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IBMが推し進めるもう1つの“仕事場”変革はMac導入を「ユーザありき」で●IBM × Appleのビジネス大変革

著者: 牧野武文

IBMが推し進めるもう1つの“仕事場”変革はMac導入を「ユーザありき」で●IBM × Appleのビジネス大変革

原 寛世(左)

日本IBMグローバル・テクノロジー・サービス事業本部モビリティサービス営業部部長。企業におけるモビリティ活用による最新のデジタルワークプレイス設計構築運用を担当する部門責任者。営業部を牽引するかたわら、三児の父として子育て奔走中。

福王寺 江里(右)

日本IBMグローバル・テクノロジー・サービス事業本部ポートフォリオ担当。IBMおよびIBMパートナーのテクノロジーを活用したサービスオファリングを企画・開発。IBM MMS for Macの日本展開責任者。現在、モバイルを活用した介護に挑戦中。

経験に裏打ちされたサービス

現在、iPhoneやiPadに並んで企業導入が進んでいるのがMacだ。しかし、企業が新しくMacを導入するには、数々のハードルがある。キッティング(開梱、設定)の手間、セキュリティの確保、アプリケーションの移行、従業員への研修、保守…。この手の課題があるために、二の足を踏んでいる企業は多い。

そこで、IBMが提供するのが「IBM Managed Mobility Service for Mac」(以下、MMS for Mac)だ。デバイスの調達から導入、環境構築、運用管理、ヘルプデスク、保守までのサービスを一気通貫で提供する。

なぜIBMではこうした導入サービスを提供できるのか。それは、IBMの経営施策により開始された「Mac@IBM」プログラムで、自社導入した経験があるからだ。その効果は、社員の満足度と生産性の向上、ユーザエクスペリエンスの強化などにはっきりと表れている。具体的には、「Macを選択する社員が50%以上」「パソコンを使い始めるまでの初期設定時間の短縮」「サポート品質の改善」「ヘルプデスクの大幅削減」等である。特にユーザサポートに関しては、1900台のMacを一週間で導入しながらヘルプデスク要員はたった31人で、1次問題解決率は98・7%。PCと比較したときの1台あたりのコスト軽減は270ドルにも及ぶという数字も出ている。また、ユーザ満足度はPC(53%)と比べて高く(85%)、ヘルプデスクに問い合わせる割合もPC(40%)より少ない(5%)。「私たち自身が実験台になって検証し、そこで得たノウハウに付加価値を付けて提供しているのがMMS for Macです」(福王寺氏)。

簡単、速い、便利!

MMS for Macは、「ゼロタッチエンロールメント」「ヘルプセンター」「カスタマーケア」の3つ基本構成で成り立つ。まず「ゼロタッチエンロールメント」に関しては、キッティングにDEPに対応した「キャスパースイート(Casper Suite)」を用いることで、従業員の手間がほとんどないのが特徴だ。従来はシステム管理の人間が梱包を開け、1台1台設定して従業員に配付、各従業員は自分のアカウントを設定、必要なアプリ類のインストールを行うという膨大な作業が必要だった。「私自身もMacを渡されて、自分の環境を作るのに30分とかかりませんでした。ほかの社員もほとんど同じ状況だと思います」(福王寺氏)。

「ヘルプセンター」は、ビデオチュートリアルを中心に設けられているヘルプ機能だ。もともとIBMが社内向けに制作したものを、クライアント企業ごとにカスタマイズして提供する。これを見ながら必要な設定を行っていけば、短時間で業務に活用できる状態になる。さらに、「カスタマーケア(サポートデスク)」では、チャット、電話、メールにより使い方などの相談ができる。その対応には、アップル製品とビジネスに関する知識を合わせ持つ、専門のサービスデスク要員が配置されている。

この3つの基本サービスに加えて、MMS for Macにはいくつかのオプションが用意されている。「調達」「AppleCare for Enterprise(保守)」「ボックスを利用するファイル共有」などがあるが、その中でもIBMらしいのが「Appギャップ」だ。これはMacへの移行に関するアセスメントサービスで、従業員の働き方や業務を分析しペルソナを作成。どのようなペルソナの従業員にはどのデバイスが必要かを考え、導入計画を立てていく。従来使われていた業務ツールがMacからも利用できるのかという検証、利用できない場合はどのツールに置き換えるのかという計画も立てられる。

IBM社内のMac環境も日々進化している。「そこから生まれた新しい知見も、どんどんお客様に提供していきます」(福王寺氏)。その1つが、米国ではすでに発表されている「IBM Client Care with Watson」だ(日本でも今後提供予定)。ユーザからの質問に最初にワトソンが答え、それで解決しない場合に人間のサポート要員が対応する。「ワトソンは学習する必要がありますが、すでにIBM社内で学習したものをベースにクライアント向けに提供します」(福王寺氏)。

個々人にあったMac導入の仕組みを作る

MMSのオプションサービス「Appギャップ」は、Macへの移行・新規導入に関するアセスメントサービスだ。社員の働き方、業務を分析し、ペルソナを作成。どのようなペルソナの社員にはどのようなデバイスが必要かを考えて、導入計画(ロードマップ)を立てていく。

本来の「仕事」を考える

IBMがMMS for Macによって提案しようとしているのは、「ワークプレイスの変革」だ。ここが単なるMac導入支援サービスと決定的に違っている。

「今までIT環境の構築を考えるときに、どうしてもシステム中心に考えてしまいがちでした」(原氏)。基幹システムがあって、それを利用するためにデバイスを使う。そのためにデバイスを統一してコストを抑える。これだと従業員は、「その使い方を覚えることが仕事を覚えること」という意識になってしまう。経営者の目はコストダウンのみに向かい、従業員はいつまでも使いづらい環境の中で仕事をしなければならなくなる。

一方で、IBMが提案しようとしているのは、ユーザ中心のIT環境だ。ユーザが使い慣れたデバイスを採用し、そのデバイスからアクセスできるようにシステムを構築する。「今、ミレニアム世代の学生たちは、iOSデバイスを使い、MacBookを使っています。そういう人たちが、これから企業にどんどん入ってくるようになるのです」(原氏)。Macを導入すれば、会社がおしゃれになって人材が集まるなどという浅いレベルの話ではない。「彼らにとって、MacやiOSデバイスは、もはや鉛筆と消しゴムのような身近な道具になっています」(原氏)。学生たちが慣れ親しんでいるデバイスを使って仕事ができる環境を用意すれば、使い方の研修は必要なくなり、従業員はより本質的な仕事を覚えることに時間を費やせる。これがMMS for Macの狙いなのだ。

「ですから私たちは導入支援サービスだけを単体で提供するのではなく、ヘルプデスクやAppギャップといったサービスを一緒に提供し、さらに新しいテクノロジーであるワトソンなども投入しています」(福王寺氏)

「IBMは、ただ単にMacを提案したいというだけではありません。お客様にご提供したいのは、ワークプレイスの変革という考え方なのです」(原氏)

システム中心の考え方から、人中心の考え方へ。IBMは企業に、働き方の発想の転換を促している。

これからのワークプレイス環境は「ユーザ中心」に

従来のシステム中心のIT環境では、デバイス中心のサポートにならざるをえなかった。この状況ではユーザはデバイスに縛られることになり、ワークスタイルそのものもデバイスに依存してしまう。これを、ユーザ中心のワークプレイス環境へ変革しようというのがIBMの試みだ。中心にあるのはユーザとそのビジネス。デバイスに縛られない自由度の高い環境を作り出すのが、これからのITシステムの役割なのだ。