インテル社は8月21日、第8世代Coreプロセッサの第一弾となるモバイルプロセッサ「第8世代Core U」プロセッサを発表した。13インチMacBookプロクラスでも、クアッドコアプロセッサが搭載できるようになった。
第8世代の多コア戦略
インテル社が今回発表したのは、第8世代「コア(Core)」プロセッサの中でも、MacBookエアのような薄型ノートPCや2イン1モデルに搭載可能なTDP(熱設計電力)15Wクラスのモバイルプロセッサ「コアU」シリーズ4モデルで、「ケイビーレイクR−U(Kaby Lake R-U)」のコードネームで呼ばれる。従来の第7世代「コアU」プロセッサ「ケイビーレイクU(Kaby Lake U)」と比べると、製造プロセスは14nm+、アーキティクチャは「スカイレーク(Skylake)」ベースとなっており、技術面ではケイビーレイクUと大きく変わらない。
最大の変更点はそのCPUコア構成にあり、従来のコアUプロセッサがすべてデュアルコア(2コア)構成であったのに対して、今回リリースされたモデルはすべてクアッドコア(4コア)構成となっている点だ。つまり、13インチMacBookプロクラスの製品でもクアッドコアプロセッサが搭載できるようになったことを意味している。ウルトラブック(UltraBook)に代表されるウィンドウズPCをはじめとして、このクラスのモバイルPCは長らくデュアルコアプロセッサしか搭載できなかったが、ついにこのクラスにもクアッドコアを採用できるようになったことの意義は大きい。
インテルによれば、クアッドコア化によって従来のデュアルコアのケイビーレイクUプロセッサに比べて最大40%の性能向上が見込めるという。ただし、従来のTDP 15Wに収めるためにコアあたりの基本動作クロックは従来のデュアルコアモデルに比べて低めに抑えられており、シングルスレッド性能は低下していると考えられるが、ターボブースト(TurboBoost)の上限は旧モデルより高く設定されていることから、一般的な用途での瞬発力やマルチスレッド対応の処理では大幅な性能向上が見込めそうだ。さらにより強力な冷却システムを搭載することでTDP枠を25Wまで引き上げ、その分基本動作クロックを最大200MHz高く設定するといった使い方(Configurable DTP-up機能)も可能となっている。
課題はグラフィックス処理能力
一方で気になるポイントは第8世代コアUプロセッサが内蔵する統合グラフィックス機能だ。今回リリースされた4モデルはいずれも「インテルUHDグラフィックス620(Intel UHD Graphics 620 GT2)」を採用しており、これは従来の第7世代コアUの一部に採用されていたインテルHDグラフィックス620 GT2の改良型(HDMI2.0対応版)となる。
一方、現在のMacBookプロ13インチモデルに搭載されている第7世代コアUプロセッサはいずれも「インテルアイリスグラフィックス(Intel IRIS Graphics)640または650(GT3e)」を採用しており、両者間の性能差は意外に大きい。GT3eはGT2の2倍のグラフィックスエンジンを持つのみならず、キャッシュとして64MBのeDRAMを搭載した(プロセッサ統合GPUとしては)強力なGPUだ。現在のMacBookプロには例外なくレティナディスプレイが採用されており、その膨大なピクセルをストレスなく処理するためには強力なグラフィックス性能が求められるためである。
今回リリースされた第8世代コアUプロセッサを搭載することで確かにCPU性能は飛躍的に向上するものの、グラフィックス性能はむしろ大きくダウンする可能性が高い。これを補うには15インチモデルのように「ラデオンプロ(Radeon Pro)」などの外部GPUを搭載し、グラフィックス負荷に応じて両者を切り替えるアプローチも考えられる。しかし、この方法は消費電力(発熱量)の増大と大幅なコストアップという代償がある。MacBookプロ13インチモデルのマーケティングポジションや小さな基板サイズなどを考慮すると、この手法を使うのは難しいだろう。
そうなると考えられるのは、年内にリリースされるであろう追加の第8世代コアUプロセッサ(インテルアイリスグラフィックス搭載モデル)の登場を待つプランだろう。現行モデルのリリース時期を考えれば次期モデルのリリースを急ぐ状況とは考えにくく、13インチモデルのクアッド化は年末~来年初旬あたりが妥当なラインと想定される。
来年にはすべて第8世代に
今回リリースされた第8世代コアUプロセッサは、インテルの第8世代コアプロセッサファミリの幕開けに過ぎない。今後、先述したアイリスグラフィックス搭載のコアUをはじめ、コアH(ハイエンドモバイル向け)、コアS(メインストリームデスクトップ向け)、コアX(ハイエンドデスクトップ向け)、コアY(ファンレスモバイル向け)といったラインアップのアップデートが年末から来年初旬にかけてリリースを控えている。この中で特に多くのユーザに関係が深いと思われるのがコアHおよびコアSプロセッサで、前者はMacBookプロ15インチモデル、後者はiMacシリーズに第7世代プロセッサが搭載されている。
第8世代のコアHおよびコアSプロセッサでは、従来のクアッドコアに加えてヘキサコア(6コア)モデルがラインアップに追加される点が大きなポイントとなる。6コアモデルは従来ならMacプロ、最近ではiMacプロにのみラインアップされているが、いよいよMacBookプロやiMacにも6コアモデルが登場することになる。
このようにインテルの新しいプロセッサラインアップは、従来のように製造プロセスやアーキティクチャの改善によってコアあたりの性能を引き上げるアプローチではなく、これらを据え置いたまま全モデルの多コア化を進めることで総合性能を引き上げる方向へと舵が切られた。当然Macもその流れの中にあり、今後はクアッドコアやヘキサコアがメインとなるラインアップに変更されることになる。
その背景には、最近になって「ライゼン(Ryzen)」プロセッサファミリのリリースで急速にそのシェアを拡大しているライバルAMD社の存在が見え隠れする。ライゼンプロセッサは、エントリーの「ライゼン3」でもクアッドコア、パフォーマンスレンジの「ライゼン7」ではオクトコア(8コア)、ハイエンドの「ライゼン・スレッドリッパー(Ryzen Threadripper)」では16コアを誇る強力なラインアップを揃えてきた。ライバルの猛攻を受けてインテルのプロセッサが、そしてそれを搭載するMacの性能(中でもコストパフォーマンス)が飛躍的に向上することは、ユーザにとって喜ばしいことと言える。
インテルのCoreプロセッサロードマップ。2008年に登場した第1世代Coreプロセッサから始まり、同社のプロセッサは製造プロセスの更新(微細化)とアーキティクチャの更新を2年ごとに交互に更新するチックタックモデルを採用していたが、ここ数世代はそのいずれも更新サイクルが長期化していることがわかる。
今回リリースされた第8世代Core Uプロセッサのパッケージ写真。左の大きなダイがクアッドコア+GT2を統合するプロセッサコア、右の小さなダイがI/Oコントローラ機能を集約したPCH(ペリフェラル・コントローラ・ハブ)。GT3eの特徴であるeDRAMは搭載されていない。
今回リリースされた第8世代Core Uプロセッサと、現在のMacBook Proに採用されている第7世代Core U、同Core Hプロセッサのスペック比較。今回リリースされた4モデルはいずれもクアッドコア化されてCPU性能が引き上げられているが、グラフィックス性能の高いIRIS Graphics搭載モデルがまだ用意されていない。
現行MacBook Proに搭載されている第7世代Core Uプロセッサのパッケージ写真。中央の大きなダイがデュアルコア+GT3(e)を統合するプロセッサコア、その左に密着した小さなダイがeDRAM、右の小さなダイがI/Oコントローラ機能を集約したPCH。このタイプの第8世代Core Uの登場が待たれる。
今回リリースされた第8世代Core Uプロセッサのダイ写真。左側から5分2がGT2グラフィックスブロック、その右側5分の2がクアッドコアのCPUコア、その右5分の1がメモリコントローラや外部バスを含むSAブロック。そのコンポーネント配置は第7世代Core Hプロセッサ(クアッドコア)に非常に類似している。