Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

第6話 先入観という無意識を意識する

著者: 三橋ゆか里

第6話 先入観という無意識を意識する

私が住むロサンゼルスの特徴に、人種の多様性があります。そんな環境で暮らしていると、自分が無意識に持つバイアスや先入観に気づく機会が、実に頻繁に訪れます。

バイアスは、私たちの社会のありとあらゆるところにはびこっています。ソフトウェア開発のコラボレーションプラットフォーム「GitHub」の140万人のユーザを対象にした調査で、興味深い報告を目にしました。プログラマーの性別が女性であることを伏せた場合と明かした場合とでは、同じコードであるにも関わらず、その承認率は前者のほうが10ポイント近く高くなるというのです。まだまだ少数派に留まる女性プログラマーに対し、ある種の偏見が持たれていることを明らかにした報告でした。同調査では、「女性のほうが男性よりもプログラミング能力に長けている」という結果も報告されており、「プログラミングは男性がやるもの、だから男性のほうが得意だろう」という、世間のバイアスを打ち壊す結果になってくれればと思います。

知らず知らずのうちに、私たちの中に蓄積されるバイアス。昨今、企業にはその採用プロセスで、こうしたバイアスを取り除く「anonymous recruiting」(匿名採用)と呼ばれる動きが見られます。バイアスがかかりうる隙を除去することで、実力主義で多様なチームを形成する目的です。

28都市にまたぐ遠隔チームを持つ「Help Scout」は、その採用プロセスに4~6時間のプロジェクトを取り入れています。その成果は社員なら誰でもチェックできる仕組みなのですが、この際、採用候補者の指名や人種、性別などは明かされません。純粋にプロジェクトの成果だけに目が向けられることで、バイアスのない正当な評価につながっています。

イギリスのホスティング会社「Bytemark」もまた、匿名の採用を行っています。本名すら聞かず、まず聞くのは「なぜ自分がそのポジションに適しているのか」「自分が長けたスキル、磨きたいスキルは何か」です。一次選考のあとは、20分のチャットと2~4時間のスキルテストをオンラインで実施。採用候補者についての情報が少ないことで、質問や会話があくまでスキルや仕事にフォーカスされます。

ここ数年で、企業の匿名採用を後押しするためのサービスも登場しているようです。その一例が、独自のアルゴリズムを活用し、企業と採用候補者をマッチングする「WhiteTruffle」。プロフィールは匿名で、スキルや職歴など企業がもっとも知りたい情報だけを表示することで、肝心なことに基づいたマッチングを実現してくれます。

また、「Unitive」は、採用の意思決定に潜む無意識のバイアスを特定し、それを未然にアラート通知してくれるサービス。たとえば、スキルや能力はほかの候補者のほうが優れていても、前任の人に見た目が似ているというような理由で親近感が湧き、特定の候補者を優遇するような採用をしてしまうかもしれない。このような無意識のバイアスを特定することで、適材適所や多様なチーム作りを後押ししてくれます。

書籍『7つの習慣』で知られるスティーブン・R・コヴィー氏は、“Strength lies in differences, not in similarities.”(強みは、類似性にではなく相違性にこそ宿る)と言っています。企業やチームもこれと同じです。似た者同士ばかりの集まりではなく、チームに多様性があることでインスピレーションが生まれ、イノベーションに近づくことができる。

人種という明らかな違いを感じる機会が少ない日本でも、性別、出身地、最終学歴などのバイアスは少なからず存在します。先入観だけで、最初から物事を決めつけてかかっていることがどれだけ多いことか。それを完全に拭い去ることは不可能でしょうが、自分たちの中にその存在を認識することは大きな一歩だと思うのです。

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。

【URL】http://www.techdoll.jp