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iPhone XRでスペック以上の「楽しさ」を再発見

iPhone XRでスペック以上の「楽しさ」を再発見

 

色の選択から楽しい

正直なところ、「iPhone XRはほぼ完璧なデバイスだ」と感じました。2018年9月12日行われたアップルのスペシャルイベントで触れたiPhoneの中で、もっとも魅力的で、個性的で、「iPhoneのあるべき姿」という印象を受けたからです。

iPhone XRは、10月26日に発売される2018年にリリースされる“第3のiPhone”であり、米国で749ドル(約8万5000円)から、日本でも主力となるであろう128GBモデルが9万円台に設定され、価格が高騰するハイエンドスマートフォンの中で、比較的手の届きやすいレンジに留まっています。

しかし、価格を下げるなら、差をつけなければなりません。

8ミリを超える厚さ、ステンレスではなくアルミニウムが採用されたフレーム、有機ELディスプレイのような高いコントラストを発揮するわけではない液晶ディスプレイの採用、シングルカメラ、ギガビット級LTEへの非対応…。

スペック面で比較すれば、iPhone XRはiPhone XS/XS Maxと比べて見劣りすることは確かです。しかし、そうしたスペック上の理解以前に、手に取ったときに感じる「クール」という印象以上に、アップル製品としては久しぶりに「楽しい!」と感じました。ちょうどiPodミニやiPodナノ、iPhone 5cのときのような感覚です。カラーを選ぶ段階から迷ってしまい、使い始めたらより好きになる。iPhone XRにはそんな楽しさがあったのです。

iPhone XRの特徴は、価格を抑えた点とカラーバリエーションです。ベーシックなホワイト、ブラックに加え、鮮やかなブルー、強烈な印象のイエロー、光によってオレンジともピンクとも見えるコーラル、そして初期から投入される(PRODUCT)REDの全6色が揃います。コーラル以外は、原色の印象が強くかなりはっきりとしている印象です。それだけに、コーラルは幾分柔らかな印象を与えてくれます。

ホワイト以外のカラーでは、フレームのアルミニウムも、背面の色に合わせてあり、非常に注意深くカラーマッチングがなされていることがわかります。その一方で、ホワイトはアルミニウムの色という印象で、ステンレススチールのiPhone XSを見てしまうと、質感に欠ける印象でした。

もちろん、多くの人がケースを装着することになるでしょうが、できれば裸のままの原色を楽しみたいですね。

iPhone XRは、6色のカラバリから選ぶ段階から「楽しさ」を感じれるスマートフォンになっています。コーラル以外は原色が強く出ている印象です。

フレームのアルミニウムも背面の色に合わせてありますが、ホワイトのみアルミニウムの色という印象。高級感のあるステンレススチールを採用するiPhone XSを見てしまうと、やや質感に欠ける印象でした。

サイズとディスプレイ

iPhone XRは、6.1インチの液晶「リキッドレティナHDディスプレイ(Liquid Retina HD Display)」を搭載。縁までいっぱいに画面が拡がったデザインと前面のトゥルーデプス(TrueDepth)カメラという構成は、iPhone Xから始まった新世代のiPhoneデザインを踏まえたものです。

手に取ってみると、意外なほど軽く感じます。これには厚みが増していることも影響しているのではないでしょうか。サイズは5.8インチのiPhone XSと6.5インチのiPhone XS Maxのちょうど中間。しかも、iPhone XS MaxはiPhone 8プラスよりわずかに小さいサイズに収まっているため、5.5インチモデルを使っていた人にとってはよりコンパクトな大画面を楽しめるようになるでしょう。

ただし、ビデオを楽しんでいる人にとっては注意が必要です。映像作品の画面比率は16対9であるため、iPhone 8プラスと同じ映像サイズを楽しみたい場合は、横幅がほぼ同じiPhone XS Maxを選ばなければなりません。iPhone Xがそうであったように、iPhone XRも、画面サイズは大きいのですが、映像サイズは若干小さくなってしまいます。

さて、iPhone Xで採用された有機ELディスプレイは、深い黒と鮮やかな発色が魅力的でした。一方でiPhone XRは、6.1インチの大画面でありながら、iPhone 8プラスのフルHDよりも解像度が低く抑えられています。しかしドットの細かさはiPhone 8と同じであり、それが問題になるとは思えませんでした。

もともと定評のあったiPhoneの液晶ディスプレイを全画面化して採用している点で、安心して楽しめる画質を実現できていると言えます。

iPhone XRは、6.1インチの大画面ですが、iPhone 8 PlusのフルHDディスプレイよりも解像度が低くなっています。しかし、ドットの細かさはiPhone 8と同じであり、大きな問題にはならないでしょう。

心配せずに選べる理由

iPhone XRには、XSシリーズと同じ新しい世代のプロセッサ「A12バイオニック(Bionic)」チップが搭載されています。処理能力の向上は「A11バイオニック(Bionic)」チップと比較して15パーセント程度ですが、グラフィックスは50パーセント向上し、省電力性は50パーセント高まりました。XRには上位モデルと同じプロセッサが搭載されているため、価格が安いからと入って性能面で劣るわけではありません。

現在のアップルのプロセッサの能力から考えると、この先2年ほどは、iPhoneの最新モデル以外のあらゆるスマートフォンよりも高い処理性能を維持し、機械学習処理やARを多用するアプリを快適に動作させることができるでしょう。

スマートフォンでもっとも重要な要素であるバッテリに注目すると、iPhone XRはもっとも選ぶべきデバイスとなります。画面サイズが大きいiPhone XS Maxよりも、バッテリ持続時間が長いからです。スペシャルイベントでは「iPhone XRは、iPhone 8プラスより1時間半バッテリ持続時間が長い」と説明していました。アップルのWEBサイトでは、iPhone XS Maxと比べて、インターネット2時間、ビデオ視聴1時間それぞれ長いバッテリ持続時間が示されています。バッテリにこだわるなら、iPhone XRを進んで選ぶべきでしょう。

AIに約束された進化

スマートフォンでバッテリとともに重視されるのがカメラです。iPhone XRの前面カメラは、iPhone XS/XS Maxと共通のトゥルーデプスカメラですが、背面カメラでは、望遠レンズが備わる2つ目のカメラが省かれています。しかし、センササイズが拡大され、読み出しも2倍高速化された1200万画素のカメラが1つ備わります。

センササイズの拡大は、色再現や暗い場所での撮影を大きく向上させ、また読み出し速度の向上は、より素早く画像処理エンジンやニューラルエンジンに信号を渡し、シャッター間の画像処理に寄与します。

その恩恵もあり、iPhone XRは1つの背面カメラだけで、ポートレートモードを実現します。しかしアルゴリズム的に人物を切り抜くため、対象は人物だけとなり、また広角レンズのみでの撮影になります。グループショットのポートレートは撮りやすくなりますが、バストアップの撮影にはより近づかなければなりません。

ただ、2つの背面カメラを活かすポートレート撮影は、時折距離を取りにくいこともあったため、むしろ使い勝手が良くなる場面も見られそうです。

機械学習処理をカメラで活かす手法は主流になりつつあります。グーグルも「ピクセル3(Pixel 3)」でハイエンドスマートフォンに2つのレンズは不要としており、機械学習処理を活かした撮影機能を前面に押し出しました。

今後、ハードウェアを機械学習が補う場面は、カメラ以外にも広がっていくことになるでしょう。その点でiPhone XRのA12バイオニックチップが搭載されていることは大きな意味を持ち、気に入った色のiPhoneをより長く楽しめる、そんな存在になっていくはずです。

iPhone XRの背面カメラはシングルカメラですが、ポートレートモードを利用できます。しかし、アルゴリズム的に人物を切り抜くため、対象は人のみ。人物以外はポートレートモードで撮影できません。

文●松村太郎

ジャーナリスト、慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。大学・大学院時代からパーソナルメディアとライフスタイルの関係性を追求している。モバイルとソーシャル、ノマドがテーマ。キャスタリア株式会社取締役としてソーシャルラーニングの普及にも努める。