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Macを司るパーツを見てみよう・1●Macのしくみ大図鑑

著者: 今井隆

Macを司るパーツを見てみよう・1●Macのしくみ大図鑑

処理の中心となる「Macの頭脳」『CPU』

CPUはあらゆるパソコンの頭脳にあたり、すべての処理の中心となる存在です。CPUの仕事はメインメモリから命令とデータを受け取って、その命令を実行しデータを処理します。CPUの性能はその動作クロックとIPC(クロックあたりの処理能力)の積で決まりますが、動作クロックはこの10年あまりは頭打ちの状況です。そこで最近は演算ユニットの強化やパイプラインの改良によるIPCの向上に加えて、CPUコアを複数搭載するマルチコア化によって性能向上を実現しています。

また、以前のCPUはCPUコアだけの製品を指すことが多かったのですが、最近ではさまざまな周辺機能がチップ内部に統合され、SoC(システム・オン・チップ)化が進んでいます。最新のコアiプロセッサでは、CPUコアに加えて共有LLC(ラストレベルキャッシュ)、メインメモリのメモリコントローラ機能、PCIエクスプレスやDMIなどのシステムバックボーン機能、グラフィックを処理するGPU機能までもが1つに統合されています。さらにUSBやSATAなどのPCH(ペリフェラル制御ハブ)機能を統合したモデルもあり、メインメモリとストレージを加えるだけでコンピュータの主要機能をすべて実現できるほどに統合化が進んでいます。

このようにCPUへの主要機能の統合が進む一方で、多彩なニーズに応えるためにCPUのバリエーションは年々増加しています。MacBookシリーズに搭載されているモバイル用とiMacなどに搭載されているデスクトップ用ではパッケージが異なっており、デスクトップ向けのCPUにはヒートスプレッダと呼ばれる熱拡散プレートが取り付けられています。各カテゴリ向けにデュアルCPUコアとクアッドCPUコアのモデルがラインアップされており、さらにHT(ハイパースレッディング)機能やターボブースト機能の有無、動作速度の違いなどでランク分けされています。また、統合されたGPU機能にも「HD Graphics」や「IRIS Pro」などのランク分けがあり、GPUコア数やeDRAM(L4キャッシュメモリ)の有無などで性能が差別化されています。一方で、Macプロに搭載されるジオン(Xeon)プロセッサの大半にはGPU機能は搭載されず、代わりに8コアや12コアといった大規模なCPUコア構成が採用され、総合性能の高さを売りにしています。

CPUの構造

CPUは「ダイ」と呼ばれるシリコンチップ上に形成されています。プリント基板上への実装を容易にするために、サブスレートと呼ばれるパッケージに裏返しに接着(フリップボンディング)されています。

パッケージバリエーション

CPUはコア数や統合する機能の違いによってさまざまな形状の製品が用意されています。モバイル製品ではCPUのダイ以外に、PCHやeDRAMのダイを一緒に載せたMCM(マルチチップ・モジュール)タイプもあります。

CPUの内部ブロック

CPUのダイの中には多くの機能が詰め込まれています。これはMacBookエアなどに搭載されているデュアルCPUコアプロセッサ(ブロードウェル)ですが、CPUコアのサイズに比べるとGPU機能の占める面積がいかに大きいかがわかります。

マイクロアーキテクチャ

CPUに読み込まれた命令は、一度μOP(マイクロオプ)と呼ばれるRISC型の内部命令に変換されてから、必要に応じてその順序が並び替えられ、スケジューラから実行ユニットへと送られて処理が実行されます。

ターボブースト

CPUの動作速度は全体の発熱量に応じて制限されています。そこでいくつかのCPUコアの負荷が軽く発熱量が少ない場合などに、その余力を働いているCPUコアに振り分けてオーバードライブするのがターボブースト機能です。

ハイパースレッディング

実行ユニットの空き時間をうまく活用し、命令やデータの入出口を2系統用意して1つのコアに複数の処理を同時に行わせるのがハイパースレッディングです。しかしあくまで1コアですから、性能が2倍にはなりません。

Macの処理をこなす「作業机」『メインメモリ』

ストレージ(SSDやハードディスク)に保存されたソフトウェアやデータは、そのままではCPUの処理性能に追いつかないため、一度高速なメインメモリに読み出されてからCPU内で処理されます。ストレージがソフトウェアやデータを保管しておく書庫だとするなら、メインメモリは作業用の机のような存在です。今処理するために必要なソフトウェアとデータが一時的に置かれ、処理が終わったデータは再びストレージに書き戻されます。

メインメモリはCPUの進化に伴って高速化の道のりを辿ってきました。インテルプロセッサが搭載された頃のMacは4倍速転送のDDR2-SDRAMが採用されていましたが、2009年頃を境に8倍速のDDR3-SDRAMに移行。昨年登場したiMacでは、最新の第6世代コアプロセッサ「スカイレーク」の搭載に伴って、16倍速のDDR4-SDRAMを採用しています。

また、低消費電力化も進んでおり、一般的なDDR3-SDRAM(1.5V動作)に代わって、DDR3L-SDRAM(1.35V動作)やLPDDR3-SDRAM(1.2V動作)へと、低電圧動作による低消費電力化が加速しています。メインメモリの実装方法にも変化が見られ、従来は当たり前だったSO-DIMMスロットなどのメモリソケットの採用が減少し、ロジックボードに直接メインメモリを取り付ける方法がMacBookシリーズなどのモバイルモデルを中心に主流になりつつあります。これによって薄型化や軽量化が実現できる反面、あとからのメモリ増設などは不可能になっています。

メインメモリの構造

MacミニやiMacに採用されているDDR3-SDRAMのSO-DIMMモジュールです。基板上に8個または16個のSDRAMチップが搭載されており、全部で64ビットのメモリバスをサポートします。MacBookシリーズではロジックボードに直接搭載されています。

メインメモリのしくみ

Macにとって、メインメモリはソフトウェアを実行してデータを処理するうえで欠かせない存在です。アクセスが低速なSSDやハードディスクなどのストレージからソフトウェアやデータをコピーし、CPUからの高速なアクセスを実現します。

デュアルチャンネルのしくみ

メインメモリは複数個のメモリチップを並列動作させることで高速化していますが、デュアルチャンネルはさらにそれを2つ(128ビット)並列に動かして高速化する方法です。Macプロでは4チャンネル(256ビット)同時アクセス可能です。

グラフィック処理の専門家『GPU』

GPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)は主に画面描画などのグラフィック処理を専門にするコプロセッサ(副処理装置)です。図形の描画や移動(スクロール)といった2Dグラフィック処理に加え、頂点シェーダとピクセルシェーダ、ジオメトリシェーダによる3Dグラフィック処理を行います。最近はこれらの独立した固定機能を持つシェーダユニットを改良し、ソフトウェアによってプログラミング可能な統合型プログラマブルシェーダに置き換えることで、大規模なSIMD演算のような、より汎用的な並列処理を行えるようになってきました。これによってグラフィック以外の用途(物理シミュレーションなど)にもGPUが使われるようになり、このような処理はGPGPU(GPUでの汎用演算)と呼ばれます。この機能は3Dゲームにおける複雑なエフェクト処理や、後述するビデオ再生時のコーデック処理などにも有効利用されています。

GPUの主要な機能はもう1つあり、動画データの圧縮・伸長といったコーデック処理を内蔵するビデオ処理エンジンで実現します。特に情報量が多いフルHDや4Kなどの映像データのコーデック処理はCPU負荷が非常に大きいため、これをGPUにオフロードすることでCPUの負担を大幅に軽減することができます。メモリに作成された画面イメージを、ディスプレイポートやHDMIなどといったディスプレイインターフェイスを通じてディスプレイに送り出すのもGPUの役割で、最近では3画面以上を同時に処理できるものも増えてきています。

外部GPUの構造

外部GPUはPCIエクスプレスを介してCPUと接続されるグラフィックプロセッサで、CPUとは桁違いのメモリバス帯域を必要とするため、専用のビデオメモリ(GDDR5-SDRAMやHBMなど)と接続して使用されます。

統合GPUと外部GPU

GPUにはCPUに内蔵される統合GPU(CPU内蔵GPU)と、CPU外部に接続される独立GPUがあります。統合GPUはCPUとメインメモリを共有し、性能に限界がありますが、外部GPUは高速な専用ビデオメモリを備え、高性能を売りにしたものが多いです。

GPUの内部ブロック

外部GPUの内部は膨大な数の演算ユニットを持つ超並列プロセッサで構成されています。演算ユニットの数は少ないものでも百数十個、多いものでは数千個におよび、これが内蔵GPUとの性能の違いとなっています。

進化が著しいMacの重要デバイス『ディスプレイ』

ディスプレイはMacにとってもっとも重要なユーザインターフェイスであり、近年の進化が著しいデバイスの1つです。GPUによってビデオメモリ、またはメインメモリの一部から読み出された画面データは、HDMIやディスプレイポートなどのディスプレイインターフェイスを通じてディスプレイに伝達され表示されます。最近のMacのディスプレイにはすべて液晶パネルが採用されており、その光源としては白色LEDによるバックライトシステムが組み込まれています。

液晶パネルは電界によって光の透過率を制御する仕組みで、液体の液晶体をガラス基板でサンドイッチした構造になっています。ガラス基板には透明電極と配線、その交点にトランジスタが印刷されており、そこに印加された電圧に応じて液晶体の傾きが変化し、光の透過率を制御します。1つのピクセル(画素)は3つの長方形のセルで構成されており、それぞれ赤(R)・緑(G)・青(B)の3色のカラーフィルタが取り付けられています。この光の三原色(RGB)のバランスをセルの透過率を変化させることで、ピクセルごとに任意の色を表現できるという仕組みです。

液晶パネルの解像度はこのピクセル(画素)が縦・横にいくつ並んでいるかを表したもので、フルHDの場合は1920(横)×1080(縦)ピクセルとなります。レティナディスプレイの場合には、従来のディスプレイと同じ大きさ(表示サイズ)で解像度が約2倍のパネルが採用されているため、非常に精細で美しい表示が得られます。

液晶体の駆動方式には大きく分けてTN方式とIPS方式があり、それぞれ液晶体を駆動する電極の配置と、液晶体の回転方向が異なります。TN方式はブラインドのように奥行き方向に液晶体が回転する方式で、構造が簡単で低価格化しやすい反面、視野角(特に上下方向)がやや狭いという欠点があります。IPS方式はパネル面に対して水平に液晶体が回転する方式で、非常に視野角が広く正しい色が得られやすい反面、光の透過率が低めで構造上価格が高めという欠点があります。Macでは主にレティナディスプレイにIPS方式が、それ以外のモデルにTN方式が採用されています。

最近はバックライト光源であるLEDやカラーフィルタを改良することで、よりリアルかつビビッドな色表現を実現する「広色域パネル」を採用するモデルが増えています。iMac・レティナ5Kモデルは、2色蛍光体を採用する白色LEDと新しい補償フィルムの組み合わせにより従来より25%も色域を拡大し、表現能力を強化しています。

ディスプレイ構造

iMac・レティナ5KモデルやMacBook(12インチ)などでは、液晶パネルと保護ガラスのすき間をガラスと屈折率の近い樹脂で充填し、2枚のガラス内での乱反射や屈折を最小限に抑えることでコントラストや視認性を大きく向上させています。

5K/4K解像度

4Kは現行テレビ放送(フルHD)の2倍、5Kは2.5倍の画面解像度を持っています。レティナティスプレイは表示サイズを変えることなく高解像度のパネルを採用することで、よりきめ細かく鮮鋭な画面表示を実現しています。

レティナディスプレイ

レティナディスプレイとは、従来のディスプレイの2倍程度の細かいピクセル(画素)ピッチを有するアップル独自のディスプレイで、サイズはそのままで解像度が2倍前後と非常に高いのが特徴です。アイコンなどを拡大することで実力を確認できます。

高色域ディスプレイ

iMac・レティナ5Kモデルは光源LEDや補償フィルムの改良により、従来のsRGBを大きく上回るDCI-P3ベースの色域をカバーし、色表現能力を25%拡大しています。これは、特に正確な色表現を求めるデザインワークには重要なポイントです。

IPS液晶のしくみ

IPS方式の液晶パネルの動作原理。2枚のガラス板にサンドイッチされた液晶体に電圧を加えることで液晶体を回転させ、ガラス板の両サイドに配置された偏光膜との角度を調整することで光の透過率を自在にコントロールしています。

HDR(ハイ・ダイナミックレンジ)

iMac・レティナ5KモデルはMac搭載のディスプレイとしては初となる10ビット階調をサポートし、明るさのダイナミックレンジを大幅に拡大しています。これにより、暗部の細部表現や高輝度領域の表現能力が大幅に向上しています。