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第11話 医者が現場に学ぶ意味

著者: 三宅 琢

第11話 医者が現場に学ぶ意味

※本コラムは「Mac Fan 2021年7月号」に掲載されたものです。


私は医療、福祉、教育といった複数のフィールドで活動しています。さまざまなフィールドで活動することのメリットの一つは、「業界ならではの課題」を現場で直接学べることです。その中でも今回は、教育分野での学びを、慶應義塾大学にて研究・開発に関わった視覚障害者向けの教科書閲覧アプリ「UDブラウザ」や東京大学の研究室が運営するオンライン図書館の情報と一緒に紹介したいと思います。

UDブラウザは、教科書と同じ紙面レイアウトで拡大・縮小や書き込みができる「固定モード(PDF)」と、表示幅に連動して文章が折り返される「リフローモード(HTML)」に画面を切り替えられます。また、さまざまな視覚機能を持つ子どもの利用を想定しており、文字サイズの変更だけでなく、視覚障害者用の特殊フォントや音声読み上げ機能を搭載。加えて、ページジャンプ機能や自作の教材を追加できるなど、教員が授業で使いやすい機能が実装されていることも特徴です。UDブラウザが好評である理由は、子どもや教員のフィードバックを受けて開発された経緯と、今も日々改良されている点にあります。

一方で、iPadの取り扱いにおいて、私が現場担当者や子どもの家族から受けた相談の中には、教科書の著作権や学習目的以外のアプリが使えてしまうといった「管理上の問題」がありました。このような場合には、たとえば前者には印刷物ベースの教材利用に困難さを持つ子どもへ教科書データを配付しているオンライン図書館「AccessReading」の利用、後者には子どもがiPadを使う際に機能制限をかけられるiPadOS標準の「アクセシビリティ」機能である「アクセスガイド」が有用でした。

不確定で変動の激しい時代を生きていく子どもたちに必要な教育は、「自ら学び方を最適化する思考力と探求心の育成」です。そして教育者は、過去の常識という固定概念を捨て、激動の時代に生まれた子どもたちから学び、ともに知的好奇心を持ち続ける必要があります。私の経験上、どんなに有用なアプリであれ、単体では分野の抱える課題を解決することはできません。利用者のニーズと課題、そして管理者の懸念点を丁寧に問診し、情報提供を行う必要があります。

皆さんが抱えている課題が何であれ、“食わず嫌い”をやめて異なる分野の現場に赴き、生の声に耳を傾けることで想定外の学びや気づきを得られるかもしれません。多様な人々が協奏し、常識が人の数だけ存在する社会で大切なのは「自分自身がどう思うか」であり、気にするべきは他人よりも自分の目なのかもしれません。少なくとも私の場合は、社会医として他分野からの学びと成長の愉快さに夢中であり、他人の目を気にしている余裕は今のところありません。

読む? 聴く? 見る? 学び方はあなたが選ぶ。

著者プロフィール

三宅 琢

三宅 琢

医師・医学博士、眼科専門医、労働衛生コンサルタント、メンタルヘルス法務主任者。株式会社Studio Gift Hands 代表取締役。医師免許を持って活動するマルチフィールドコンサルタント。主な活動領域は、(1)iOS端末を用いた障害者への就労・就学支援、(2)企業の産業保健・ヘルスケア法務顧問、(3)遊べる病院「Vision Park」(2018年グッドデザイン賞受賞)のコンセプトディレクター、運営責任者などを中心に、医療・福祉・教育・ビジネス・エンタメ領域を越境的に活動している。また東京大学において、健診データ活用、行動変容、支援機器活用関連の研究室に所属する客員研究員としても活動中。主な著書として、管理職向けメンタル・モチベーションマネジメント本である『マネジメントはがんばらないほどうまくいく』(クロスメディア・パブリッシング)や歌集・童話『向日葵と僕』(パブリック・ブレイン)などがある。

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