縦と横
本誌が創刊されたのは1993年、もう四半世紀になる。この間ずっと何らかの仕事を続けさせていただいているが、そんなワタクシが創刊当時からこだわっていたのが、本文の縦組み表記である。かつてパソコン雑誌はほとんどが横組みだった。それは当然のことで、掲載される文章にはアルファベットや数字、記号が多く含まれているからである。縦組み派のワタクシにとって、これは今日に至る難問であり、特に綴りが長い英語名称などが出てきた日には、(全角英字で)立てるべきか(半角英字で)寝かすべきかと大いに悩むのである(結局、編集部にお任せなんだけどね)。
しかし改めて考えてみると、縦書きと横書き(縦組みと横組み)の両方に対応している文字言語というのはそう多くないんじゃないか。ウィキペディアによると日本語以外では中国語や朝鮮語が本来縦書きだったのが、いずれの国でも近代以降は横書きとの併用が行われているとある。専門家ではないのでよくわからないが、とにかく日本語は縦書きと横書きが共存する数少ない言語のようである。
ちなみにワタクシが縦組みを好むのは、単純にそれが読みやすいからである。だが文章を書くのは、もっぱら横書きなのである。これは書く手段として主にパソコンを使っているからで、この連載の場合も、本文はテキストエディタで横書きしたものをワープロソフトで縦組みに変換、英数字や記号などを縦組み用に整える。そして最終的に「イラストレーター」に流し込んで原稿が完成するという手順を踏んでいる。だったら最初からワープロソフトか「イラストレーター」で縦書き入力すればよいのでは?というとそうでもなく、テキストエディタの入力の軽さは、文章を書くうえでとても重要なのだ。残念ながらワタクシの環境ではワープロソフトの縦書き入力はあまり快適ではなく、「イラストレーター」でまとまった文章を縦書き入力するのは、自殺行為といえるほどヘヴィなのだ。
縦書きのススメ
だから軽快に入力できる縦書きエディタあればいいのにと思っていたら、それらしきものを見つけた。「縦式-縦書き入力」はシンプルかつ快適な縦書き入力が行えるiOSアプリ。ディスプレイには原稿用紙が表示され、そこに書く感覚(作家気分?)で縦書き入力が行える(原稿用紙は非表示にもできる)。行番号の表示やフォントの選択、1行の文字数や1ページの行数の設定、総文字数などのテキスト情報表示といった、作文を行ううえで必要と思われることはほぼ対応している。
加えて画面デザインがスッキリしているので、iPhoneの限られたディスプレイスペースでも(しかも邪魔な広告が入っているのに)とても見やすく感じるアプリなのだ。またダークテーマといって色を反転させ、黒地に白文字で表示することができる。これが目に優しいので、疲れ目気味のときなど有難いだろう。
最近、ワタクシは持病のせいもあって、パソコンやスマホは指で入力するより音声入力することが増えている。「縦式」は音声入力も問題なく、喋った言葉がすぐに変換されるので使いやすい。人それぞれだとは思うが、同じ音声入力でもある程度まとめて変換するタイプは、リズムが合わないので使いにくいのだ。
iPhoneと「縦式」のコンビに期待するのは、軽いフットワークとちょっとした気分の高揚である。いつもの机とイスから離れて、原稿用紙のマス目に向かえば、それはすぐに実現するだろう。あとは書くだけだ。
なにやら傑作の予感がしますよ
縦書き専用のテキストエディタ。基本は原稿用紙に入力する形式なので、ちょっとした作家気分を味わいながら執筆が楽しめる。原稿用紙は1行の文字数(最小10~最大45文字)、1ページの行数(最小10~最大40行)の設定が可能。白地に黒文字のノーマルテーマ以外に、黒地に白文字のダークテーマが選べる。