※この記事は『Mac Fan』2019年8月号に掲載されたものです。
この間、著名な経営者の講演会に行ったのだが、話を聞いていると、ふと違和感を感じた。話の内容が過去の栄光だったからだ。
そう、昔の話だ。「あのときは…」という自慢話。「それが今のボクにどう役に立つのだろうか?」と疑問に思った。2019年の今、過去の彼の栄光が通用するとは到底思えなかった。
ボクは今週、仕事でホームラン1本とヒットを数本を打った。ちょっとだけ浮かれそうになり、「お祝いだ!」とやめていたお酒を飲みそうになったが、「もう過去の栄光だ」と断ち切った。するとスッキリしてMacBook Proに向かうことができた。次のヒットに向けて思いっきりキーボードを走らせ始めたのだ。
以前、こんな話を聞いたことがある。アメリカであるアメフトのチームがNo.1になった。チームの皆は優勝して大喜びで乾杯の嵐だった。とても浮かれていた。当然といえば当然だ。
そんな中、ある1人の選手は、すぐにトレーニングに戻った。お祝いムードのほかの選手が彼に質問をした。「どうしたんだ? 優勝したんだぞ? うれしくないのか?」。
すると彼は答えた。「うれしいよ。でも、もう終わった。だから次に向けてトレーニングをするんだよ」と答えたという。
そこが大切だと思う。優勝したという事実のあと、すぐに切り替えて次の目標に向かう。それがプロだと思う。
ボクも50歳を超えて、年をとった。だからか、ついついそんな過去の栄光の話が多くなってしまう。本当に良くないことだと反省中だ。
つい最近までボクは泳げなかった。数年前、今改修工事をしている東京体育館で溺れかけたことがある。あのプール、実は結構深くて、足が床に届かない場所がある。それなのにクロールに挑戦して溺れかけた。最初の10メートルぐらいは泳げたのだが、そこで力尽きて、ドタバタ、ドタバタ。アワアワ、アワアワして溺れかけた。
「空気が吸いたい」「空気を吸わないと死んでしまう!」と口を懸命に水面に出してもがいている自分がいた。まさに必死。懸命に息を吸ったのだ。
今は習ったのでクロールも泳げるが、そのときは完全に無理だった。でも、なんとかプールの端までたどり着き、死ぬことはなかった。まあ、死んでいたらこのコラムは書けなかっただろう。
人生であんなにも必死に空気を吸ったのはあれが最後だ。火事場の馬鹿力でなんとか空気を肺に入れることができ、死なずに済んだのだ。
そう、そんな力を常に出そうと思う。ちょっと成功すると、すぐに昨日や数時間前の栄光に浮かれたりする。それでは全然だめである。あのアメフトの選手のように、プールで溺れかけたときのように、過去の栄光ではなく今の全力を出し切る。そんな生き方を続けようと思う。
著者プロフィール
野呂エイシロウ
放送作家、戦略的PRコンサルタント。毎日オールナイトニッポンを朝5時まで聴き、テレビの見過ぎで受験失敗し、人生いろいろあって放送作家に。「元気が出るテレビ」「鉄腕DASH」「NHK紅白歌合戦」「アンビリバボー」などを構成。テレビ番組も、CMやPRをヒットさせることも一緒。放送作家はヒットするためのコンサルタント業だ!と、戦略的PRコンサルタントに。偉そうなことを言った割には、『テレビで売り上げ100倍にする私の方法』(講談社)『プレスリリースはラブレター』(万来舎)が、ミリオンセラーにならず悩み中。