※この記事は『Mac Fan』2019年6月号に掲載されたものです。
時々不安に思う。「何のためにこの原稿を書いているんだっけ?」「なぜこの会議に出ているんだっけ?」と思うことがあるのだ。特に仕事がうまくいっていないときは、そんなことを考えがちだ。
だが、ふと目が覚める瞬間がある。この間も友人とご飯を食べているときに思った。「美味しいのだが、これは一人で食べても美味しいのだろうか?」と。答えは明確だ。この人と一緒にご飯を食べているから美味しいのだ。料理は物理的に美味しいものももちろんあるが、その大半は気分なのではないか? と。
同じ食べるという行為でも、目的や環境によってぜんぜん違う。空腹を補うためのエネルギー補給なのか? それともデートの口実なのか? それとも…。答えは無限大だ。
以前ボクはWindowsマシンを使っていた。そこからMacBook Airに乗り換えた。それまでは仕事を片づけていたのだが、それがクリエィティブの力で人々に元気を与える使命に変わった。
テレビ番組を作っているのではない。テレビを見たあとに感じる翌日への勇気を映像表現するようになった。見た人が「生きていてよかった」「明日のために努力しよう」「笑った。今日はいい日だ」と心を動かせるためにテレビ番組があるのだと考えて仕事をするようになった。
だから、人の死や不幸をおもちゃにして、視聴者を沈ませるワイドショーは、もう10年以上も作っていない。視聴者に自信や勇気を与えないものはボクは作らないのだ。
ブログを書いたり、コラムの原稿を書くのも同じだ。
あるアパレル企業が、イギリスのバーバリーの契約を失って売上が大変なことになっているという。単純に売上が減ったと思っているが、それは大きな間違いだ。
バーバリーと言えば、有名なのはチェック柄だ。特にお馴染みの柄のマフラーは女子高生に絶大なる人気があった。彼女たちは高い金を払って何を選ていたのか? 布地を手に入れたわけではない。暖かさを手に入れたわけではない。そうではなく「自分が、特別の存在であること」、そして「勇気」を手に入れたのだ。マフラーを身につけることで友だちから「バーバリー?」と言われて、ちょっとうれしい気分になったり、それまでは地元で遊んでいた女の子が勇気を出して渋谷や表参道へ繰り出したり。
あのアパレルメーカーは「特別感」と「勇気」を金銭と引き換えに女子高生たちに与えていたのだ。そう、ある意味「勇気の翼」をだ。そして、そんな力を失ったのだ。
ボクが夢中になっている運動もそうだ。健康を手に入れようとしていたときは全然駄目だった。だが、あるときから「行動できる勇気」を手に入れるためジムに通い始めた。
するとどうだろうか? 気がつけばポジティブな自分に変わっているのだ。筋肉の力ではなく、行動する半径が1センチずつ長くなり、最終的に川や谷を飛び越えられるようになった。そう、翼を身につけたのだ。さて、このコラムはあなたにどんな翼を与えたのだろうか? 勇気のスイッチを押せるようになってくれたら幸いだ。