【1時限目】3Dデータを成形しよう
不要部分の除去
CADツールを使って作成された3Dデータは基本的に必要な要素のみで構成されますが、3Dスキャナや「123Dキャッチ(123D Catch)」アプリで生成された3Dデータには、不要なディテールが生じます。現在の技術では「ユーザの頭の中にある3Dデータ化すべき範囲」を完全には把握できないためです。
そこで、不要部分の除去作業が必須となり、筆者は、無料の「メッシュミキサー(Mesh mixer)」というツール(http://www.meshmixer.com/download.html)を利用しています。
また、3Dプリンタは、印刷しようとするものの表面がデータとして完全に定義されていないとエラーが生じ、正しく印刷することができません。
たとえば、ある物体を普通に3Dスキャン(または撮影)しても、底面や陰になった部分は取り込まれず、データ的に未定義の状態になり、穴が空いたように表示されてしまうのです。メッシュミキサーは、この穴を埋めてソリッド(中身の詰まった)3Dデータにするためにも利用できます。さっそくメッシュミキサーで成形する方法を解説していきましょう。
Meshmixerでデータを成形しよう
(1)アップロードされたモデルを探す
123Dキャッチで生成した3Dモデルは、自動的に「123dapp.com」のクラウドストレージに保存されます。非公開設定のモデルならば自分の作品ページから、公開モデルの場合は、検索機能などを利用して見つけ、右上のメニューから[Download 3D Models]を選びます。
(2)STLファイルのダウンロード
3種類のファイルをダウンロードできるダイアログが表示されます。実際に、単色の3Dプリントで必要なのは一番上のSTLファイルのみで、「Mesh Package」はテクスチャ付きのOBJファイル、「Photo Package」は撮影時の個々のフォトイメージです。
(3)Meshmixerでの読み込み
ダウンロードしたSTLファイルを、メッシュミキサー内に読み込みます。アプリ起動後に表示されるアイコンメニューから[インポート]をクリックし、ファイル選択のダイアログボックスから該当するファイル名を選びましょう。
(4)不要範囲の指定
読み込まれた直後の3Dデータには、たいてい不要な部分(下に敷いた布など)が含まれています。矢印型の[選択]アイコンを選ぶと、ブラシまたは投げ縄を使っての範囲指定が可能となるので、適宜、塗りつぶしたり囲ったりして不要なところを選択してください。
(5)不要部分の除去
選択は[選択をクリア]するまで追加的に行われ、選択された領域に対して適用できる処理のメニューが自動的に表示されます。除去する範囲が決まったら[編集]メニューから[破棄]を選んでください。この作業を、不要部分がなくなるまで繰り返します。
(6)中間的な修正結果
不要部分の除去が完了した状態のフィギュアの3Dデータ。一見すると完全な状態に思えますが、実際には床面と接する部分が平らではなく、この角度からは見えないものの底面が閉じていない状態です。そこで、この部分を平滑化して閉じることが必要となります。
(7)底面の平滑化(その1)
球の一部を引っ張っているようなデザインの[編集]アイコンをクリックし、[面でカット]を選択すると、このような「Plane Cut」の編集画面となります。デフォルトでは、カットする面がオブジェクトの中心に位置しているので、この高さの変更が必要です。
(8)底面の平滑化(その2)
上方向を指している青い矢印をドラッグすることで、カット面を上下に動かせます。デフォルト設定のまま、足元のギザギザにかからないところまでカット面を下げ、[適用]ボタンをクリック。すると、その位置に平らな面が付加されてオブジェクトが閉じます。
(9)STLファイルとして保存
最後に[ファイル]メニューから[エクスポート]コマンドを選び、修正済みのデータをSTLのアスキー形式かバイナリ形式で保存します。前者は人が見たときに可読性が高く、後者はファイルサイズが小さいことが特徴ですが、内容は等しいのでどちらで構いません。
(10)穴など不具合の修復
なお、単純に穴を埋める処理を行う場合には、球体にメッシュ模様付きデザインの「解析」アイコンをクリックして[検証]を選んでください。すると不備のある部分が検出され、[フラットな埋め]の設定で[すべて自動修復]を選ぶと該当箇所が平らに埋まります。
【2時限目】3Dプリンタを使おう
さて、実際に市販の3Dプリンタを使って、基本的なセットアップからプリントソフトの設定、そして最終的な出力までの流れを見ていきましょう。
利用したのは、日本と同じようにメイカーズ系の動きが盛り上がりを見せる台湾のXYZプリンティング製の中堅モデル「ダヴィンチ Jr. 1.0w」です。最小0.1ミリ(100ミクロン)のレイヤー厚とiPadなどからのWi−Fi経由のワイヤレス3Dプリント機能を備えながらも、価格を6万円以下に抑えたことが大きな特徴。SDカードスロットを利用すれば、製品単体で3Dプリントを行うことも可能となっています。
ただし、最初のセットアップの際には、MacやPCをUSBケーブルで接続し、専用ソフトの「XYZware」を使ってプリンタのファームウェアアップデートを行ったほうがよいでしょう。ここでは、筆者のMacBookから出力するためにUSBケーブルを用いて接続を行いました。
トルコのフィギュアのデータは原寸よりも多少大きめで印刷し、「品質:良い」を選択して約2時間で出力が完了。スキャン時の精度の制約からディテールに甘さも見られますが、十分満足できる結果といえるでしょう。
ダヴィンチ Jr. 1.0w
【販売】XYZプリンティングジャパン
【価格】本体:5万9800円、専用PLAフィラメント:3280円
【サイズ】420(W)x360(H)x430(D)mm
【重量】15kg
【備考】最大造形サイズ:150(W)x150(H)x150(D)mm
3Dプリントするデータは、前回123Dキャッチを使ってスキャンし、上で調整を行った、トルコの土産物のフィギュアのものを利用します。
実際にプリントしてみよう!
(1)親しみある3Dプリンタの外観
透光性の樹脂パネルと初代iMacを思わせるカラーリングを持つダヴィンチ Jr. 1.0wは、可動式のエクストルーダ(造形ヘッド)とプリントプラットフォームを持ち、フィラメントを送り込む材料注入モジュールが独立した構造です。
(2)フィラメントの装着
フィラメントのスプーラは筐体内蔵式で、すっきりした外観に貢献。エクストルーダをX軸の左端に寄せ、付属のガイドチューブを材料注入モジュールとの間に取り付けたのち、内部ギアを開放するリリースアームを引きながら挿入口にフィラメントの先端を差し込みます。
(3)フィラメントのローディング
ダヴィンチ Jr. 1.0wは、フィラメントのオートローディング機構を備えており、液晶ディスプレイのメニューから[ロードフィラメント]を選択すれば、あとは機械まかせで作業が進みます。フィラメント交換の際には[アンロードフィラメント]を選んでください。
(4)ローディング完了の確認
エクストルーダのプレヒート後、フィラメントが送り込まれて、溶けた樹脂が垂れてくるようになれば準備完了です(エクストルーダは約200度の高温になるので要注意)。挿入時にフィラメントの先端を斜めにカットしておくとローディング処理がスムースに進みます。
(5)XYZwareの起動とデータの読み込み
専用ソフトのXYZwareを起動し、用意しておいた3Dデータ(ここでは3DスキャンしたトルコのフィギュアのSTLファイル)を読み込みます。データによってはプリントプラットフォームから浮いた状態になるので、その場合には、位置調整のアイコンメニューから[着地]を選択しておきましょう。
(6)プリントの開始と基本設定
プリントアイコンを選択すると、印刷設定が表示されます。ここでは、速度とのバランスから品質を[良い]に設定。材料は[PLA]のまま、[底辺][サポート][自動修復]にチェックを入れました。[ラフト]は造形物の接地面が広い場合に有効な歪み抑制のための下地ですが、今回はオフ(→[底辺]が自動選択)にしています。
(7)プリンタへのスライスデータ転送
XYZwareは、データのスライス(積層データへの変換)機能とプリンタ制御機能を併せ持っていて、自動的にスライスデータが生成されます。スライス処理が完了すると、データがプリンタに送られ、実際の印刷を開始。画面上のイメージにも腕部分の直下にサポートが付き、出力後の姿をイメージ可能です。
(8)プリントモニタによる進捗確認
プリント中も、画面右下のプリントモニタアイコンをクリックすると、エクストルーダの加熱状態や残り時間などを確認できます。また、プリンタ本体の液晶ディスプレイにも印刷状況の情報が表示されるため、しばらくその場を離れて別の作業を行うような場合でも、いつ確認すれば良いかの目安が立てやすいのです。
(9)目視による印刷状況のチェック
出力途中の様子。自動生成のサポート部分は樹脂の密度が低く、後からの除去が楽に行えるように積層されていることがわかるでしょう。また、等高線のようなレイヤーは、出力時の品質を高めるほど目立たなくなります。ここでは[良い]を選んだので0.2ミリのレイヤー厚ですが、最高の0.1ミリにすれば、倍の細かさになります(ただし、出力時間も約2倍ですが)。
(10)プラットフォームから造形物の取り外し
出力完了後に、フィギュアをプリントプラットフォームから外しているところ。プラットフォームには印刷作業ごとに同梱のプラットフォームテープ(樹脂の密着性を高め、しかも取り外ししやすくする特殊なテープ。破れなければ再利用可能)を貼ることになっていて、少し力を加えれば造形物を分離できます(分離しにくい場合は、テープごと剥がします)。
(11)造形物からのサポート部分の除去
さらに、サポート部分の樹脂をフィギュア本体から除去していきます。除去作業は、ある程度までは手でパキパキ折るように簡単に行えますが、最後のバリのような部分がどうしても残るので、爪切りやニッパー、ヤスリなどを使って整えましょう。PLAは固まると非常に硬くなるため、怪我などしないように注意が必要です。
(12)オリジナルのフィギュアとの対面
完成した3Dプリントの造形物と、元になったトルコのフィギュア。ディテールはやや甘いものの、ポーズや表情を含めて雰囲気が良く再現されています。カメラ機能によるスキャンで、ここまでできてしまうのは驚異的です。プラモデル用のアクリル系塗料などを用いて塗装すればよりリアルになりますが、既製品のコピーはあくまでも個人利用の範囲に留めてください。
【3時限目】iPadプロとアップルペンシルで3Dモデリング
専用開発ならではの操作性
「シェーパー3D(Shapr 3D)」というアプリは、iPadプロのパワーとアップルペンシルの操作性が実現されたからこそ誕生した、新世代の3D CADツールです。
直線による図形描画だけでなく、スプライン曲線も利用することができ、直線モードでも描画途中でアップルペンシルの先端を軽く振るだけで弧の描画モードに切り替えられるなど、複雑な造形をシンプルなインターフェイスと最小限の操作でこなせるように工夫されています。
無料でダウンロードでき、アプリ内課金で有償のプロバージョンにすると本格的なCADツール用のファイル形式でのエクスポートもサポートされます。ただし、個人利用の3DプリントではSTLファイルの生成をサポートした無料版でも十分使えます。
無名のソフトハウスがゼロから開発したアプリなので、まだバグらしきものも残っていますが、オンラインフォーラムで吸い上げたユーザからの意見をバージョンアップに活かすなどの対応もなされていて、完成度も高まってきており、日本語対応も含めて今後の展開が楽しみです。
iPad Proで使いたい3Dモデリングアプリ
Shapr3D(シェーパー3D)
【開発】Shapr3D Zrt
【価格】無料(エクスポートファイルの形式や扱えるプロジェクト数が増えるプロバージョンへのアップグレードは3000円/月から)
iPadプロ専用に開発された3D CADツール。アップルペンシルでの操作と指のタッチを使い分けることで、今までにない使用感を実現。
直感的な操作感
デフォルトの右利き用のインターフェイスに加えて、ツールアイコンの位置などが反転した左利き用のレイアウトも選択でき、両者の切り替えもアイコンを長押しして左右に移動するだけで完了します。
Apple Pencil専用設計
スケッチ作業のほとんどをアップルペンシルで行い、指での操作と分離することで、左右の手を効率的に使って造形できます。また、ペン先を軽く振るだけで、直線と弧の描画切り替えが可能です。
充実のビデオチュートリアル
右下のアイコンメニューからチュートリアルを呼び出して映像によって基本機能をマスターできるほか、個々のツールを選んで[ i ]アイコンをタッチすれば個別のビデオチュートリアルが再生されます。
Shapr3Dの基本操作
自在のプッシュ&プル
線や平面は、特別なツールに切り替えることなく、アップルペンシルでタッチして押すか引くかするだけで、プッシュ(穴あけ)やプル(厚み付け)の処理ができます。
オブジェクト表面に直接スケッチ
既存の面の上にも、グリッド面と同じように直接アップルペンシルで3Dスケッチし、そのままプッシュ&プルなどの加工ができます。
角面、丸面への面取りも簡単
オブジェクトの角または隅を斜めに加工する面取りも、辺をアップルペンシルで押したり(角面)引いたり(丸面)するだけで可能です。
自由曲面のサポート
ツールから[Transform Serface]を選んで面を指定し、峰となる線を追加してコントロールポイントを移動すると、膜を張ったような曲面が生成されます。
【SPECIAL COLUMN】Fabミニ四駆への道
〈 第4話 〉出場車両とライバルたち
新車の仮組みが完了
このコラムも最終回を迎えるにあたり、まずは、筆者の今年の参加車両の1台となる「ゴジュウオン・ステープラー号」が、仮組み状態まで漕ぎ着けたことを報告しておきます。前回触れたように、昨年の鉛筆型の1号車(下の写真参照)に続き、東京・銀座の文具店「五十音」のスポンサードを受けて参加するこの車両は、ホッチキス(ステープラー)をモチーフとし、実際にも紙を綴じられるという機能性車両(?)です。
現状では上のようにほぼ構想どおりの仕上がりですが、実際にはここからマスダンパー機構の組み込みや、四隅のローラーの煮詰めを行っていきます。
マスダンパーとは、ジャンプからの着地時に車両本体よりも遅れて落下する重り(マス)のことで、車体のハネを抑制する機能があります(たとえば、鉛筆型の「ゴジュウオン・アイテター号」では、前端と前輪後方の左右に見える計4個の金色のパーツがマスダンパー)。しかし、最近では後ろヒンジでシャシーとつないだボディシェル自体にマスダンパー機能を持たせる「ボディ提灯」と呼ばれる技法が主流化しており、「ゴジュウオン・ステープラー号」でも、ホッチキスがちょうどうしろヒンジなので、上部カバーにそれ風の役割を持たせるつもりです。
また、四隅のローラーは、前回優勝の決め手となった逆円錐形の「大谷ローラー」の改良版を装着予定で、剛性としなやかさのバランスが鍵となります。
Fabミニ四駆カップ2016
そして、前回の欄外で触れた、Fabミニ四駆カップ2016参加予定者によるキックオフミーティングの模様もお伝えしておきましょう。
昨年の大会参加者や新たな参加予定者、併せて40名ほどが集結したミーティングでは、新旧車両の展示や試走と並行して、オーガナイザーからの趣旨説明や今年のレースの大まかな方向性の発表、前回の入賞者によるスピーチなどがあり、皆、レース当日が待ちきれないという様子でした。
今年も本レースの会場はコクヨ エコライブオフィス品川ですが、開催日は初夏の7月16日(土)と昨年よりも2ヶ月半ほど遅くなり、車両開発のリードタイムが十分に確保されました。その間に、カーデザインや電子工作系の関連ワークショップも開催され、初心者でも気後れせず車両開発やエントリーができる配慮もあります。
のあたりの情報は、すべて公式ページ〈http://fabmini4wd.com/〉で提供されるので、興味のある方はぜひチェックしてください。
筆者は、前回のマジFabクラス優勝車(右)とトロフィー、鉛筆型のゴジュウオン・アイテター号、さらに新作として3D造形ペンの「3Doodler 2.0」で作ったオレンジ色のオープンスポーツ(?)を持ち込みました。
前回のカルFabクラス優勝者の圓田歩さんは、その後、CADアプリの「Fusion360」と3Dプリンタを駆使したボディデザインにハマり、市販のプラモデルと見紛うような自作車両(と箱)を次々に開発しています。
筆者は、そこまで手が回らないのですが、箱にも凝る参加者が目立ってきました。これは、プロのカーデザイナー2名で構成されるデザインユニットt-o-f-uの作品で、実際の車両もCGそのままの仕上がりでした。
箱だけでなくキャリングケースにも力を入れているのが、ホンダのデザイナーチームです。カーブに強いオムニホイール装着車やテオ・ヤンセン風16足マシンに混じって、スケールモデルにしか見えないS660が光ります。
【豆知識】
3Dデータの不備や不具合は、造形物をプリントできない大きな要因です。出力サービスの中には、軽微な修正であればプリント前に行ってくれるところもありますが、基本的には依頼する側の自己責任となりますので、事前にしっかり確認するようにしましょう。
【豆知識】
3Dプリンタの専用出力アプリの中にも、軽微なデータの修正を自動で行ってくれるものもあります。たとえば、次のセクションに出てくるXYZwareもその1つです。ただし、それは印刷時の処理で、データ自体が修正・保存されるわけではない点に注意してください。
【豆知識】
OS Xエルキャピタンでは、ファインダのクイックルック機能やプレビューアプリで3Dデータ(STL/OBJ形式)を開けます。3D CADアプリを起動せずに内容確認や回転・拡大・縮小操作ができるので便利です。また、カバーフローモードでも3Dデータ表示ができます。
【豆知識】
XYZプリンティングのハイエンドモデルには、3Dプリントと3Dスキャン機能に加えて、オプションモジュールを装着することでレーザ刻印まで可能な「ダヴィンチ 1.0 Pro 3in1」もあります。価格的にはダヴィンチ Jr. 1.0wの倍以上しますが、興味深いマシンです。
【豆知識】
シェーパー3Dは単体でもさまざまな造形が可能ですが、より高度なCADツールのための3Dスケッチツールとしての意味合いもあります。同様のアプリには、よりスケッチ色の強い「UMake」があり、3Dモデルの大まかなアイデアを手早くまとめるのに向くツールです。
【大会】
今回のキックオフミーティングで展示された車両は、当然ながら個々の参加者が公開可能と判断したもの。筆者を含め、構想/開発中で持ち込めない新車両も控えていた一方、まだ手の内は明かせないという思惑もあったはず。レース当日のサプライズが楽しみです。