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第23回 クリエイティブの才能を伸ばす自転車/野呂エイシロウのケチの美学

第23回 クリエイティブの才能を伸ばす自転車/野呂エイシロウのケチの美学

※この記事は『Mac Fan』2019年4月号に掲載されたものです。

初めて彼に会ったのは2014年。名刺管理アプリがその日付を記憶している。

ボクは大学時代にMacintosh Classicに出会ってから、Macintosh IIciで企画書書きに没頭し、1996年のPowerBook 5300までMacを使い続けたが、挫折してソニーのVAIOに変えた。

理由は明確だ。Macは製品トラブルが多く、使い物にならなかったのだ。2008年にiPhoneが日本で発売になったときも、iTunesのソフトをPCに入れて使っていた。道具としては非常に優れていた。ちょうど僕自身もコンサル業が増えていて、ビジネスチックな思考になっていて上り調子だった。

そんなとき、何かの偶然で彼と出会った。そして、ある日、彼は面白いことを口にした。

「野呂さん、クリエイティブの才能をもっと伸ばしませんか?」

何を言っているのだろうか? 放送作家なんだから十分だと思うんだけど…と、そのときは思った。でも、彼が言っていることは非常に面白かった。創造自転車(クリエイティブ・バイシクル)の話を教えてくれた。

自動車やオートバイではなく、自転車を漕ぐ感覚とクリエイティブがいかに似ているのか、懸命に語ってくれたのだ。そして、それがスティーブ・ジョブズさんの言葉であることも教えてくれた。「私にとってコンピュータとは、我々人類が発明した道具の中でもっとも驚くべきもの。我々の思考や想像力にとっての自転車なんだ」という言葉をジョブスさんは残している。

コンピュータは壊れないのが優先という僕は、衝撃を受けた。「もしかすると、この自転車(Mac)を再び使い始めたら何かが変わるのかもしれない」という衝動にかられた。

大学時代の話をしよう。当時僕は、偶然が重なって広告代理店の真似事をやっていて、その会社でAppleに出会った。もし、そのまま大学でUNIXのコンピュータをいじっていたら、そのままプログラマーになっていただろう。大学時代の代理店ごっこのお陰でクリエイティブな放送作家になれたのだろう。

20年ほど経ち、いつの間にかつまらない大人になっていたのかもしれない。彼と幾度もクリエイティブの話をした。

「別に野呂さんに金儲けをしてほしいわけじゃないんです。もっと原稿や本を書く気になったり、面白い企画書を書いたり、動画でなにかを発見してほしいんですよね」と言われ、はっとした。そして、すぐにMacBook Airを使い始めた。

すると学生時代のように面白いことをやるようになった。本や番組の企画も次々と出すようになったのだ。今では動画も撮影したりiMovieで編集もやっている。以前はガラケーと2台持ちだった僕も、彼の一言で、iPhone1台にすることができた。「シンプルに考えることが大切」と教えてくれた。

彼の口癖は「クリエイティブの才能を伸ばしてほしいんです」だった。それこそ世界で活躍するアーティストたちも、彼によってアイデアのアクセルを踏めたに違いない。彼のことは生涯忘れないだろう。きっと、彼は、姿こそ見えないが、今も、時間を超えたどこかでクリエイティブ自転車をこぎ続けているに違いない。本当に有難う。また。

この時計を見るたびに彼を思い出す。

著者プロフィール

野呂エイシロウ

野呂エイシロウ

放送作家、戦略的PRコンサルタント。毎日オールナイトニッポンを朝5時まで聴き、テレビの見過ぎで受験失敗し、人生いろいろあって放送作家に。「元気が出るテレビ」「鉄腕DASH」「NHK紅白歌合戦」「アンビリバボー」などを構成。テレビ番組も、CMやPRをヒットさせることも一緒。放送作家はヒットするためのコンサルタント業だ!と、戦略的PRコンサルタントに。偉そうなことを言った割には、『テレビで売り上げ100倍にする私の方法』(講談社)『プレスリリースはラブレター』(万来舎)が、ミリオンセラーにならず悩み中。

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