最近、これから流行りそうな最新家電を記事にしました。製品を調べていて驚かされたのが、いかに多くのガジェットが「キックスターター(Kickstarter)」などのクラウドファンディングをとおして実現しているかということ。ラジコン感覚で楽しめる小型の家庭用ドローン、超薄型&軽量の電動自転車、ポータブルなピザ釜(2016年にもっとも成功した製品の1つ)。ありとあらゆるアイデアが形になっています。
“A lot of times, people don't know what they want until you show it to them”は、ビジネスウィーク誌の取材(1998年)に対する故スティーブ・ジョブズの答えです。そのモノを目の前に見せられるまで、人には自分が欲しいモノがわからないのだと。昨今のクラウドファンディングの流れは、ジョブズの発言を裏づけています。アイデアや構想を具体的に提示し、ときには試作品として「見せる」ことで、消費者はこれなら欲しい、これは欲しくないと判断することができます。
過去に取材したクラウドファンディングを利用する会社の創業者たちによると、その魅力は主に3つあります。まず、プラットフォームの名称にもなっている「ファンディング」、つまり資金調達です。投資家から出資を受けることが難しい場合、消費者に製品を事前予約してもらう(決済は先に行われる)ことで、資金を募ることができます。クラウドファンディングは、過去には存在しなかった新しい方法で、資金調達のハードルを一気に下げました。
2つ目が、マーケティングやプロモーション効果。名の知れない、まだ構想段階の製品が、独自にWEBサイトを立ち上げたところでなかなか注目されません。アイデアが一箇所に集まる、クラウドファンディングという一種の“ポータルサイト”を利用することで、消費者はもちろん、記者などにも自社製品を発掘してもらえます。また、キャンペーンの成否には、ツイッターやフェイスブックといったSNSの拡散力が不可欠。「○○というプロジェクトを支援しました。皆さんもどうですか?」などと支援者がフォロワーに投げかけることで、彼らの拡散力がキャンペーンをあと押しします。
クラウドファンディングの3つ目にして最大の魅力が、アイデアの検証です。十分な支援者が集まりキャンペーンが成功することは、その製品に対する消費者のニーズが立証されたことを意味します。「半年から1年以上前払いをしてでも製品が欲しい」(期間はあくまで個人的な感覚値です)という消費者の反応を一定数以上得られたなら、製品の開発を進めるにあたっての“恐れ”はなくなるでしょう。製造したモノを世に出してみるまで、需要の程度を知り得ることができなかった時代は過去のもの。クラウドファンディングなら、自分たちの製品を求める支援者の意見を聞きながら製品を作り込んでいくことができるのです。
小さく始めて、顧客の声をもとに臨機応変に改良していく起業手法を、「リーン・スタートアップ」といいます。起業だけでなくIT系のサービスやモノづくりなどにも当てはめて使われますが、ロサンゼルスで生活をしていると、これがリアルな場に持ち込まれている様子を目にします。それは、固定の店舗を構えるのではなく、ターゲット消費者のもとに出向く移動販売トラックです。フードトラック、ペットケア、美容院、セレクトショップまで内容は多種多様です。
トラックという形態なら、クラウドファンディングと同様、初期投資をなるべく抑えながらアイデアとニーズを検証し、事業のポテンシャルを図ることができるでしょう。オンラインとオフラインともに、作り手の思い込みや勘違いに無縁な、消費者が本当に求める製品が生まれやすくなっているのかもしれません。
Yukari Mitsuhashi
米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。【URL】http://www.techdoll.jp