ダイバーシティを尊重して30年
6月26日に米サンフランシスコで開催されたプライド・パレードにアップルが参加した。数千人の社員とともにCEOのティム・クック氏も行進し、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字を取った呼称)を含む多様性を受け容れていく姿勢を強くアピールした。
2014年にメイキングビデオ「プライド(Pride)」を公開してからアップルのプライド・パレード参加はよく知られるようになったが、アップルとLGBTコミュニティの関わりは長い。性別、ルーツ、宗教や文化といったさまざまな違いを越えて尊重し合うために、アップルにはダイバーシティ・ネットワーク・アソシエーション(DNA)という従業員グループがある。その最初の団体が「Pride@Apple」であり、誕生してから今年で30周年になる。それを記念して、今年はプライドイベントに参加登録したすべての社員にレインボーカラーのアップルウォッチバンドを配布した。
ここ数年、シリコンバレー企業は「多様性に欠ける」という批判を浴びてきた。アップルも例外ではない。実際、今年1月に同社が公開した従業員の多様性に関する最新レポートによると、昨年にマイノリティの雇用が大きく増加したものの、全体の構成の中ではマイノリティの割合が微増したに過ぎない。特に技術部門や管理職が男性・白人に偏っていることが再び批判の対象になった。一方で、アップルを多様性に配慮した代表的な企業の1つに数える人も増えている。プライド・パレードで沿道から大きな歓声が上がっていたことが、それを証明している。従業員構成に偏りのあるアップルが、多様性が問われるプライドイベントで大歓迎を受けているのだ。
ユーザにも広がる多様性
動画「プライド」の中で、アップルは「インクルージョン(包摂)が革新を引き出す」と明言している。スマートフォンやコンピュータ、アプリやWEBサービスは私たちの生活を便利にするだけではなく、今や社会を変化させるような力を備えている。ところが、そうした便利なツールにアクセスできるのが男性や豊かな国に偏り、またソフトウェアやサービスの開発者が白人やアジア人に偏った状態がテクノロジー産業では長く続いていた。これではテクノロジーが一部の価値観に染まり、可能性が狭まってしまう。性別、人種、年齢などの違いなく、すべての人がアクセスできるようになることで、コンピューティングの可能性が存分に引き出される。
今年もシリコンバレーでは、7月後半にiOSアプリ開発者のお祭り「iOSDevCamp」が開催される。その発表文には「女性参加者が25%を超えるもっとも多様なハッカソン」と記されている。シリコンバレー企業が雇用の偏りを解消するのは大切なことであり、アップルを含むシリコンバレー企業はこれから時間をかけて従業員構成のバランスを改善していくだろう。だが、それは改善すべきことの1つでしかない。開発者コミュニティにも多様性が広がれば、さまざまなアプリやアクセサリが誕生し、さらに多くの人々がテクノロジーツールを使いこなせるようになる。こうした良循環を作り出すことで、格差が取り除かれ、一面的な価値観がなくなり、すべての人にチャンスがもたらされる。
iPhoneの浸透によって以前よりも多くの女性がスマートフォンを手にするようになり、iPadでWEBサービスを利用するシニアが増え、スウィフト・プレイグラウンド(Swift Playgrounds)で子どもたちがプログラミングに挑戦する。誰でも受け入れる環境を整え、すべての人にチャンスを広げるのもまた、シリコンバレー企業が実践すべき多様性の取り組みである。その点でアップルはここ数年の間に大きな進歩を果たし、ライバルをリードしている。ファッションとITを融合させたパーソナルデバイスであるアップルウォッチは、アップルが考える多様性をデザインしたような製品であり、Pride@Apple30周年の限定バンドがよく似合う。
パレードに参加したティム・クックCEOが行進の様子をツイート。今年のアップルの参加者数は公表されていないが、ここ数年に勝るとも劣らない長い行進になっていた。
【URL】https://twitter.com/tim_cook/status/74718937 2462600192
7色のバンドは美しく、一般販売を求める声が起こったが、アップルは「平等に対するわれわれの取り組みのシンボルとなる限定版」としている。販売される可能性は低そうだ。
2015年にアップルは前年比65%増となる1万1000人以上の女性を雇用した。しかし、男女比率は男性69%、女性31%で、女性の割合は前年から1ポイント伸びたのみだった。着実に改善しているが、問題の解消には時間はかかる。
【News Eye】
サンフランシスコのプライド・パレードは、毎年6月最後の日曜日に開催される。パレードで多くの人が手にする虹色の旗は、1978年に公民権運動家でアーティストのギルバート・ベイカー氏がセクシャリティ、生命、癒やし、太陽、自然、アート、調和、スピリットなどの意味を込めてデザインし、その後も広く使われるようになった。