ご多分に洩れず小市民だった筆者の一家ですが、実家や証券など、多少なりとも父から相続するものがありました。契約者の変更手続きをしていて、ふと疑問が湧いたんです。父が契約していたiPhoneはいつまで持っていればいいのだろうか?と。父が亡くなってもう数カ月経ちましたが、いまだに亡くなったことを知らない人からの連絡があるので、契約者を私に変更して、しばらくは持っておいたほうがいいのか? とても迷ったものです。
Macに関しては、中に入っていた写真や音楽コレクションはそのまま引き継ぎつつ使っていますが、そういえば父のApple IDってどうしたらいいんでしょう? そのままにして放置してもいいんですが、どう扱うのが正解なのか、気になって眠れません。
【解決のポイント】故人の携帯電話はいずれ解約を考える
故人が生前使っていた携帯電話/スマホには、亡くなったことを知らない人からの連絡が思った以上に絶え間なくやって来ます。
筆者の父のiPhoneには、毎日のようにさまざまな人から電話がかかって来たり、メッセージが来たりしたので、その都度対応し、訃報を伝えていました。半年近く経った現在、だんだんと連絡は減っているもののいまだに着信があります。
これに加えて昨今ではメール、SNSの各種メッセージサービスなどがあることを考えると、デジタル依存率が高い人ほど残された側が都度対応する時間が長くなるのは想像に難くありません。また、予期しない重要な連絡があるかもしれませんが、とはいえ持ち主のいないサービスにいつまでもお金を払うのは考えものです。
これらを「いつまで残すのか」「いつまで対応するのか」は判断に迷うところなので、ある程度の指針は本人と生前に決めておくか、そうでなければ連絡が落ち着いたタイミングで解約を考えてみるべきかもしれません。通信キャリアによって変わりますが、基本的に法定相続人が指定書類を持って行くことで、契約者が亡くなっても解約することができます。
契約者の死亡に伴う解約は、通信キャリアによって方法が多少異なるため、詳しくは各社に問い合わせてみましょう。死亡の事実が確認できる書類が必要なことと、店舗での受け付けとなることなどが共通しています。解約のほかに、そのまま携帯電話を引き継いで使う「継承」も可能です。
【解決のポイント】Apple IDはユーザの死後引き継ぐことができると覚えておく
相続とは、亡くなった人の所有権を引き継ぐための手続きですが、これは一部のオンラインアカウントでも適用できるようです。筆者は、父が使っていたアップルIDを死後どうすれば良いのか確認したく、アップルに問い合わせてみました。すると、一般的な相続手続きと同様に「法定相続人の申請書」「印鑑証明」「戸籍謄本」を用意して手続きをし、確認ができた場合には、該当するアカウントの削除、もしくは別のメールアドレスに変更することでアカウントの管理権限を移すことができることがわかりました。調べてみたところ、グーグルやドロップボックスといったアカウントなどでも同様の対処方法をとっていることも確認できました。
これらのサービスは写真や動画、書類など個人のデータを保管するオンラインストレージとしての役割を持っており、遺族が必要なデータがそこに入っている場合に開示に応じるというスタンスなのだと推測できます。左ページで解説する購入したデジタルコンテンツと異なり「お金で買い戻せないデータ」に関しては、法的に手続きを踏めば救済策は用意されているというのを覚えておくとよいでしょう。
(1)規約ではApple IDの所有者が死亡した場合には「アカウント内のデータは消去する」とありますが、実際には遺族が必要とするデータにアクセスするための救済策が用意されているようです。【URL】https://support.apple.com/ja-jp/icloud
(2)Googleアカウントの場合、「アカウント無効化管理ツール」を使って、故人のアカウントを閉鎖します。場合によっては、亡くなったユーザのアカウントからコンテンツを提供することができます。【URL】https://support.google.com/accounts/troubleshooter/6357590?hl=ja
(3)DropBoxは、指定の文書を送付しリクエストを出すと、故人のアカウント内のファイルにアクセスできる場合があります。【URL】https://www.dropbox.com/ja/help/security/access-account-of-someone-who-passed-away
【解決のポイント】SNSやブログアカウントは「消さない」という選択肢も
故人が生前SNSやブログを活用していた場合、アカウントは死後に消したほうがよいのでしょうか? もちろん、故人の遺言でもない限りなかなか明確な結論が出るものではありませんが、その決め手として判断するべき材料を考えてみましょう。
各社のポリシーについて調べてみました。ほとんどのサービスでは遺族(ないし近親者)が手続きを踏めば、そのアカウントのアクセスを停止したり、削除することが可能です。一方で、パスワードをリセットしたり、アカウントを移譲するといったサービスを持つところは、調べた限りはありませんでした。
単純にアカウントを削除するのではなく、フェイスブックの「追悼アカウント」のように「投稿したコンテンツやアカウントそのものは残すけど、故人であることはわかるようにする」というスタイルも出てきました。この場合、追悼アカウントの管理人はタイムラインに投稿ができるため、訃報の一斉配信のようなこともここで行えます。また、アカウントが消されずに残ることで、故人が程よく忘れられずにいるということもソーシャル時代の新しい偲び方といえるかもしれません。
(1)フェイスブックの場合、利用者がなくなったあとに「追悼アカウント」に変更することができます。利用者が亡くなったあとで友達や家族が集い、その人の思い出をシェアするための場所、としています。
(2)「ブログ」の代表格であるアメーバブログは、特に「追悼アカウント」のような切り替えは行っていないとします。著名人の場合、実質追悼アカウントのようにブログが残される場合もあります。
「デジタル遺品」のそうだったんだ!
デジタルコンテンツは相続できない?
アナログコンテンツと違って、デジタルコンテンツは物理的な形として残りません。では、ダウンロード購入した音楽や電子書籍、アプリといったデジタルコンテンツは、所有者の死後はどうなるの?という疑問が出てきます。調べてみたところ、原則として各社ともに「譲渡不可のライセンスとして付与」と記載されているところがほとんどです。
代表的なものを見てみましょう。AmazonのKindleは「お客様個人の非営利の使用のみのために(中略)非独占的な使用権が付与されます」、AppleのiTunes(iBook、App Storeを含む)は「お客様は、個人的、非商用目的での使用に限って本サービスとコンテンツを利用することができます」、GoogleのGoogle Playは「いかなるコンテンツ、またはコンテンツに対するユーザーの権利を、許可なく第三者に販売(中略)または譲渡することはできません」、LINEのLINEマンガも「お客様は、本サービスの利用権を第三者に譲渡したり相続させたりすることはできません」と、各社表現は異なるものの、デジタル著作物はあくまで「ライセンスの付与」であって物理的な所有権がないので譲渡はできないというポリシーのようです。
ただ、iTunesのようにアカウントを削除する際に紐づいていた購入品について返金(返品)を受けるポリシーを持つサービスもあるようですが、これも過去に支払ったすべてのコンテンツに対して適用されるわけではないので注意が必要です。
結論を言ってしまうとデジタルコンテンツの相続は「できない」のでした。こうなると、買い切りのダウンロード型のサービスを使うより、今後はApple Musicなどのようにサブスクリプション(月額課金制)タイプで提供される、いわゆる「放題系」のストリーミングサービスのコンテンツを利用したほうが、相続面ではムダが少ないのかもしれません。
Kindle
「お客様個人の非営利の使用のみのために(中略)非独占的な使用権が付与されます」の1文。
iTunes(iBook、App Storeを含む)
「お客様は、個人的、非商用目的での使用に限って本サービスとコンテンツを利用することができます」の1文。
LINEマンガ
「お客様は、本サービスの利用権を第三者に譲渡したり相続させたりすることはできません」の1文。
Google Play
「いかなるコンテンツ、またはコンテンツに対するユーザーの権利を、許可なく第三者に販売(中略)または譲渡することはできません」の1文。