9.7インチへの回帰
注目のiPadプロの新モデルは、これまでもっとも人気の高いサイズであり、累計で2億台が販売された9.7インチのサイズで登場した。その名称が「iPadエア3」ではないということに、少なくとも現行のiPadエア2の単なるメジャーバージョンアップではないことが読み取れる。その証左として、上級副社長のフィル・シラー氏は発表の中で、5年以上前のウィンドウズPCがまだ600万台も使われている現状を嘆き、「iPadプロこそがPCの最高の代わりになる」ことを強調した。これは実際にビジネスやクリエイティブの現場でiPadプロを選ぶユーザが増え始めていることを踏まえた発言と考えられる。
その外見やサイズだけ見るとiPadエア2と大きな変化はなく、ローズゴールドカラーが増えただけのように思えるかもしれないが、9.7インチのiPadプロはCPU「A9X」を搭載し、ストレージ容量も新たに256GBが用意される。さらにディスプレイ表示やカメラ性能に至っては12・9インチモデルを凌駕するなど、単なる小型版iPadプロではなく、iPadの最先端をいくモデルとなっている。これもすべての古いウィンドウズPCをリプレイスして、コンピューティング環境を刷新するという大きな役目を担うための戦略であり、その覚悟の表明と見ることもできそうだ。
カラーバリエーションは4種類
シルバー、ゴールド、スペースグレイに加え、12.9インチにはないローズゴールドが追加されてカラバリは4色展開となる。ストレージは32GB、128GB、256GBの3種類。
12.9インチと比べたサイズ感は?
片手で持つには少し大きすぎる感のあった12.9インチモデルと比べると、iPadエア2でも馴染みのある9.7インチは手頃なサイズ。写真やビデオ、電子ブックなどのコンテンツビューワにも最適だ。
4スピーカのオーディオ
12.9インチモデル同様、4基のHi-Fiスピーカを内蔵して音量・音質の向上を図っている。設置方向に合わせて常に上部のスピーカから高周波成分が自動的に出力されるなどの工夫もある。
新しいアダプタに対応
高速化された「Lightning – USB 3カメラアダプタ」などのアクセサリに対応し、デジタルカメラの写真などを簡単に転送できる。ただし、12.9インチではUSB3.0の転送速度だが、9.7インチではUSB2.0の速度となる。
【Key Feature】ディスプレイ
iPad史上もっとも明るくナイトシフト対応でより見やすく
9.7インチiPadプロ最大の進化がディスプレイだ。画面解像度こそiPadエア2と共通の2048×1536ピクセルのレティナディスプレイ(画素密度は264ppi)だが、その輝度や色再現性、反射防止コーティングの性能は格段に向上した。アップルの説明によれば、iPadエア2と比較して光の反射は40%抑制され、明るさは500nits(カンデラ/平方メートル)、彩度は25%向上するなど、これまでのiPadシリーズの中でもっとも明るく、発色の良い「広色域ディスプレイ」になったという。フィル・シラー上級副社長が「プロディスプレイ」と呼ぶこれは、12.9インチのiPadプロに搭載されたディスプレイの性能をも上回っているもので、現在もっとも先進的なタブレット用の表示を実現している。
さらに、4チャンネルの環境光センサを用いて、周囲の明るさの変化に合わせてディスプレイの色と明るさを自動的に調整する「トゥルートーンディスプレイ」を採用している(12.9インチには非搭載)。これに、今回の発表のタイミングでアップデートが配布されたiOS 9.3で新たに採用された「ナイトシフト」機能を組み合わせることによって、夕方になるとディスプレイは白昼よりも黄色みを増した暖色系の表示へと徐々に切り替わって、夜には明るさも最適化されて、目にダメージを与えるとされるブルーライトもカットできる。色温度のバランスが自動で変化することが心配な人がいるかもしれないが、むしろ従来よりも正確なホワイトバランス設定がなされ、自然な物の見え方に近づくことになる。
もっとも先進的なディスプレイ
iPadシリーズでもっとも明るく、色再現がよく、見やすいディスプレイを搭載した。これだけでも9.7インチのiPadプロを選ぶ理由になるだろう。
色再現と色温度の自動調整
環境光に合わせてディスプレイの色と明度を自動的に調整されるトゥルートーンディスプレイの採用で「紙を見ているのと同じ感覚」をiPadで体感できる。
【Key Feature】プロセッサ
最新A9Xチップ搭載でプロの作業も楽々こなす
9.7インチのiPadプロに搭載されるCPUは、12・9インチモデルと同じ第3世代の64ビットSoC(システムオンチップ)の「A9X」だ。性能は公称値でiPadエア2に搭載された「A8X」の最大約1.7倍、GPU性能も最大約2倍のパフォーマンスとなっているが、12・9インチモデル搭載のクアッドコアのA9Xよりわずかに処理能力は抑えられている。詳細な仕様は公開されていないが、メモリは2GBと判明しており、そこが12・9インチとの性能差の要因だといえよう。とはいえ、12・9インチモデル同様に、4Kビデオの編集やスプリットビューでの2画面同時使用など、複雑なタスクを難なくこなすことができるポテンシャルを持っている。
また、チップ内にモーションコプロセッサ「M9」を組み込むことで、加速度センサや電子コンパスなどからの情報処理を低消費電力で行えるのも特徴だ。このM9の機能を利用することで、いつでも「Hey Siri」と話しかけてシリを呼び出し、さまざまな操作を実行できる。
ハイパフォーマンスなCPUを搭載しているiPadプロだが、Wi-Fiでのインターネット利用、ビデオ再生、オーディオ再生がそれぞれ最大10時間、Wi-Fi+セルラーモデルでのインターネット利用が最大9時間という駆動時間をキープしている。それを支えるのは27・5Whの容量を持つリチウムポリマーバッテリだ。スペック上は38・5Whの容量を持つ12・9インチモデルと同じ駆動時間ではあるが、その余力は次ページで紹介する強化されたカメラ機能などに割り振られているものと考えられる。
PCに匹敵するCPU性能
単純な比較は難しいが、ローエンドのMacBookの8~9割程度のパフォーマンスを持つA9Xチップを搭載する。型落ちのウィンドウズPCの置き換えには十分すぎる性能といえるだろう。
3Dゲームも4K動画編集も可能
3Dを駆使したゲームやCADソフトも問題なく動作する。フラッシュストレージからのデータ読み出し/書き込みを制御するコントローラも強力なので、4K動画の編集もスムースだ。
【Key Feature】カメラ
iPadシリーズ最高のカメラ性能
4Kビデオ撮影も思いのまま
12.9インチのiPadプロに対して、9.7インチiPadプロの最大のアドバンテージとなるのが強力なカメラ性能だ。背面のアイサイトカメラに搭載されたCMOSセンサの画素数はiPhone 6sに匹敵する1200万画素(12・9インチは800万画素)で、オートフォーカスを高速化するフォーカスピクセルを採用している。
また、被写体に対して最適な色温度で撮影できる2LEDのトゥルートーンフラッシュもiPadシリーズで初めて搭載し、明るいF2.2のレンズ、自動HDR撮影やタイムラプス撮影時の手ぶれ補正機能など12・9インチのカメラスペックを大きく上回る。さらには、1080p(120fps)/720p(240fps)のスローモーションビデオや、動く写真が撮影できるライブフォト、最大63メガピクセルのパノラマ写真、加えて4K動画撮影(3840×2160ピクセル)をサポートするなど、最新モデルならではの充実ぶりだ。
そして、フロントのフェイスタイムHDカメラも12・9インチの120万画素に対して500万画素となり、iPhone 6sと同様の性能を誇る。こちらもトゥルートーンに対応するほか、暗い場所での撮影の際にディスプレイ全体がフラッシュとして発光するレティナフラッシュに対応するので、セルフィーが美しく撮影できる。
このように非の打ち所のないように思える高性能カメラだが、iPhone 6/6sでも一部の批判を浴びたレンズ部分のわずかな「飛び出し」が解消できなかったのは惜しいかもしれない。
iPad史上最高のカメラ
現状のiPadシリーズで最高のパフォーマンスを持つカメラを採用。写真やビデオをクリエイティブに利用したいユーザにとって最善の選択になることは間違いない。
6s同様のレンズの出っ張り
背面のアイサイトカメラはサファイアクリスタル製レンズカバー部分がわずかに突出している。気になる場合はケースを着用するとよいだろう。
【Key Feature】キーボード&ペンシル
9.7インチ専用のスマートキーボード登場
もちろんアップルペンシルにも対応
iPadプロならではの入力機器である、スマートキーボードとアップルペンシルにはもちろん対応する。しかし、スマートキーボードは12・9インチ用より一回り小型の専用品で、現時点でキー配列は英語、色はグレイのみとなっている(税別1万6800円)。iPadプロ本体とワンタッチで接続できるスマートコネクタに対応しているので、ペアリングや充電の手間がかからないのも利点だ。また、アップル・ペンシル(税別1万1800円)は12・9インチと共通で、ライトニングコネクタに接続して充電できる。
キーボードは専用品
カバーとスタンド機能を兼ねたスマートキーボードが9.7インチ用に販売される。アップルペンシルは12.9インチと共用可能だ。
【Key Feature】ワイヤレス
LTEアドバンスト対応で通信速度が最大300Mbps
ワイヤレスのデータ通信機能は、従来同様にWi-FiモデルとWi-Fi+セルラーモデルが用意される。どちらも802・11acのWi-Fiとブルートゥース4.2、MIMOに対応しており、後者はiPhone 6sと同じくLTEアドバンストに対応し、理論値では12・9インチiPadプロの150Mbpsを上回る300MbpsのLTE通信が可能だ。また、12・9インチでは別売り対応だったアップルSIMを内蔵することで、海外旅行時に提携先のキャリアで通信できる。
高速なワイヤレス通信
データ通信の接続性がiPhone 6s同等になった9.7インチiPadプロ。LTEバンドも23バンド対応で、国内はもとより海外でも活用できる。
iPadシリーズ ラインアップ
iPadの世代交代
最後にiPadシリーズ全体のラインアップを確認しよう。今回発表された9.7インチのiPadプロはストレージの容量別に32GB/128GB、さらに今回初投入となる256GBの3モデルがある。価格については上記表を参照してほしい。一番安いWi-Fiの32GBモデルではドル円のレートが記事執筆時の為替レートに近い約112円と設定されており、アップルの他製品よりも比較的好条件で購入できるのは見逃せない。
また、12.7インチのiPadプロにも256GBが新たにラインアップされると同時に、中間の容量である64GBモデルは終息となった。さらにiPadエア2は全モデル9000円の大幅値下げが実施されて併売される一方で、従来の128GBモデルがなくなった。そのほか、初代のiPadエアが廃されるなど、9.7インチiPadの世代交代が大きく進んだ格好だ。さらに小さな7.9インチのレティナディスプレイを搭載したiPadミニ4とiPadミニ2は、そのまま変わらず残されている。
なお、9.7インチのiPadプロで256GBのWi-Fi+セルラーモデルにアップルペンシルとスマートキーボードを足すと約15万円。MacBookシリーズのエントリーモデルとほぼ同等の価格帯となり、非常に悩ましい選択となるだろう。