アナログとハイレゾの相性
2016年1月、ラスベガスで開催された総合展示会「CES」にて、ソニーはハイレゾ対応のADC(アナログデジタルコンバータ)を内蔵し、アナログレコードをPCで「ハイレゾ録音」できる世界初のステレオレコードプレーヤ「PS-HX500」を発表しました。国内では4月16日から発売が始まり、瞬く間に注文が殺到。予約しても1~2カ月待ちという人気ぶりだといいます。
このPS-HX500はどのように開発されたのか、企画を担当したソニービデオ&サウンドプロダクツ株式会社・企画マーケティング部門の三浦愛さんにお話をうかがいました。
「個人的にオーディオやアナログといった類が大好きで、ずっとレコードプレーヤを企画したいと思っていました。ニッチな分野ですし、なかなか難しいと思っていたのですが、昨今のアナログレコードブームで風向きが変わったんです。ただブームに乗っかるだけでは企画は通らないので、なにかプラスアルファの価値を付けられないかと考えていました」
三浦さんは、2013年にハイレゾ対応のHDDオーディオプレーヤ「HAP―Z1ES」を担当していました。その技術者との雑談の中で、DSD(ダイレクトストリームデジタル)がアナログに近いことを再認識したのだそう。そこで思いついたのが「ハイレゾ録音」という付加価値でした。ちょうどアナログレコードが盛り上がってきた時期と、ハイレゾのが盛り上がってきたタイミングがぴったりと一致。企画を出してみると、上層部も「いいじゃん、やれやれ!」という返答で、あっさりと通ってしまったとのこと。
「レコードプレーヤに興味のある数十人の社員を集めてヒアリングしたところ『欲しい欲しい!』と言われて(笑)。それも後押しになりました」
こだわりポイントを凝縮
本機の特徴は、一体型ヘッドシェルによる安定した音質、オートプレイなどを搭載しないシンプルな機能とデザイン、付属ソフトウェアのMacとウィンドウズ両対応などが挙げられます。三浦さんが強くこだわったのはこれらに加えて、「6万円台」という価格設定だったのだそう。
「値段設定はどうしても譲れませんでした。レコードファンはもちろん、レコード文化を経験してこなかった若い方など、レコードが初めてのお客様にもお届けしたかったのです」
また、自動的にトーンアームを上げ下げしたり、演奏終了後にヘッドレストに戻る「オートプレイ」が搭載されていない理由は、「デザインと音のバランスを取って、オートプレイはないほうがいいと判断しました」とのこと。
本機のキャビネットは一枚板の高密度MDFをくり抜いて使っており、オートプレイのためのスイッチを付けるには、穴をたくさん開ける必要があります。穴を開ければ開けるほど強度が下がってしまい、それにより音が悪くなってしまうのがアナログオーディオのセオリーです。オートプレイがないことで、初めての人に自分でレコードに針を落とすお作法を経験してほしかったのも理由の1つだったそうです。
最後に、付属ソフトウェアついてもうかがいました。
「2008年に発売したレコードプレーヤ「PS-LX300USB」の付属ソフトは、実はウィンドウズ版だけなんです。1ユーザとしては残念な思いもありました。なので、付属ソフトのMacとウィンドウズ両対応は当初から強くお願いしていました」
通常のDACであれば、OS Xの標準ドライバで動作する可能性はありますが、本機でDSD録音するにはソフトと本機が機器認証する必要があるため、Mac対応のソフトを作ってもらえたことは本当に価値のあることでしょう。
Macでお気に入りのレコードをハイレゾでデジタル化し、ポータブルアンプを付けたiPhoneなどと組み合わせていつでもどこでもアナログレコードの音を楽しめる。本機は、レコードとハイレゾの両方を盛り上げる重要な製品だといえます。
付属ソフトウェア「Hi-Res Audio Recorder」プレビュー解説
シンプルなインターフェイス
Mac/ウィンドウズ対応の付属ソフト「Hi-Res Audio Recorder」は非常にシンプルなインターフェイスデザインです。
録音中の波形表示
録音中はリアルタイムに波形が表示されていきます。音質はDSD 5.6MHz、2.8MHzとリニアPCMで最大192kHz/24ビットが選択可能です。
カット編集が可能
録音が終わったら曲間でタグを打って切り出し、分割したDSDファイルなどに書き出せます。なお、このDSDを再生するには、「Audirvana Plus」といったソフトとDSD対応のADCが必要です。