサッカーの現場にGPSデバイスなどが導入されていなかった時代は、フィジカルコーチの主観がトレーニングに大きく影響していたという。もちろん現在でもコーチの蓄積された知識や経験は大切な要素だが、iPadやGPSデバイスの登場によって「非常に効率的になった」と山崎氏は話す。

「たとえば、その日のトレーニングで選手たちにある程度決めた負荷をかけたい場合、同じように走らせればいいですよね。でもボールを使い、状況判断が伴うスポーツではそうはいきません。サッカーの要素を含んだトレーニングで選手たちに負荷をかけたい場合はどうすればいいか、私自身ずっと試行錯誤してきました。その点、GPSデバイスで細かいフィジカルデータを取得し、iPadで参照できるようになった今は、非常に効果的に取り組めるようになりました。数字として可視化できると、選手へのアドバイスの説得力も上がります」(山崎氏)

FC町田ゼルビアのフィジカルコーチ・山崎亨氏。2001年に日本代表アスレティックトレーナーとして指導者のキャリアをスタート。

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試合中にもフィジカルデータを取得・参照

GPSデバイスおよびデータの分析ソフトウェアとしては、豪・メルボルンに本社を置くカタパルト(Catapult)社のツールを使用。それをiPadと連動させて、トレーニング中に選手のデータを隈なくチェックする。同ツールではサッカー選手のパフォーマンス分析に役立つさまざまなデータを取得・閲覧できるが、FC町田ゼルビアでは山崎氏が参照したいデータを取捨選択しているそうだ。具体的には走行距離やスプリントの回数、時速21~24キロメートルのハイスピードランニング、加速・減速、HMLD(High Metabolic Load Distance)など、それぞれにターゲットとなる数値を設定し、それを見ながら試合に向けてコンディションを整えていく。

フィジカルデータの取得には、Catapult社のGPSデバイスおよび分析ソフトウェアを使用。FC町田ゼルビアでは、走行距離やスプリントの回数、加速・減速に加え、時速21~24キロメートルのハイスピードランニング、HMLD(High Metabolic Load Distance)といったデータを取得している。それぞれにターゲットとなる数値を設定し、それを見ながら試合に向けてコンディションを整える。

このようなデータは、iPadをベンチに持ち込むことで試合中にもリアルタイムでデータを取得・参照できるようにしている。

「試合中は、iPadに選手たちのデータがズラッと並んで、常にで数値をチェックできます。iPadで選手のフィジカルデータをチェックできれば、動けていない選手や、逆に動きすぎている選手が一目でわかる。もちろん試合のときには相手チームがいるので、戦術次第で数値に差が出ることもありますが、そうしたデータを元にコーチ群に『あの選手の動きはよく見ておいたほうがいい』とアドバイスしたり、監督が選手に発破をかけたいときに活用したりします。監督の目、コーチの目、そして私の目で1人の選手の状態を“丸裸”にするわけです」(山崎氏)

また、試合やトレーニングのデータは、チャットツール経由で選手にも共有する。フィジカルデータを細かく取得できるようになった今、「選手たちの習熟の速度も早まっている」と山崎氏は指摘する。

「たとえばジャンプの動作でも、しゃがみ込むとき、力を出すとき、腕を振るときなど、フェーズごとに必要な要素は変わってきます。そうしたときに、データがあれば自分に必要なトレーニングが自然とピックアップされますよね。自分に何が足りないのかがわかると、選手たちも目の色が変わって、必死に練習に励んでくれるんです」

山崎氏はiPadやGPSデバイス導入の恩恵について、次のように語る。

「スポーツの現場では『もっと集中して取り組もう』といったようにメンタル的なアプローチで選手たちを鼓舞することもあります。でもiPadとデータによって、『必要な数値が出ていない=本気で取り組めていない』と数字を根拠に客観的に判断・アドバイスできるようになりました」

「ハドル・リプレイ」でベンチと映像を共有

昨今、日本のサッカークラブ内でも「アナリスト(分析コーチ)」と呼ばれるポジションが一般化してきている。約10年前はJ2またはJ3リーグの下位チームではコーチがアナリスト業務を兼任していたが、最近ではほとんどのチームに専任スタッフがいるそうだ。

アナリストの主なタスクは、試合に勝つための情報収集および分析にある。具体的には試合中の映像を録画し、整理・分析したのち、チーム内に展開。それに対して、トレーニングでどのような意識づけをすべきなのか、チームのゲームモデルに沿って正しい動きができているかなどを、選手およびスタッフ間で共有する。

赤野氏がiPadを活用しているのは、Macで映像を分析したあとの「共有」の段階だ。試合中にリアルタイムでMacに映像を取り込みながら、場面ごとに何が起きたか「タグ」を埋め込んでいく。タグが埋め込まれた映像は赤野氏のMacから、ベンチに設置されたiPadへ共有される。

FC町田ゼルビアの分析担当コーチ・赤野祥朗氏。2012年に私立青稜高校サッカー部コーチとして指導者のキャリアをスタート。2024年より現職に就任。日本サッカー協会公認A級コーチライセンス。町田ゼルビアでは計4名のアナリストが所属しており、赤野氏は主に自チームの分析を担当している。

映像分析ツールには、ハドル(Hudl)社の「スポーツコード(Sportscode)」と「ハドル・リプレイ(Hudl Replay)」を使用。まずスポーツコードで試合映像をリアルタイム分析し、映像とタグがセットになった状態でハドル・リプレイへとアップロードされる。ハドル・リプレイでは映像を見るだけでなく、タグを検索することも可能だ。なお、ゲーム形式のトレーニング映像もハドル・リプレイ内に取り込み、移動中にいつでも振り返られるようにしているそうだ。

赤野氏は今シーズン第3節からiPadを業務に取り入れたが、その効率性にさっそく手応えを感じているようだ。

「最初はベンチにもMacを置こうと思っていたんです。でも試合中はベンチにも動きがあるので、サイズ感のある機器は置く場所に困る。その点iPadなら手軽ですし、三脚にセットできるのも便利です。ベンチスタッフからも、『iPadとハドル・リプレイ、使いやすくていいね』と評判です」(赤野氏)

トレーニングメニューを「iPad×データ分析」で最適化。FC町田ゼルビアの躍進を支える “試合に勝つため”のiPad活用
トレーニングメニューを「iPad×データ分析」で最適化。FC町田ゼルビアの躍進を支える “試合に勝つため”のiPad活用

冒頭でも触れたように、現代スポーツで勝つためにはデータの分析・活用が必要不可欠だ。赤野氏も「iPadやMacに限らず、テクノロジーの進歩によってサッカーの“理解”は確実に加速している」と指摘する。こうした技術の発展は、今後のサッカー業界全体にどのような影響を与えていくのか。FC町田ゼルビアの今後の活躍に注目したい。

写真/山田秀隆

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