大都会の片隅で、深夜にだけ営業する喫茶店“真夜中のジーニアス”がある。そこには夜な夜なさまざまな客が訪れ、モバイルに関する相談が繰り広げられる。マスターとアシスタントがおすすめの“裏メニュー”で問題を華麗に解決します。今夜のお客様は、MacBookの「USB-C」でお悩みとのこと。
AとCのどっちが上?
ユミコ●いらっしゃいませー。あら、ご隠居さんお久しぶりです。
客●秋祭りの寄り合いですっかり遅くなっちまってね。でも何年か前にマスターのおすすめでMacとiPhoneを使い始めるようになってからだいぶ効率化したよ。若い連中とも連絡取れるしね。
ユミコ●若いといってもうちのパパとたいして変わりませんけどね! ご注文はどうしましょう?
客●ビールといきたいところだけど、コーヒーをもらおうか。あと、例のMacのよろず相談はまだ頼めるのかい?
ユミコ●あら、Macで何かお困り事ですか?
客●この前MacBookの容量が足りなくなってしまったんで、ハードディスクを買いに行ったのよ。そしたら電器屋のせがれが「USBはAですか、Cですか」なんて小癪なこと言うもんだから、Aのほうがランクが上だろうと思って頼んだらMacBookに刺さらなかったんだよね。間違えたと言うのも恥ずかしいのでそのままにしてるけど。
ユミコ●あら~電器屋さんは先にMacかどうか確認すべきでしたね。とはいえアダプタを使えばUSB-Aのコネクタでもつながりますけどね。
客●そうなの? で、次に駅前の大きな量販店に行ったら今度はCだけじゃなくて「2」とか「3.1」とか「3.2」とか書いてあるじゃない。数字だから2よりは大きいほうがいいと思うんだけど、何がどう違うのかさっぱりでね。おまけにマイクロBとかライトニングとかサンダーボルトとか言われたってこちとらさっぱりわかんないよ。
ユミコ●その割には固有名詞しっかり覚えてますね。
客●そりゃまあ昔の米軍機と同じ愛称だからな。
ユミコ●そうなんですか? 知りませんでした。確かに、USBは規格名とコネクタ形状、追加仕様やバージョンなどの呼び名が混在してわかりにくいですよね。MacBookユーザならUSB-Cだけ知っておけばよいというわけにもいきませんし。
手っ取り早く知りたい!
ユミコ●わかりました! ではご隠居のためにUSBのことをしっかりバッチリご説明しますね!
客●いやいや、ちょっと待っておくれよ。いっぺんに言われたってこっちの理解が追いつかない。要点をかいつまんでわかりやすく教えてくれると助かるんだけどな。
ユミコ●そうかぁ…それもそうですね。ポイントを絞ってなるべくわかりやすく解説してみます。
USB-Cの「C」は何を指す?
ユミコ●そうですね、まずはUSB規格を大まかにいうと「USB2.0」と「USB 3以降」に分けられると思います。要するにデータの転送が「遅い」のと「速い」のです。それぞれにまた世代の違いがあって、小数点以下で分けられます。
客●世代があるのはわかるんだけど、今さら遅い規格なんていらないんじゃないの?
ユミコ●キーボードみたいに高速である必要がないデバイスもあるので残されているところはありますね。ご隠居みたいに最近のストレージの場合はUSB 3以降と考えていただいて構いません。
客●AとかCってのは?
ユミコ●それはUSBのコネクタ形状の話で、データ転送の規格とは直接的には関係ありません。従来のUSBケーブルは本体側(ホスト)と周辺機器側(デバイス)のコネクタが区別されていて、それぞれタイプAとタイプBと呼んでいました。ちなみに、タイプB側の形状を小型化したのがミニBとかマイクロBと呼ばれるものです。
客●なるほど。Cはまた違う形なのね。
ユミコ●そうです。一般的なUSB-Cケーブルは両端が同じ形状になっていて、コネクタの向きが表でも裏でも関係ありません。
客●そりゃ賢いね。だったら全部USB-Cにすればいいじゃない。
ユミコ●今は移行期なのでコネクタ形状は混在していますが、アップルも統一を考えてるんじゃないかと思います。ただ、USB-CにはUSB以外の規格の信号を流せるモードがあって、これが若干の混乱を生んでいるところはあると思います。
客●たとえばどういうもの?
ユミコ●プロ向けの周辺機器にはサンダーボルト3というまったく別の高速データ転送規格もあるのですが、コネクタはUSB-Cと共通なんですよ。MacBookのUSB-Cはサンダーボルト3に対応していないので、たとえサンダーボルト3対応機器をつないでも使えないわけです。一方で、USB-Cには1つのコネクタでいろんな種類の周辺機器をつなげられるメリットもありますけどね。
USBのデータ転送規格の分類図。世代ごとにバージョンアップして高速化しています。USB-Cは主にUSB 3.1に対応していますが、「C」はあくまでもコネクタの形状を指しているので混同しないようにしましょう。
USB-Cはコネクタ部分の裏表がないという特徴があります。データ転送規格はモデルによって「USB 3.1 Gen 1(5Gbps)」のものと「USB 3.1 Gen 2(10Gbps)」に対応するものがあります。外観では見分けはつきません。
アップルメニューから[このMacについて]を選んで[システムレポート]を表示し、サイドバーから[USB]の項目をクリックすると、接続されたUSB機器のデータ転送速度がわかります。図は2015年のMacBookに接続したハブで、5Gbpsで動作していることがわかります。
USB-Cは、USB以外の規格の信号を流せる「Alternate Mode」を搭載しています。Thunderbolt 3はこの機能を利用していて、コネクタ形状はUSB-Cのまま利用できます。ただし、別途対応ケーブルが必要です。ケーブルコネクタにはThunderboltのアイコンが印字されていることが多いです。
Alternate Modeを利用することで、USB-CハブではDisplay PortやHDMI、Androidスマホ向けのMHLといった映像信号も流すことができます。写真はフォーカルポイントの「TUNEWEAR ALMIGHTY DOCK C1」(左)と「TUNEWEAR ALMIGHTY DOCK CM2」(右)。
「USB PD」っていったい何?
客●USB-Cはいろんなことに使えるってことがわかったよ。とりあえず、これから買うものについてはなるべくUSB-Cを選んだほうがいいってことだね。
ユミコ●モバイルタイプのストレージについてはそうかもしれません。でも、据え置き型の外付けHDDの場合は、当面従来のUSB-A製品の利用シーンも多いと思います。特にUSB-Cが1ポートしかないMacBookでは、アダプタを使ってもUSB-Cポートが増えませんので…。
客●ああ、充電しながら使うとUSB-Cのポートが埋まっちゃうのか。その場合はハブを買えばいいのかな。
ユミコ●USB-C対応のハブもあるのですが、基本的にはUSB-Aポートを増やすものがほとんどなので、その用途ではあまりおすすめできません。MacBookはワイヤレスで使うのが基本、という考え方ですので、ケーブルで拡張するのは向いていません…。
客●iPhoneと同じような考え方なんだねえ。そういえばこのUSB-Cは充電のケーブルにもなっているんだね。
ユミコ●USB-Cには充電のための「USB PD(パワーデリバリー)」という規格もあります。USB2.0では最大2.5W、USB 3では最大4.5Wまでの電力しか流せなかったのですが、USB PDでは仕様上最大100Wまで対応しています。ただ、これも機器側とケーブルの対応が前提なので、必ずしもUSB PDとして使えるとは限りません。
客●なんだか、またややこしいことになってしまったねえ。
ユミコ●MacBookの場合は付属している30W(一部29W)のACアダプタで充電できることさえ知っていれば問題ありません。また、最近の大容量なモバイルバッテリの中にはUSB PD対応を謳っている製品もあります。ケーブルさえちゃんとしたものを選んでいればどこでもしっかり充電できて便利ですよ。
客●製品の説明に「45Wでの急速充電に対応」とか書いてあるのをよく見るけど、これならMacBookを速く充電できるのかな?
ユミコ●う~ん。細かいことは端折りますけど、W数が大きいからといって必ずしも充電が速くなるわけではありません。61W/87W対応のMacBookプロの場合は効果がある場合もありますが。いずれにせよ、なるべく信頼できそうなメーカーのものを選ぶのがおすすめです。
客●電器製品は信頼性が大事だもんね。安物を買ってMacを壊したくないし。
「USB-C Digital AV Multiportアダプタ」(a 税別7400円)は、USB-CポートをUSB 3(タイプA)とHDMIに変換するアダプタです。USB-Cポートの1つを給電として利用する場合、USB-Cポート自体の数は増えません。
サードパーティ製のUSB-Cケーブルを購入する際には、USB規格がUSB3.1 Gen2対応かどうか、電力供給は何Wまで対応しているか、USB PDに対応しているかといった項目をチェックする必要があります。
容量2万mAhを超えるモバイルバッテリの中には、USB PDに対応しているものもあります。MacBookで急速充電を利用するには、それに耐えうる性能を持ったUSB-Cケーブル(3A対応など)が必要です。写真は「cheero Power Deluxe 20100mAh」。
USB-C対応のディスプレイを使えば、MacBook側に給電しながら映像を表示できます。テーブル周りのケーブルは最小限にしつつデスクトップ機並みの広いディスプレイを利用できるメリットがあります。写真は「LG UltraFine 4K Display」。
信頼できるUSBマークって?
客●USBの種類とか数字の読み方は少しわかってきたけど、最終的に信頼できるかどうかはどこで判断すればいいのかね。
ユミコ●ベテランの店員さんがいる量販店などでは質問すればいいと思いますが、WEBでの買い物だと書かれていることを信用するしかないので何とも言えませんね。レビューの星の数も最近はあまり信用できませんし…。アップルユーザの場合はアップルストアで購入するのがある意味確実ですね。
客●やっぱり餅は餅屋、林檎は…ってことだな。そういえば最近はコンビニや100円ショップにもいろんなケーブルが売ってるけど、ああいうのはどうなんだろうね。
ユミコ●問題ないものもありますが、基本的にはパッケージの認証マークを確認するといいですよ。たとえばiPhoneやiPadに充電するUSB-ライトニングケーブルの場合、アップルの独自規格ですから「MFiロゴ」が記載されているものが認証済みのものです。
客●専用品だとそういう見分け方ができるんだね、アンドロイドみたいに汎用的な(マイクロ)USBケーブルのほうがいいと思ってたけど、アップルが認めているとなると何かと安全だね。
ユミコ●独自仕様にはいろいろ批判もあるので、いずれはより汎用的なUSB-Cを採用することがあるかもしれませんが、ユーザの利便性や安全性、技術的な点なども考えると現状はライトニングがベストな選択なのだと思います。
USBのロゴ規定はどうなってる?
USBはロゴも規格ごとに定められています。ロゴの取得と製品への添付はUSB-IF(Implementers Forum)が定めた認証試験をクリアする必要がありますが、この認証自体は必須というわけではありません。そのため、ロゴは信頼性の目安にはなりますが、品質を担保するものではないのです。
USBのロゴライセンス規定はUSB-IFによって資料が公開されています。(【URL】https://www.usb.org/logo-license)
ユミコの日誌
今日のお客様はUSB-Cの仕様でお困りのお客様でした。3つのオーダーは
・USB-Cの規格とコネクタ形状の違いとは
・USB-Cの充電仕様について
・安全なUSB製品を見分けるポイント
についてでした。USBは規格や仕様がたくさんあってややこしいのは事実ですが、Appleユーザならなるべく迷わない選び方ができるのが利点ですね。