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Swift学習の秀逸ツール「SwiftSwitch」

著者: 山田井ユウキ

Swift学習の秀逸ツール「SwiftSwitch」

8月2日、ブラウザベースの無料プログラミング学習環境「SwiftSwitch(スウィフトスイッチ)」が公開された。Appleが開発したプログラミング言語「Swift(スウィフト)」を、小中学生から簡単に学べるというものだ。リリースに至るまでの経緯とそこ込められた思いを、開発会社であるキャスタリア代表の山脇智志氏に聞いた。

スウィフトに見た可能性

キャラクターを操作して物語を進めていくうちに自然とプログラミング言語「スウィフト」の知識が身につく学習ツール、それがスウィフトスイッチだ。開発したのは「教育×IT」にまつわる各種サービスを展開するキャスタリア。プログラミング教育が盛り上がる昨今では、すでにさまざまな学習ツールが存在する。そんな中でスウィフトという言語に着目し、新規にツールを開発した狙いはどこにあるのだろうか。

そもそもの始まりは2015年11月、キャスタリア代表の山脇智志氏がNTT西日本ビジネスコンテストでプログラミング教育ツールを提案し、入賞したことだった。その際、キャスタリアのメンターとしてサポートしたのがクオンタム(QUANTUM)社。大企業とスタートアップ企業の新規事業創出を支援する「スタートアップスタジオ」である同社のメンタリングを受け、本格的な開発が始まった。

キーマンとなったのが、キャスタリアの取締役でありITジャーナリストとして活躍する松村太郎氏。同時期にアップルがスウィフトのオープンソース化を発表、さまざまな領域で利用できるようになったことを受けて、同言語を普及させるツールの開発を提案した。

「スウィフトに惹かれたのは、フロントサイドとサーバサイドの両方に対応した、これまでにないモダンな言語だったからです。これからプログラミングを学習するなら、スウィフトがいいだろうということで私たちの意見は一致しました」

スウィフトを選んだもう1つの理由は、新しい言語ゆえに当時は学習ツールがほとんどなかったことだ。ビジネスとしての可能性は十分にあった。

山脇氏と松村氏はすぐにブレインストーミングを行い、ツールの構想と事業計画を作り上げた。参考にしたのは、米国のプログラミング推進非営利団体「コードオルグ(Code.org)」が展開する「アワーオブコード(Hour of Code)」。ブラウザ上で動作し、ゲーム感覚でプログラミングを習得できる。この考え方をスウィフト学習に持ち込むことにした。

SwiftSwitch

【開発】キャスタリア株式会社

【価格】無料

【URL】http://swiftswitch.org/intro-ss/

企画・開発を行うキャスタリア株式会社は、「教育×ITで社会問題を解決する」をモットーにさまざまな教育サービスを展開する企業。主な事業にモバイルラーニングプラットフォーム「Goocus(グーカス)」の運営があるほか、米エボルブ社が展開するプログラミング学習用小型ロボット「Ozobot(オゾボット)」の国内輸入代理店も務める。

プログラミング教育の溝

しかし、ここでプログラミング教育が抱えるある問題について、松村氏は指摘する。それは「遊びながらプログラミング的な考え方を身につけること」と「実践的なコーディグ技術の習得」との間に溝があるということだ。

「初学者向けの学習ツールの多くは、ブロックを組み合わせてプログラムを作る“ブロックプラグラミング”を採用しています。この手法はプログラミング的思考を学ぶのには適していますが、それだけでは実際にコードを書けるようにはならない、と松村は考えたのです」

かといって初心者がいきなりコードを書くのはハードルが高く、プラグラミングへの拒絶反応を生んでしまいかねない。そこで思いついたのが、ブロックプラグラミングの画面とコードプログラミングの画面を〝スイッチ(切り替え)”し、どちらの手法でもプログラミングできるようにするやり方だった。これなら抵抗なくプログラミングに取り組めるうえ、さらにコードにも触れられる。スウィフトスイッチの基礎となるアイデアが形になった瞬間だった。

次に両氏を悩ませたのは、スウィフトスイッチ全体のゲームデザインである。子どもは飽きっぽく、面白くないものはすぐにやめてしまう。そうならないためには、エンターテインメントとして優れたコンテンツに仕上げる必要があった。

「子どものモチベーションを高めるために重要なのは物語性、具体的にはストーリーと世界観なんです」

山脇氏は外部のクリエイターの力も借りながら、鳥のキャラクター〝スイッチ〟と未来からきたロボット〝コードン〟の物語を作り上げていった。壊れたタイムマシンを修理しコードンを未来に帰すため、世界をめぐりながら必要なエネルギーを集めていくという冒険譚である。

グラフィックデザインは山脇氏が信頼を寄せるブラジル人デザイナー、マテウス・レゼンデ氏が担当。丸みを帯びた愛くるしいキャラクターやフラットデザインで統一された画面設計を、山脇氏は「日本人には作れないデザイン」と絶賛する。

「いずれは世界展開も視野に入れています。そのためにはグローバルで通用するデザインでなければ、と当初から考えていました」

純正アプリにはない強み

スウィフトスイッチの最大の特徴は、ツール構想時のアイデアを具現化した「スイッチボタン」の存在だ。ステージの初めに登場し、これを使ってブロックモードとコードモードとを切り替える。両方の表記で1つの言語を習熟できるのは、ほかのツールにはない大きな強みだろう。

構想当初こそほぼ存在しなかったスウィフト用学習ツールだが、現在はアップルから「スウィフトプレイグラウンズ(Swift PlayGround)」という純正アプリが登場している。一見するとこれ以上ない強敵に思えるが、山脇氏は「アップルから専用の学習ツールが出るのは想定内。そこにはない強みがスウィフトスイッチにはある」と自信満々だ。

前述のスイッチボタンのほかに、同ツールがマルチデバイスであることも強みの1つにになっている。スウィフトプレイグラウンズはiPad向けの無料アプリでiPadさえあれば誰でも利用できるが、逆にiPadがなければ学びの入り口にも立てない、と山脇氏は指摘する。一方、スウィフトスイッチはブラウザ上で動作し、スウィフトプレイグラウンズと同じく無料。デバイスを問わず、インターネット環境さえあれば学習を始められる。取り組みやすさを考えると、どちらに軍配が挙がるかは明らかだろう。

最後に、山脇氏はスウィフトスイッチに隠された裏テーマについて教えてくれた。それは、「ダイバーシティ(多様性)」への理解である。

「各ステージは地球上のさまざまな場所をモデルに、〝ありえそうだけどありえない世界〟を作っています。また、物語中には助けになってくれる鳥たちが多数登場しますが、彼らも姿形がすべて違っていて、1つとして同じものはないのです」

派手な鳥もいれば地味な鳥もいる。色が黒い鳥もいれば黄色い鳥もいる。それはまさにこの地球そのものだ。彼らと助け合うことで子どもたちが多様性の大切さを学んでくれたら…山脇氏は笑顔でそう語った。

メンターとしてプロジェクトに関わる株式会社QUANTUMは、大企業・スタートアップ企業の新規事業創出を支援するスタートアップスタジオ。今後高まるSTEAM教育の重要性から、会員制DIY工房「TechShop Tokyo」(東京都港区)にて、SwiftSwitchを使った小中学生向けのプログラミング学習イベントを企画。

プログラミングを楽しく学べる工夫が詰まったSwiftSwitch