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マイワークスタイル その1 物技交換〈中編〉/四角大輔の「Mobile Bohemian 旅するように暮らし、遊び、働く」 【第8話】

著者: 四角大輔

マイワークスタイル その1 物技交換〈中編〉/四角大輔の「Mobile Bohemian 旅するように暮らし、遊び、働く」 【第8話】

ぼくが暮らす、ニュージーランドの湖畔の森には小さな集落があり、そこの住民たちが皆ナチュラリストであることは言うまでもない。さらにおもしろいことに、彼らの多くが、生き方や思想においてとてもリベラルなのである。

街から20キロも離れた不便な森に、わざわざ居を構えるほどだから、(ぼくを含め)もともと人とは違った嗜好や思考回路を持っている人が大半だ。そして、大自然に抱かれて毎日を過ごしていると、ぼく自身も、思考がより違う方向へシフトチェンジしてゆくのがわかる。それは、人間としてより根源的な方向であり、「現代社会の仕組みから逃れられない都市生活者にとっての当たり前」とは違う方向だ。

とはいえ、ニュージーランドも、OECD加盟国として資本主義制度下にある。当然、ほとんどの湖の住人たちは、お金の収入をベースに生計を立てている。

だが湖畔の住民の間では、小規模だが物々交換や物技交換が頻繁に行われる。これが、とてもおもしろいのである。

ぼくが提供できる技術は〈釣り〉、レコード会社プロデューサー時代に培った〈ブランディングスキル〉、そして〈体力〉だ。

欧州から釣り好きの友人が訪れた際に、ぼくのフィッシングボートで案内してほしいと依頼を受けたり。ぼくの不在時に畑の面倒を見てくれる、観光業を営むお隣さんのWEBサイトや広告のディレクションをしてあげたり。独り身であるぼくを、よくディナーに誘ってくれる友人宅の家の改修時に肉体労働を買って出たり。配管やポンプをいつも修理してくれるご近所さんに、ぼくがいつも海で釣るヒラマサの一番いい部位を差し上げたり。

「お互いなるべくお金を使わず、貨幣制度に依存せずに生活できるよう、うまく協力していこう」という、〈インディペンデント精神〉がそこには存在する。

人生初の〈物技交換〉契約は、あるアウトドアブランドの、プロモーションのお手伝いをすることになったとき。もともとそこの製品が大好きで、昔から自分で買っていたこともあり、契約料の代わりにウェアやギアを提供してもらえないか? と提案してみたら、あっさり快諾されたのである。

それ以降、さまざまな物技交換を開始。ある航空会社のマーケティングのアドバイスをする代わりに、年に数枚の国際線エアチケットをご提供いただく。オーガニックワインのアンバサダーを努める代わりに、一定本数のワインを無料で送ってもらう。ノーギャラで講演をする代わりに、毎年一定期間、無料で客船に乗せてもらう。

ここに挙げたのはほんの一例で、ほかにもたくさんある。ここでもっとも重要なのは、何らかの形でお手伝いするプロダクトやサービス企業に関して、「ぼく自身が心の底から好きであり、生活で必要なものだと考えている」という点である。 

そこがずれてしまうと、この契約は成立しない。「欲しくないもののためにギャラなしで頑張る」というのはモチベーションが続かないし、「これいいですよ」と宣伝活動をすること自体が嘘になってしまう。

すべてではないものの、そうやって少しずつ、お金を介在させない仕事が増えていったのである。(次回・後編へ続く)

当原稿は、南インド・ケララ州の、海沿いで森の中のアーユルヴェーダ施設にて執筆。Photo:Daisuke YOSUMI’s iPhone)

※この記事は『Mac Fan 2016年8月号』に掲載されたものです。

著者プロフィール

四角大輔

四角大輔

作家/森の生活者/環境保護アンバサダー。ニュージーランド湖畔の森でサステナブルな自給自足ライフを営み、場所・時間・お金に縛られず、組織や制度に依存しない生き方を構築。レコード会社プロデューサー時代に、10回のミリオンヒットを記録。Greenpeace JapanとFairtrade Japanの日本人初アンバサダー、環境省アンバサダーを務める。会員制コミュニティ〈LifestyleDesign.Camp〉主宰。ポッドキャスト〈‪noiseless‬ world〉ナビゲーター。『超ミニマル・ライフ』『超ミニマル主義』『人生やらなくていいリスト』『自由であり続けるために 20代で捨てるべき50のこと』『バックパッキング登山大全』など著書多数。

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