Mac業界の最新動向はもちろん、読者の皆様にいち早くお伝えしたい重要な情報、
日々の取材活動や編集作業を通して感じた雑感などを読みやすいスタイルで提供します。

Mac Fan メールマガジン

掲載日:

第5話 テクノロジーが底上げする医療のユーザ体験

著者: 三橋ゆか里

第5話 テクノロジーが底上げする医療のユーザ体験

PillPack 【URL】https://www.pillpack.com

世の中に、健康を無視して生きていける人はいません。ところが、必要なケアを手に入れるまでのプロセスは、やたらと手間がかかり複雑なものになりがちです。私の暮らす米国では、「免許の更新のほうが、初めて医師にかかるときよりも必要な書類が少ない」という人もいるほど。医療やヘルスケアの領域には「困りごと」が山積みで、そこには改善の余地が大いにあります。

そんな利用者の不便を解決しようとさまざまなサービスが登場しており、市場規模が年々拡大しているのは、日本も米国も同じことでしょう。そんな有望な市場を、事業者各社も見過ごしてはいません。ある調査によれば、フォーチュン誌が発表した「世界でもっとも賞賛される企業」(2013年版)に名を連ねる企業のうち、その半数がヘルスケア市場に参入しているとか。

日本でも、2015年8月に厚生労働省が遠隔医療の法律を規制緩和したことで、今後、さまざまな医療の選択肢が生まれてくるはずです。今回は、そうした未来の医療におけるヒントとなるような、米国のヘルスケアサービスを紹介したいと思います。

まずは、病院に出向くことなく、24時間いつでも医師と直接メッセージでやりとりできる「First Opinion」。医師の診察予約回数が毎年10億回を超える米国では、ちょっとした症状の確認など、その10回に7回は不要な訪問だといいます。First Opinionは、患者と医師双方の負担を軽減してくれるWEBサービス&アプリです。平均2時間半で返信が届くメッセージ機能は無料で、薬局に処方箋を送るなどの有料オプションサービスもあります。

写真を送ることで医師のアドバイスをあおぐことができるのが、皮膚科に特化した「First Derm」と「iDoc24」です。こちらもWEBとアプリで利用できます。皮膚に異常や変化が見られたときに、症状の特定や治療方法、緊急性の高さなどを教えてくれます。距離を考慮して専門医をマッチングしてくれるため、リアルとオンラインでのコミュニケーションが可能になります。

個人向けの遺伝子検査といえば「23and Me」が有名ですが、女性特有のガンに特化した遺伝子検査キットが「Color Genomics」です。19種類の遺伝子を包括的に分析することで、乳ガンと卵巣ガンのリスクを算出してくれるもの。米国での乳ガン発症率は全女性の8人に1人という割合で、毎年25万人の女性が何かしらの影響を受けています。従来4000ドルを下らなかった遺伝子検査を、オンライン上で手続きが完結するシンプルな仕組みなどによって、249ドルと圧倒的に手頃なものにし、病気の早期発見に貢献しています。

米国の10人に1人は、1日5つ以上の処方薬を服用しているといわれますから、調剤薬局の待ち時間が長いのも致し方ありません。「PillPack」は、薬を飲む「日」と「時間帯」で個別梱包して届けてくれる薬の定期配達サービス。調剤薬局の機能を独自に持っているため、再処方のタイミングになると自動で配達してくれるなど、薬局に足を運ぶ面倒を過去のものにしてくれます。

「YONO」は、夜眠る前につける耳栓型の基礎体温計です。朝起きて一番の体温ではなく、夜間ずっと体温を測ることでより正確な基礎体温を測定。忙しい朝に体温計をくわえてじっと待つ必要はなく、測定結果は連動アプリで確認できます。クラウドファンディングで資金を調達し、2016年春の出荷を目指して鋭意開発中です。

広義で考えれば、医療だって、レストランで食事をしたり、お店で洋服を買ったりするのと同じ「サービス」です。にもかかわらず、医療のサービスを受ける消費者は完全に受け身でした。テクノロジーを活用して、リアルな医療を補完したり、まだない形を提供したりすることで、今後、医療の包括的なユーザ体験の向上が期待できるはずです。

Yukari Mitsuhashi

米国LA在住のライター。ITベンチャーを経て2010年に独立し、国内外のIT企業を取材する。ニューズウィーク日本版やIT系メディアなどで執筆。映画「ソーシャル・ネットワーク」の字幕監修にも携わる。

【URL】http://www.techdoll.jp